第3話 女性記者

 女は、ある組織に潜入し、取材を慣行していた。

 大っぴらにやると、相手に悟られてしまい、それが自分にとって、いかに不利なことになるかということは分かっていた。

「さすがに消されるということはないだろうが、社会的な抹殺くらいはされてしまうだろう」

 と考えていた。

 そんなことになってしまうと、ロクなことにならない。それだけは避けたいことであった。

 その組織というのは、

「反社会勢力一歩手前」

 といってもいいところで、その存在を認識しているのは、警察の公安関係か、政府トップの一部の人間くらいであろう。

 今までにも、日本政府は似たような組織を、水面下で内偵していて、それを判明できるくらいまで、特化させなければいけないということで、

「政府は政府」

 ということで、密かな部隊を作っていた。

 テレビドラマなどで、よく出てくるものとして、

「どこかの河川敷で、一人の身元不明の男の死体が見つかった。地元警察の方では、事故死として片付けたようだが、親族は納得がいかない。殺された男の身元がそう簡単に、分かるわけではないので、捜査は難航を極め、結局、迷宮入りということになってしまうだろう」

 それが、政府側とすれば、さすがにこのまま放っておくわけにはいかないだろう。

 かといって、騒ぎ立てるというのも、得策ではない。ここまで内偵を進めてきたのに、

「政府が、反社会勢力に、策を弄してでも、その本質に近寄ることもできない」

 というくらいになってしまっては、本末転倒だということになる。

 政府は、本当は、

「弔い合戦」

 を仕掛けなければいけないのだろうが、そうもいかない。

 相手も、いよいよ、本気で動いているのは、

「殺人を犯した」

 という意味で、証明されたようなものである。

 ただ、やつらからすれば、

「これくらいのことは、これまでに何度おあったことなので、日常茶飯事だ」

 というくらいに思っているとすれば、それは、

「本当に恐ろしい連中だ」

 ということになるのだろう。

 かといって、

「許すことはできない」

 が、

「さらに余計なことをしようとすると、仕損じた時のリスクも大きいだろう」

 ということだ。

 本人にだけではなく。家族などにもその影響が広がると、相手の、

「何をするか分からない」

 ということが、二の足を踏ませているのだろう。

 それを分かっているから、やつらも、無理をするのだ。

「本当は、人の抹殺などしたいわけはない」

 と感じるし、

「それでも、自分たちの保身のためには、それくらいのことはしないといけないだろう」

 ということにもなるのだった。

 ただ、基本的に、

「政府というのは、昔から、保身を第一に考える」

 ということから、強引なことを政府がするとは思えなかった。

 だが、このまま、迷宮入りというのは、できない。

 「少なくとも犠牲者がいるのであれば、何とかしないといけない」

 ということである。

 何といっても、死因は、

「酒に酔って、川に転落。目撃者がいなかったので、悲劇につながった」

 ということであった。

「うちの夫は、そんなになるまで酒が飲めるわけはない。そもそも下戸なんですよ」

 と被害者の家族は訴えてくる。

「警察というところは、何かないと動いてくれない」

 とは、よく言われるが、それよりも、

「何かが起こっても、迷宮入りになることばかりだ」

 と言えるだろう。

 基本的に、警察は、

「令状」

 というものはなければ、深くかかわらない。

「証拠探しのために、容疑者の家宅捜索をするには、捜査令状というものがいる」

 ということであるが、

「いくら容疑者といっても、まだ、犯人として、検事が送検するまでは、捜査令状がないと動けない」

 ということだ。

 そして、何と言っても、犯人が確定していたとして、拘束しておかないと、

「高跳び」

 であったり、

「証拠隠滅」

 ということが考える場合、警察というところは、

「裁判所が発行するという、多雨彫令状によって、犯人を拘束できる」

 ということである。

 犯人は、そこまでくれば、もう悪あがきをすることはできない。

 令状が出ているにも関わらず、証拠隠滅しようとすれば、その時点で、さらに罪が重くなる。

 高跳びにしてもそうだ。

 昔、凶悪犯にも、時効があった時代であれば、

「海外に逃げたとしても、その間は、時効の進行はストップする」

 ということを、普通の人間は知る由もないだろう。

 となると、

「いくら海外で十五年間潜んでいて、時効だということで日本い大手を振って帰ってきたとしても、警察が、海外にいたことを証明さえできれば、逮捕は可能で、逮捕した時点で、時効は失効したといってもいい」

