第5話 姫は人を雇いたい1
時間は現在に戻る.
エレナとアレフは現実を突きつけられていた.王宮の廊下で,二人は立ち尽くしていた.
「姫,どうしますか?」
「どうしますかって,どうしようか.アレフ」
ひとまず,正面から求人してみようと,城を周り色々な人に声をかけてみたが,やんわり断られるか,話しかける前に逃げられていた.孤児と呪われていると言われている皇女.この二人に関わりたい人は王宮にはいなかった.
「ああ,めんどくさいな.普通にやっても人すら集まりませんよね,それに高額な賃金を払える財力もありませんし.例えば,こんなのはどうですか?」
アレフは,大きくため息をついてから,話し始めた.
「めんどくさいとか,言わないの.それで,何?アレフ」
「まず,味方にしたい人を探します.」
「そうね,優秀な人材は結構,私知ってるわよ.」
「その人を魔法で罠にはめて,そこを二人で助けます」
「……うん?自作自演ってこと,嫌よ.」
「ですよね.」
アレフは,そう言って頭を抱えた.アレフの思いつく方法は,無理やり恩を作って,それに付け入るぐらいであった.もちろん,その方法を許すエレナでは無かった.
「ねえ,アレフ,知り合いとかいないの?」
アレフは,少し遠くを見て
「いませんよ.宮廷魔法使いの時は,まあ独りでしたし,孤児院もなくなってもう,誰もいませんし.」
そう小さく呟いた.
エレナは,数秒黙ってから,笑顔になった.彼女は,明るく振る舞うことにしたらしい.気を使っていないという気の使い方を選択した.
「……アレフって,何処で魔法勉強したんですか?」
「孤児院です.ああ,あと学院にも行きました.」
「学院時代の知り合いとかいないの?」
「学院時代……」
アレフは,灰色の青春時代を思い出していた.ひたすら魔法の研鑽だけをしていた灰色の青春時代に友人などと呼べるほど親しい人はいなかった.
「ライバルとかいないの?」
「いま……ああ,いやひとり居ますけど.無理だと思いますよ.」
エレナの言葉で,アレフはライバルの存在を思い出した.正確に言えばアレフをライバル視していた人物が一人いた.友人と呼べるほど仲が良かったが,連絡先ぐらいは知っていた.
(まあ,でも,姫の部下にはならないだろう.そんなもの好き中々いないだろう.)
「やってみないと分からないでしょ.」
エレナは,口を膨らませて,そうアレフを指さした.
「聞きますけど?有力貴族様が泥船皇族の部下になると思いますか?」
アレフの知り合いは有力貴族であり,普通にしていたら安泰なのだ.わざわざ嫌われている第7皇女の味方になる必要がないのだ.
「泥船じゃないわよ.でも,その友人さんは,孤児の君と友達だったんでしょ.だったら可能性はあるんじゃない?」
「無いと思いますよ.そう言うタイプではないので.」
姫はアレフの言葉を聞いて,しばらく真剣な顔で黙って考え始めた.
「そうなの?じゃあ,誰もいないじゃん.まあ,今日は諦めて,とりあえず魔法を教えてアレフ」
エレナは,明るい表情になりそう宣言した.今日の仲間集めを辞めて,別に事をする事に決めた.
「切り替え早いですね.」
「違うわよ,動いてないのが嫌なだけよ.アレフ」
「ああ,そう言うことですか.では,戻って無駄に広い庭で魔法の練習でもしましょう.」
離れの屋敷は,2人で過ごすには広く,庭も無駄に広大であった.
「なんか,嫌味ったらしい.」
「気のせいです.」
「……後は,教養とかも教えてね,アレフ.」
「無理ですけど,僕孤児ですよ.そりゃ,最低限度のマナーぐらいは分かりますけど.皇族や貴族のマナーは……あっ」
アレフは,目を見開き手を叩いた.
「どうしたんです?アレフ,急に.」
「ああ,いや.知り合いを部下にすることは出来なくても,ここに連れてくる口実はあるかなって,思いまして」
「……どういうこと?」
「いや,皇族にマナーを教えるぐらいだったら引き受けてくれるかなって.部下に出来るか分からないですけど.段階を踏めばワンチャンあるかもですよ.」
(まあ可能性,0が10になっただけの変化かも知れないけど.まあ後は姫の頑張り次第だろう.)
「じゃあ,アレフ,手紙を書いてて」
(まあ,めんどくさいけど,この程度でなら頑張るか.)
「了解しました.まあ,教養は,どうせ必要ですしね.良い機会だと思います.」
「……そうね,教養は必要ね,私の夢のためにも.それじゃあ,今日出来ることは何もないから,屋敷に戻りましょう.」
エレナは,右手を挙げてそうにっこりと笑った.
「ああ,いや後一つ良いですか?忘れないうちに.」
「何かしら?アレフ」
「姫がさっき書庫でいろいろな人に声をかけてるときに,本で確認したんですけど」
エレナは,立ち止まり,ゆっくりとアレフを見て
「うん?私の隣にずっといたよね,アレフ.妙に静かだったけど.」
首を傾げた?彼女は,見ていないのだ,アレフが本を読んでいる姿を.
「ああ,あれは魔法です.魔法で幻覚を作ってました,」
「騎士なんだからずっと居て守りなさいよ.」
「……ごもっともですけど,でも必要だったんです,お許しください.中々入れないんですよ.書庫.」
エレナは,少し不機嫌そうな表情になった.
「で,何?そこまでしたから何か分かってるんでしょうね.アレフ」
「まあ,姫をこの前,襲った集団が分かりましたよ」
「どうせ,どっかの貴族や皇族でしょ.」
エレナは,ため息をつきながら両手を点に向けてやれやれと言いたげな表情をしていた.
「まあ,学院に行けるって嫌がらせとかはそうかも知れないですけど,でも.襲ってきたのは違うと思いますよ.明確に.」
「どういう事?アレフ」
「まあ,ややこしい状況だったんですよ.襲ってきたのは,輪廻教団ですかね.多分.」
輪廻教団,魔法を勉強した人間でその名前を知らない人がいないほど有名な教団.宗教団体というよりは秘密組織という側面が強く,その頂点にいる人物が誰かは分かっていない.しかし,稀に現れる信者は,並の魔法使いが束になっても勝てないほどの強さである.
「何それ?知らないわよ.」
「知りませんか……やばい集団です.でも知らないなら,どうしようもないですね.戻りましょうか,姫.」
(じゃあ,なんで姫を狙った.この姫はやばい存在なのか?まあ,呪われてるらしいし……こういう関係の資料は宮廷魔法使いのもっと上のヤバい人たちが持ってるはずだけど.……その情報は見れないしな.ああ,めんどくさいな.)
「でも,何で今話したの?王宮の廊下で,部屋に戻ってからで良かったじゃん.アレフ」
「……確かに,シンプルに何も考えてませんでした.」
アレフは,シンプルにドジをした.
「ポンコツ騎士」
「申し訳ないです,でも泥船皇女にはお似合いですよね.」
「それも,そうね.今年中に,私の部下が一人増えればいいな.」
「そうですね.姫」
二人は遠くを見て乾いた笑いを浮かべた.
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