裏切者の本屋~9通目の手紙

神様へ 

「町会長が犯人なんでしょう」

 近所でそう話しているのを聞いた。


 みんな、なんで犯人じゃない人を犯人にしようとするの?


「え! 何それ」

「町会長が、誘拐計画書持ってたらしいのよ」

「え! 誰が見たの?」

「名前はわからないんだけど、小学生が言ってたよ」



「誰が、町会長が犯人だなんて言ったの?」

 僕は、放課後みんなに問いただした。


「だって、あの人背も高いし怖いじゃん」

「絶対にあの中にその人も入ってるよ」

「町会長は犯人じゃないよ!」

 僕は怒鳴ってしまった。

「颯太、感情的になっても仕方がない」

「でも、町会長は凄くいい人だよ? だから、そんな事を言うなんてありえないよ」

「颯太、芽依たちはここら辺に住んでないから、町会長の事を知らないんだろう。だから、悪気があった訳じゃない」

「そっか。だよね。ごめん」


 とりあえず、誘拐計画書を見つけた事を、みんなで清水先生に言った。

「え、そんな事があったのか。でも、危ないからもう止めといてね」


 僕は、打ち合わせの日の朝、本屋のカバンにレコーダーを入れる事に成功した。


 レコーダーを取りに本屋に行った。

本屋に来てから少し経つと、本屋がトイレに行ってくれた。ここまでは順調だった。

 放課後、僕はまた本屋に行った。カバンは、本屋がいつもいる机の横にかかってあった。

僕がカバンを開けようとした時、入り口のドアが開いた。


「探しているのはこれか?」

 本屋はそう言って、レコーダーを見せてきた。

「本屋さんが犯人なの?」

「うーん。誤解だ。まぁでも、犯人と言えば犯人だし。犯人じゃないと言えば犯人じゃない」

「何それ? どっちかしかないじゃん」

「人を疑うとうわさになって大変なんだ。この前も、町会長が犯人だってうわさがあったけど、デマだったのを知ってるだろ? 颯太も色々探るなら他人に言わない事をおすすめするよ」

「早くみんなを返してよ」

「だから知らないって。今日は早く帰ってくれ」

「誘拐犯だから?」

「だから、誤解だと言っている。これでややこしくなるのは嫌なんだ」


本屋が出て行こうとするから、僕もついて行った。

「木にあれ掛けたのって本屋さん?」

「いや、あれは自分が置いた訳じゃない」

「じゃあ、ゆいがその辺に落としていたのを、誰かが落とし物だと思って掛けてくれたんだ」

「……あー、そうじゃないか」

 本屋が、急に立ち止まるから、僕は本屋とぶつかりそうになった。


「みんなはどこにいるの?」

「逆に、どこにいると思う?」

「わからないから聞いた」

「そうか。こっちもわからない。もう用件はないだろ?」

 気が付くと、僕は出口の前に着いていた。

「とりあえず愛の事、誘拐しないでね」


 少し歩いていると、ゆいのお母さんとすれ違った。僕は後ろを向いて確認した。引っ越すって言っていたのに、なんでここにいたんだろう。

 ゆいのお母さんは、だんだん小さくなっていった。本屋がいる所に着いて、本屋と話している様だった。僕は、本屋と目が合った様な気がして、急いで歩いた。


 僕は、なぜか本屋と話した事をみんなには言わなかった。







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