 ということである。

 そうなると、今の時代のように、

「凶悪犯の時効が撤廃された」

 ということであれば、犯人として、

「もう海外に逃げる」

 というのは、

「二度と日本には帰ってこれない」

 ということである。

 そういう意味では、

「海外追放」

 という昔の罪のようなものは、曲がりなりにも成立していることになる。

 だから、結局、

「本当にやむを得ない犯罪でもない限り、

「国外逃亡というのは、百害あって一利なし」

 ということなのであろう。

 ただ、

「国家を狙う、反政府組織による犯罪という、スケールの大きなものであれば、実行犯の一人や二人、海外で養うことくらいは簡単なのだ」

 それをもし、犯人側が耐えられなくなり、

「自首した方がマシだ」

 と誰かが感じかねない。

 そうなると、収拾がつかなくなり、

「犯人を、秘密裡に葬り去った方がいいに決まっている」

 ということになる。

 その都度葬るというのも大変だ。

 そこで組織内に、

「プロの殺人集団:

 なる者がいても無理もないことだった。

 だが、それには、下手をすれば、他国の軍に訓練を任せるか、あるいは、

「世界的な諜報集団や、殺し屋のような集団に、訓練してもらうか?」

 さらには、

「直接彼らに依頼するか?」

 ということである。

 世界的な組織であれば、最初から、計画を練りに練り、実際に行動をする時には、

「絶対に大丈夫だ」

 という状態に持っていきながら、保身のための計画も、しっかり練られている必要があるというものだ。

 ただ、いくら日本が、

「アメリカの属国」

 に近くても、

 実際には、属国にすら上がっていないのだから、

「日本というのは、何と中途半端な位置にある国なんだ」

 ということになる。

 もっと言えば、

「こんな国は、政府ですら、ロクな人間はいないのだから、アメリカのような国でも、簡単に属国にしなくとも、属国並みのことはしてくれる」

 というものだ。

 だが、一人の雑誌記者が、そんな日本を取り巻く、属国の影ということで、極秘に捜査していた。

 それでも、その人は、

「日本という国を舐めていた」

 といってもいいだろう。

「まさか、ここまで腐り切っていたのか?」

 とうことよりも、

「そんな日本を舐めていた」

 という方が、本人たちにとっては、ショッキングなことであっただろう」

 ということであった。

 確かに、日本という国は。

「政府の腐敗は、国家の腐敗だ」

 と一緒にしていたのが間違いだった。

「バックに何かがあるとしても、行動するには、勝手なことはできないことで、命令系統などめちゃくちゃだろうから、いくらでも、攻撃ができる」

 と思ったのだろう。

 だが、実際に、

「政府はポンコツだが、裏組織がしっかりしているというのは、日本にとっては有難かった」

 ということである。

 変な組織もあるが、そのほとんどは、水面下にいるので、浮上してこない。

 浮上してこないということは、その存在そのものすら、信じがたいというものであり。

「どうすればいいのか?」

 ということを考えているうちに、組織がどんどん忍び寄ってきて、

「逃れることができなくなる」

 ということになってしまうのであった。

 被害者は、そこに、

「何かが忍び寄ってくるということが分かっていなかったのだ」

 ということになるのだった。

 その人が、どのように、

「抹殺されたのか?」

 ということは分からない。

 しかし、抹殺されたことは事実で、

「国家による命令で、裏の組織が動いた?」

 と考える人もいるが、そのような

「縦割り」

 というわけではないといえるのだった。

 そんな裏組織を、密かに取材を試みようとしている出版社があった。

 もちろん、そんなものは、

「重要国家機密」

 ということで、政府に、まともに言っても、打て遭うわけはない。

 もっといえば、

「もし、そんなしがらみがなかったとしても。政府が自分たちの立場上、行うわけがないはずなのだ」

 ということである。

 なぜなら、

「政府にとっては。自分たちの尻ぬぐいをしてもらっているわけで、この組織の存在が分かってしまうと、自分たちのポンコツさを、世間に知らしめるということになるからである」

