第4話 姫と騎士3

アレフとエレナが隠れている森の中で20代の少し軽薄そうな青年と,40歳程度の筋骨隆々の男性が辺りを見回しながら歩いていた.

「ねえ,周りを全部吹き飛ばせば良いんじゃない?」


「はぁ,そんなことをして不用意に目立ってどうする?それだから,お前は,あの御方から名前を貰えないのだ」


「でも,もう二人殺したから,今更じゃん」


「はぁ,力あるが知能はまだまだだな.」


「だって,このままだと見つからないよ.早く帰りたい.」


「地道に探せ,相手は慎重だ,そう簡単にボロは出さないだろう.」


その時,だった,森の奥から強大な魔力が発せられた.その魔力は,明らかに魔法使いのものであり,名が知られていない宮廷魔法使いの魔力量として妥当なものであった.


「ボロ,だしたじゃん.」

軽薄そうな青年はそう言うと右手を魔力反応があった方向に構えた.


「待て,」

筋骨隆々な人物の静止より前に


青年の魔法は完成していた.右手は,熱の塊が出現しており

「我が主に捧ぐ光」

そう青年が叫ぶとその攻撃は真っすぐと,魔力反応があった方向に飛んだ.

熱光線は森の木々を真っすぐ焼き切って進んみ,魔力反応があった場所を消し飛ばした.


「やったー,これで終わり……」


「避けろ」


二人の上空には,無数の魔法陣が浮かんでおり,その魔方陣が光り輝くとそこから,無数の魔力光線が現れた.


無数の降り注ぐ魔法を,防御魔法で二人は防いだ.

(魔力量を考えると,さっきの攻撃と罠の使った魔力でおそらく魔力切れだ.だが,警戒はしておく必要がある.あの宮廷魔法使いは,何者だ.)

「何がおきてるの,だって,」


「バカが,場所を特定された.攻撃をあちらから仕掛けて来るとは,」


「だから,さっさと全部焼きは……」

そう,青年が軽薄に笑った瞬間,青年の胸を光が貫いた.


「何?」


「あれ,痛い?」

そう,青年が血反吐を吐きながら呟いた,それから,上部の攻撃を防いでいた防御魔法が消えて,青年に魔法の雨が降り注ぎ,青年は動きを止めた.死ぬまでは至っていなかったが,動けない程度の重症であった.


「……」

筋骨隆々の男は,魔法で死にかける青年に,冷たい表情を向けた.

(やはり,こいつは使えないな)


「あの魔法使いぶっ殺してやる.回復魔法をかけて」


「……そうか.使えないな.お前の魔力を私が貰おう.」


「えっ?」

筋骨隆々の男は,防御魔法を全体に張りながら,倒れている青年に近づくと,右手で青年に触れた.青年は,苦しみの声を上げて,いたがしばらくすると何も聞こえなくなった.


青年は塵になって消えた,その代わり,筋骨隆々の男の見た目が,少し若返った.


それから深呼吸をして,

「さて,宮廷魔法使い.交渉をしよう.」

そう筋骨隆々の男は叫んだ.


数秒して,声が返ってきた.

「何をですか?もしかして逃がしてくれますか?」

アレフの声であった.至る所から声が聞こえて,至る所に魔力反応があった.


「それは無理だ.お前は何者だ.」

(……こいつ,何だ.魔力量が異常だ.)


「下っ端宮廷魔法使い アレフです.」


「お前が下っ端か.ははは,終わっているなこの国は.お前,俺の部下にならないか.ちょうど今一人いなくなった.」


「……自分でトドメさしましたよね.」


「まあ,お前の実力なら,俺が殺すことはない.そんなところで下っ端でくすぶるぐらいなら,あの御方の下で新しい世界を作ろう」


「……遠慮しておきます.僕は神も悪魔も何も信じてないんですよ.てか,その宗教団体さんが,どうして姫を狙うんですか.」


「答える義理はない.まあ,仲間にならないなら死んでもらう.」


「そうですか.」

そう,アレフが答えた瞬間,筋骨隆々の男に向かって全方位から大量の魔法が放たれた.アレフは,不意打ちやだまし討ちをすることに一切のためらいはなかった.勝利の為に,手段は選ばなかった.

それに身体能力が低く,武芸の心得も無いアレフは,筋骨隆々の男と近接戦闘でまともに戦っても勝てる訳がないと判断して隠れて魔法の攻撃をする戦い方を選択したようだった.


(隠れて攻撃か.近接戦はしない,それなら,こちらも待つのみだ.)

筋骨隆々の男は,魔法の攻撃を防御魔法と身体能力強化を用いた高い身体能力で回避しつつ,アレフの魔力切れを待っていた.


無数の魔法が筋骨隆々の男に向かって飛ばされたが,その全ては避けられていた.

「降参しろ,アレフ.俺の部下として生きろ.あの御方に使えれば世界が変わるぞ」


「遠慮しておきますよ.さっき出来たばかりの主を裏切れないので」


「くだらないな.お前の攻撃は俺には当たらない.魔力が無くなるまで戦うか?」


「それは,まあ,どうにかしますよ.」

アレフは,淡々とそう答えた.


(何を考えている.いや,これもおとりか?つまり,本体はこの付近ではなく別の場所にいる?)


その時だった,疲れか油断か,一瞬,筋骨隆々の男の後方に魔力反応があった.

ほんの一瞬だったが,その反応を男は見逃さなかった.


「なるほどな,俺の勝ちだ.」

男は,そう叫びながら地面を蹴った.地面を強く,一度蹴るだけで,凄まじい速度が出て,魔力反応があった場所に一瞬で距離を詰めた.その体格と魔法による強化を踏まえると,近づかれると正面からの戦いでアレフに勝ち目などなかった.


筋骨隆々の男は,洞窟のような場所にたどり着くとそこには,笑っている人物がいた.彼は一瞬思考が停止した.


そこにいたのは,宮廷魔法使いのアレフではなく,第7皇女だったのだ.


「姫を囮に使う騎士ってどうなの?」

エレナはそう小さく笑った.


その声と共に横からアレフが飛び出して,杖を筋骨隆々の横っ腹に当てた.


それから,即座に魔法を発動させて,ゼロ距離で,魔法を放った.

その魔法は非常にシンプルな魔法であり,魔力をただぶつけるだけの魔法.しかし,近距離で残りの魔力をすべてぶつける.この破壊力は言うまでもなかった.


「なんだと」

その声を残して筋骨隆々の男は吹き飛んだ.



その場から,敵が消え去った様子を見て,アレフは満足げな表情を浮かべてから,顔を真っ青にしてその場で倒れた.

「大丈夫,アレフ」


「すいません,魔力が切れました」


「……しばらく動けないってこと?言っておくけど.私料理とか出来ないからね,アレフ.」


「……とりあえずしばらく寝るので,起こさないで下さい.しばらく,してから王宮に戻りましょう.」


「そう,ありがとうね,アレフ.これから,私の騎士としてよろしくね.」


王宮に戻った2人は,全ての指令が勘違いだったなど,さまざまな事を言われて事件そのものを揉み消された.おそらく,皇族の誰かが一枚噛んでいたのだろうが,それを2人が知るのは今は不可能だろう.


しかし,大きな成果があった.アレフとエレナはこうして出会った.

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