第22話 ライバル?
「もう大丈夫?」
「うん。青葉さん、ありがとう」
泣き終わり、私達はベンチに半人分の距離で座っていた。
「別に、当然のことよ」
もうツンとした青葉さんになってしまった。
「あのさ、青葉さん。さっき私の名前を初めて呼んでくれたよね」
泣くことに必死だったけれど、しっかりと記憶に残っている。
「……ええ。もし嫌なら――」
「ううん、すごく嬉しい。そうじゃなくて……私も名前で呼んでいいかな?」
「別に。勝手にして」
突き放すような言葉だけど、口元は少し綻んでいた。
「じゃあ、日向……ちゃん」
何だかすごくくすぐったい。名前呼びだとすごく距離が縮まった気がして嬉しくなる。
だけど関係を詰めきれない理由もあって。
「……ねぇ、日向ちゃん。聞きたいことがあるんだけど」
「なによ」
「ずっと気になってたんだ、ライバルなのに色々助けてくれたでしょ。それこそ、最初に水無月くんと会わせてくれたし」
今の関係ならいけると思って、常々感じてた疑問をぶつけてみた。
「それは、ライバルだから平等にしようと思ったからで」
「ライバルなら、なおさら平等なんて考えないと思うんだ。だから、他に何か理由があるのかなって」
「……そう、よね」
日向ちゃんは考え込んだ後、意を決したように口を開いた。
「正直に言うわ。あたし、玲士のこと好きじゃないのよ」
「ええ⁉」
過去一番の大声が出てしまった。周囲に誰もいないのだけど、キョロキョロ周囲見回してしまう。
「あ、恋愛的な意味ってことね。嫌いとかじゃない」
「どういうこと? 全然理解が追いつかないんだけど」
とんでもないちゃぶ台返しに、今までのことが疑問符まみれになっていく。
「ちょっと前から、玲士が朝にどこかに向かっていたから、ついていったらあの花に出会ったの。そして、偶然香りを嗅いだらあの秘密を見た」
日向ちゃんがとつとつと語りだす。
「あたしはあいつをしばらく観察して、あれが玲士のこととわかってしかも勇花の事を意識しているとわかったの」
重要なのはその後だ。私は耳に神経を全集中させた。
「それに、昼休みにここに来た時勇花が秘密を見ていることを知って、嬉しそうだったから、恩返しになると思って引き合わせたの」
「そうだったんだね。けど、何でライバル?」
「それはあれよ。その方が積極的になると思ったのよ。それと――」
ふいっと目を逸らす。
「勇花と関わる理由になるかなって」
私はうずいた両二の腕に従って、日向ちゃんを抱きしめた。
「もう! 最初からそう言ってくれればいいのに!」
「言えるわけ無いじゃない……。てか苦しい」
「ご、ごめん」
腕を解く。日向ちゃんの温かさが体に少し残った。
「じゃあ、これからはライバルじゃなくて友達だね」
「ええ。と、トモダチね」
「えへへ」
とてもぎこちなく友達だと認めてくれる。言葉にされるとより嬉しかった。
「ねぇ勇花」
「なーに?」
「友達として聞くけど、玲士のこと好き?」
直接的な質問が飛んできてたじろいでしまう。
「えっと……」
改めて好きかどうか聞かれると、ぱっと答えられない。そもそも、どこから友達としての好きでどこからが恋愛的な好きなのだろう。
「正直に言うとわかんないんだ。水無月くんといる時間は居心地が良いし、好かれていることも嬉しい。けど、それが恋の好きなのかはわからなくて」
「何かキュンとしたみたいなのはないわけ?」
今までの思い出をざっとリピート再生する。確実にこれだというものはなかったけれど、掠めたような気持ちを思い出した。
「それっぽいのは。やっぱり最初の私に好意を持っている人がいるって知った時かな」
「……まぁそれは嬉しさとか驚きって感じね」
「そうなんだよねー。だからって、絶対的に恋してないとも言い切れなくて」
はっきりとしない気持ちに苛立つ。
「面倒くさいわね」
「あはは、自分でもそう思う。まぁそういうのをはっきりさせたくて、水無月くんを知るために秘密を覗き見していたんだけどね……」
なんて自己中心的な考えで覗き見をしていたんだろうと思って、自嘲気味に笑みを溢した。
「それで距離が離れたら何の意味もないよね。その上に、日向ちゃんにも色々サポートもしてもらってたのに」
「別に、距離が離れたのは勇花が思っている理由じゃないと思うけどね」
「へ?」
当たり前だと言わんばかりに悩みの根源を否定された。
「今日の放課後、玲士をここに呼び出すから、そこで話し合いなさい」
確定事項だと、拒否を挟む隙間がなかった。
「で、でも」
「そうでもしないと、ずっとこのまま。好きとかどうかよりも、まずはこの今の状態を直してからでしょ」
「そう……だね」
本当は自分の力だけでやらなきゃいけないことだったと思う。自分の情けなさが嫌になる。でも、なんとしても水無月くんとの関係を戻したくて。
「あたしみたいに逃げ続けて、相手を苦しませないようにね」
日向ちゃんは立ち上がって、私に手を差し伸ばしてくれた。
「ありがとう」
その手を取ると、日向ちゃんは微笑んだ。
「もう昼休み終わっちゃうから、急ぐわよ」
これもまたデジャブ。二人で教室へと向かう。けれど前とは大きな違いがあって。
走る私と日向ちゃんの身体はとても近かった。
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