 と言えるからだ。

 そういう意味でも、政府にとって、この組織を守るということが、

「政府の仕事」

 になっているのだ。

 自衛のために、この組織が自ら動くわけにはいかない。それは、常識から考えれば分かることであるからだった。

 そもそも、政府がポンコツでなければ、この組織は存在しなかったかも知れない。

 ただ、政府だけでは、賄えない、非常事態が起こった時のために動く団体として控えているのであれば、分かるのだが、

「影の存在」

 ということであっても、実際に動いているのは、彼らであった。

 確かに、彼らがやっているという対策であっても、国民からすれば、

「納得のいかない」

 ということも結構あったりする。

 しかし、実際には、

「さらにひどいアイデアや、発想しか出てこず、行動も鈍い政府に比べれば、どれだけマシなんだ」

 ということになるのであった。

 国民にとって、

「自分たちの代表として、政治を行ってくれるのが誰であれ、ちゃんとマシなことさえしてくれれば、それでいいのであって、それを、いかにも、政府の手柄、さらには、ソーリの手柄などと言われると、税金を払っている我々からすれば、納得がいかない」

 ということになるだろう。

 そういう意味では、本来なら、

「影で暗躍している組織」

 であれば、別に放っておけばいいのだろうが、政府や政治家が、自分の手柄にしようと企むことで、世の中が少し、怪しくなってきているということを、考えた出版社が、

「この組織を探ることで、実際の政府や政治の在り方が、これでいいのか?」

 ということを探る必要があると、考えることから、この企画が持ち上がったのだった。

「ただ、そのために、わざわざ危険な目に遭うかも知れないということを、行ってもいいのだろうか?」

 ということであった。

 その出版社では、さすがに、この危険な任務を。

「命令」

 という形でさせるというわけにはいかない。

 やらせるとしても、かなりの

「危険手当」

 を弾む必要があるだろう。

 ただ、その相場がどれくらいなのか分からない、そもそも、いくら会社の事業の一環だとはいえ、モラルの問題もあるので、このような、

「スパイ行為のような、諜報活動をしてもいいのか?」

 ということになるだろう。

「政治を行っているのが、誰なのか?」

 ということが、本来の取材の目的だったはずなのだが、どうも、スパイをしている人間から、

「少し違う」

 といってきた。

 今回、諜報活動として入り込んだのは、女性である。

 彼女の名前は、池本つかさと言った。

 彼女が、どのようにして、この組織の中に入り込んだのかというのは、とりあえず、

「最重要機密」

 ということにしておこう。

 もっとも、彼女としては、

「別にそれくらいのこと、誰かに知られても、別に関係ない」

 というくらいに考えていたのだ。

 だが、彼女が今、どういう立ち位置にいるかというのを知っている人は少ないかも知れない。

 実は、彼女は、影で、

「風俗嬢」

 をしていた。

 他の風俗嬢の中に一定数いる、

「目標を持って、金を溜める」

 という目的のためだった。

 彼女は、ハッキリいうと、

「百年に一度の天才」

 といってもいいかも知れない。

 実際にどういう目的を持っているのか?」

 ということは、誰にも分からない。

 正直、

「彼女が、風俗嬢をやっている」

 ということは、普通に誰もが知っていることのようであった。

 といっても、

「誰が好き好んで、このような仕事をしているわけではない」

 ということは、彼女自身が、彼女の仕事を知っている人に言っていたことだ。

 別に愚痴っているわけでもなく、風俗嬢に嫌悪感を感じているわけでもない。

 どちらかというと、

「お金のためだけ」

 というのが、本音だった。

 だが、別に借金をしているわけでもなく、

「目的のためには、手段など選んではいられない」

 ということである。

 彼女の所属するお店は高級店であり、すぐに、つかさは、ナンバーワンとなった。

 彼女を知っている人は、

「転は二物を与えた」

 と評されるくらいで、頭のよさは、前述のようであるが、美貌に関しても、

「他を寄せ付けないオーラ」

 を持ってるのであった。

 といっても、彼女の美貌は、

「風俗だからこそ輝くもので、普通のOLなどの中にいれば、なるほど、キレイな部類であろうが、ナンバーワンを譲らないというほどの美しさということではないに違いない」

 ということであった。

「美しさというのは、万人受けする美しさというのは、本当の極めた美しさではない」

 といっている人がいたが、

「まさしく、その通りだろう」

 ということであった。

「一芸に秀でる」

 という言葉があるが、まさにその通りで、

「万人受けする人は、決して、それぞれでは、ナンバーワンにはなれない」

 ということになるのではないだろうか?

 そんなことを考えていると、

「自分のまわりにいる人を見ていて、そんな気になってくる」

 という人は結構いるのではないだろうか?

 たとえば、テレビを見ていて、女性でも、いろいろなジャンルの人がテレビに出ている。

「演歌歌手」

「アイドル」

「シンガーソングライター」

 などと言われる女性を、

「美しさ」

 という尺度で測れば、それぞれに、魅力が違っていることだろう。

 それを表に出そうとすると、

「衣装が違っていたりする」

 ということになるのであろう。

 演歌歌手であれば、

「着物」

 アイドルであれば、

「ミニスカなどの衣装」

 と、それぞれを輝かせる服を着せて、プロモーションする。

 その雰囲気に、一番マッチするオーラを出せる人が、

「その世界での美しさを彩る」

 といってもいいのかも知れない。

 ということを考えると、

「つかさという女性は、この世界で、いかにオーラを出せるかということが分かっていて、それが、一番、自分を美として輝かせることができるのか?」

 ということが分かっているかのようであった。

「耽美主義」

 という言葉があるが、つかさという女性は、

「きっと、この耽美主義という言葉を理解し、自分が、どこで輝くのか?」

 ということを分かっているということだろう。

 それが、

「自分を輝かせる」

 ということに繋がり、そのことが、つかさという女性の、

「強み」

 であり、

「武器だ」

 と言えるのではないだろうか?

 そんなことを考えていると、

「つかさという女性は、これからも、果てしなく美しくなっていくのだろう」

 と考えられた。

 つかさが、源氏名として使っているのは、

「いちか」

 という。

「そう、いちかというと、三十郎が憶えていた彼女のことである」

 彼女は、確かに、

「風俗業界の耽美主義」

 といってもいいかも知れない。

 風俗業界というと、どうしても、

「妖艶な雰囲気」

 ということがイメージされる。

 もちろん、最近の風俗業界というのは、いろいろな業種もあり、コンセプトもバラバラ、それだけ、ターゲットとなる年齢層も違えば、金額設定も変わってくる。

 最初から、

「ソープに行こう」

 といって、店のホームページで研究して、予約してからいくという人もいるだろうし、

 そこまでしなくても、風俗街にある、

「無料案内所」

 の暖簾をくぐって、そこで、案内人に紹介してもらうという手もある。

「無料休憩所」

 からの客であれば、割引が効いたり、さらには、女の子の好みから、

「ちょうどいい店をチョイスしてくれることで、すべてを見る必要もない。」

 と言える。

 何と言っても、

「情報を対面で聞ける」

 ということが最大のメリットで、店に直接電話を入れてくれて、

「交渉成立」

 ということになれば、店から、スタッフが、直接迎えに来てくれたりして、場所をいちいち聞いて確認しながらいくこともない。

 さらに、この時のメリットは、

「店のスタッフと一緒だから、他の店の呼び込みに引っかからずに行ける」

 ということである。

 こうなると、案内所から店までは、すでに予約済みということであり、

「予約を入れているのと同じ」

 ということであるから、交渉成立の時点から、すでに、女の子は準備に入っている。

 すると、待ち時間も少なくなり、

「案内がスムーズにいく」

 ということになるだろう。

 それを考えれば、

「無料案内所というのも、あなどれない」

 ということになる。

 また、こういう無料案内時というのは、一人の客だけではなく、若い連中に多いのだろうが、例えば、朝一番まで、繁華街で飲んでいて、誰か一人、言い出しっぺみたいあ人がいて、

「ソープに行こう」

 と言い出す人が、

「かなりの確率でいるのではないか?」

 と、思われる。

 ただ、これは、意外と皆感じていることであり、

「誰かが言い出すのを待っていた」

 ともいえるだろう。

 その証拠に、誰かが言い出した瞬間から、反対意見などまったく出ないからであっただろう。

 一種の、

「お約束の儀式」

 といっても過言ではないかも知れない。

 飲み屋街には、そんな時間制限はあまりないのかも知れないが、性風俗関係のお店(デリヘルは除く)の営業時間というのは、風営法で決まっている。

「午前6時から、午前0時まで」

 というのが、基本となっている。

 もちろん、条例で、その範囲内であれば、別に変えることはできるのだが、基本的に、全国共通で、この時間になっているのだろう。

 そもそも、風俗業界における。

「深夜時間」

 というのが、

「午前0時から、午前6時」

 ということから、この間は、営業をしないということになったようだ。

 だから、

「早朝営業」

 というと、午前6時からということになるのだ。

 基本は、9時か10時というのが基本かも知れないが、早朝営業というと、基本、40分から1時間くらいのショートコースが売りになっている。無料案内所にやってくる若い団体の連中などは、ちょうどそれくらいのコースを望むのだ。

 要するに、

「酒を飲んだ最後の締め」

 と言ったところであろうか。

 そんなショートコースを望むのだから、いわゆる、大衆店と呼ばれるところか、格安店と呼ばれるところが、

「早朝営業を行っている」

 ということになるのであった、

 というのは、

「そもそも、高級店に、そんな早朝営業を行う理由はない」

 ということである。

 高級店というのは、そもそも、

「女の子と、サービスの質」

 で売っているわけである。

 だから、客も高い金を出して、

「サービスを買う」

 というわけで、そんな彼女たちが、格安店のようなことをすれば、せっかくの

「質と格」

 というものが台無しになるだろう。

 だから、高級店と呼ばれるところで、早朝からやっているところはあまり聞いたことがない。

 ただ、客の中には、

「会社に行く前にスッキリしたい」

 という人もいるかも知れない。

 ということで、そんな客のためだけに、早朝からやっているのかも知れない。

 だから、決して、ショートコースを設けるようなことはしない。そこまでやってしまえば、高級店としては、

「終わりだ」

 といってもいいかも知れない。

 そんなことを考えると、

「時間帯、料金設定。それらは、風俗店のランクに大いに関係がある」

 ということになるのであろう。

 それが、風俗店の、常識と呼ばれることなのかも知れないが、理屈が分かってみると、

「経営というのは、実に面白い」

 と思うことだろう。

 つかさも、同じようなことを考えていて、

「いずれは、店の経営をしてみたい」

 という考えがあり、今回の諜報活動を、

「危険だ」

 と思いながらも、自らその道に飛び込んだのだった。

 そこで、三十郎が、

「彼女の客」

 としてきたことがあった。

 いつのことだったか忘れてしまっていたが、いちかという女性を強いインパクトで覚えていたのは、間違いない。

 だが、あの時のあのインパクトのいちかと、自分が連れて帰った女とが、

「よくは似ているが、まさか本人ということはないだろう」

 と思ったのだが、それも次第に自信がなくなってきた。

 考えてみれば、普通であれば、

「よく似ている人だ」

 と最初に感じると、見ているうちに、次第に、そうでもないかのように思えてくるのが普通のはずなのだ。

 しかし、今回の

「拾ってきた女性」

 と、

「いちか」

 という名の、風俗嬢、

 それそれを比較して考えると、

「最初は打ち消したはずなのに、次第に、似ているという方向に感じるようになったのは、一体。どういうことだろう?」

 ということであった。

 雰囲気はまったく違っている。

 風俗嬢のいちかは、オーラがハンパない。

「彼女ほどのオーラは、童貞を奪ってくれた、みなみさん以外には、感じたことがないほどだった」

 といってもいいだろう。

「みなみといちか、この二人もまったく雰囲気が違っているが、共通点は多いような気がする」

 と思っていた。

 一番の共通点は、

「その力強いオーラだ」

 といってもいいだろう。

 その思いを感じたからなのか、

「みなみ嬢との最初」

 を思い出してしまったのだろう。

 みなみ嬢には、それから何度か入ったが、いちかを知ってから、みなみ嬢から、自分の中で、

「卒業した」

 と感じたのだった。

 みなみ嬢から教えてもらったのは、テクニックなどだけではなく、風俗嬢の感覚であったり、

「オンナというものの、本質と本性」

 という意識のことも教えてもらった。

 何を言いたいのか、途中から、よくわからなくなったが、そのおかげで、

「いちかさん」

 と知り合った時、お互いに、意気投合できたのだと思った。

 まさか、いちかさんが、そんな特命のようなものを持っていて、風俗嬢をやっていることに、それらの一連の事情が孕んでいたのだった。

 ただ、これは、後になってから知ったことであって、

「いちかさんは、風俗嬢をやっていることに、いくつかの理由がある」

 ということは、何となくではあるが、分かっていた気がする。

 そして、そこにどんな理由があるにせよ、

「危険が孕んでいるのではないか?」

 と感じるのだった。

 そういう意味で、

「いちかさんのような女性は、普段の彼女が近くにいるとしても、まったく分かるはずのない人であるに違いない」

 ということは、いえるだろうと思うのだった。

 今回、拾ってきた女性は、

「たぶん、いちかさんなんじゃないだろうか?」

 と思ったが、あれだけの深い仲だと思っていただけに、一緒にいる人が、

「いちかさんであってほしい」

 という思いと、

「あまりにも知っているいちかさんとの違いが激しい」

 と感じるだけに、これほどまでに複雑な思いになってしまうとは?

 と感じさせられるのだった。

 だから、当初は、

「厄介なものを拾ったな」

 と感じたのだ。

「いちか」

 という女性は、お店で見せる態度は、完全に三十郎に酔っている雰囲気だった。

 それまでに相手をしてもらった女性は、

「みなみ嬢」

 だけだっただけに、その違いというものがまったく違っていると感じられるのだ。

 みなみ嬢は、三十郎との距離を、広げないようにしながら、感覚は明らかに、

「上から目線」

 だった。

 本来の三十郎は、相手に上から目線をされるのが、我慢できないくらいの屈辱だったのだ。

 そんな三十郎は、

「みなみさんに飽きた」

 ということはなかった。

 ただ。

「他の女性も見てみたい」

 という衝動に駆られたのだ。

 以前から、みなみ嬢から、

「他に気になる女性がいれば、その人のところに行ってもいいのよ」

 といってくれていた。

 ただ、それは三十郎は男として、

「そんなことはできない」

 と感じていた。

 確かに、他の女性を見てみたいという思いがあるのも事実で、

「他の女性を見ることで、余計に、みなみのことを好きになるかも知れない」

 と感じたほどだった。

 それから、数人の女性に相手になってもらったが、さすがに、みなみさん以上の女性はいなかった。

「もう少し他の女の子に遭ってみて、パッとしなかったら、みなみ嬢に戻ることにすればいい」

 と思ったのだ。

 みなみ嬢とも、何度か会って、彼女からも、

「他の女の子とも遊んでみれば?」

 と言われた。

 正直自分では、

「他の女の子に遭って、お相手をしてもらったとしても、みなみさんほどの女性はいないのではないか?」

 と、考えていた。

 だから、

「どうせ、すぐに戻ってくる」

 と、自分の中でタカをくくっていた。

 だが、実際に他の女性に遭ってみると変わった。

 その相手が、

「いちかさん」

 だったのだ。

 いちかさんは、みなみさんほど、優しさはなかったが、

「一緒にいると、忘れられない存在になった」

 といってもいい。

 正直、身体のどの部分か何かに、強く惹かれたという感じでもない。

「何か気持ちを感じさせる雰囲気が忘れられない」

 というような感じでもなかったのだ。

 だから、自分の中で、

「どこが忘れられないんだろう?」

 というのは分からないが、少なくとも、何かのオーラを感じさせるところであった。

 さらに、彼女が、この店だけでなく、

「この地域の風俗嬢の中でも、ランクが最上級である」

 と言われているのだが、それが、遭ってもどこからくるのか分からないのだった。

 そう思って、もう一度指名してみると、今度は、本当に忘れられなくなってしまった。

「彼女は、リピートして分かるところがあるんだ」

 ということは感じたが、

「その何が分かるのか?」

 というところは分からなかった。

 ただ、いろいろ、

「口コミ」

 などと見ていると、

「どうやら彼女は、それぞれ皆自分の中にある何かを、引っ張り出されているかのように思えて、その心地よさから、彼女の沼から抜けられなくなるのではないか?」

 と感じられたのだった。

 もっとも、三十郎もその一人であり、

「そういえば、彼女に最初に遭った時、みなみさんと会った最初のあの日を思い出していたな」

 と感じた。

 皆それぞれ、

「過去」

 というものを持っていて、あるいは、引きずっていて、今を生きているといえるであろう。

 その感覚を、彼女の魅力が、思い出させるだけの魅力があるのだろう。だからこそ、

「あれだけのオーラ」

 と言えるものを、放っているのではないか?

 と感じるのであった。

 だから、彼女の中に、時々、

「感情があるのだろうか?」

 と思うような、冷徹な部分があり、そこに魅力があるというと、語弊があるが、そういわないといけないだけの、何かを感じさせるのであった。

 そんな、いちかという女性と、お店で会っていた時のことを思い出そうとするのだが、どうにもハッキリと思い出せないところがあった。

 今でも、風俗には時々通っているが、みなみさんにも、いちかにも遭っていない。

 いちかは、急に辞めていき、途方に暮れた気分になったが、だからといって、

「みなみさんの下に戻ろう」

 という気分はなく、風俗は、

「本当にただの遊び」

 という程度になったのだった。

 しばらくは、

「それほど行きたい」

 ということもなく、

「行くとしても大衆店」

 という程度だった。

 だから、もう、風俗のことは頭から消えかかっていた。

「あの世界は、夢だったんだ」

 という感覚になっていたのと、自分の中で抱いている、

「いちか」

 という女性のイメージに、

「拾ってきたオンナ」

 のイメージは、あまりにもかけ離れていた。

 それなのに、一番最初に、感じた、

「似ている」

 という感覚はどこから来たのだろう?

 そんなイメージを感じながら、目の前にいる女性を見ていると、一度、

「気のせいか」

 と感じてしまうと、最初に、

「似ている」

 と感じたあの感覚が薄れてくるのを感じるのだった。

 しかも、彼女は記憶を失っていた。その度合いがどれほどのものなのか分からなかったが、顔を見ている限り、その性格や、普段の彼女を想像するのは困難だった。

 だから、あれだけのオーラを発していた、

「いちか」

 という女が、まさか彼女であるということに、よく最初に感じたと思うのだ。

 しかも、あの時感じたのであれば、そこから、どんどん、いちかとしてのイメージがかけ離れていくというのもおかしな話で、それだけ、似ているという感覚があったのを、

「ウソだ」

 と感じるということなのだろう。

 三十郎は、いちかをどうするか、考えあぐねていた。

 階を見る限りでは、視線が普通に焦点が定まっていないことから、明らかに、

「記憶喪失である」

 ということは分かっている。

 そういう意味では、警察に届けるか、病院に連れていくなどの方法があるだろう。

 しかし、どちらも三十郎にはできなかった。

 だが、一つ気になるのは、

「彼女が、昨夜、なぜあんなところにいたのか?」

 ということである。

 外傷があるわけでもなく、ただ、あの場で倒れていたのだ。考えられることとして、

「どこからか、車で連れてこられて、そこで、車から、放置されたのではないか?」

 ということであった。

「放置されたとすれば、何者が何の目的で彼女を放置したか? 下手をすれば、記憶喪失というのも、その連中にされたことなのか?」

 ということであった。

 そんないちかという、

「風俗の女性」

 ということをハッキリと思い出すよりも、彼女が、

「女性記者」

 として、諜報活動的なことをしていたという方が、先に分かることになるのだが、それはひょんなことからだったのだ。


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