第2話 女の正体
三十郎は、今までに、
「彼女が一人もいない」
というほど、モテナイわけではなかった。
確かに、
「パッとしない、どこにでもいるような男」
という雰囲気であるが、
「それだから、モテないんだ」
ということでもなさそうだ。
実際に、エンターテイメント性のあるところがあるので、嫌われているわけでもなく、結構、人気もあった。
だが、さすがに、
「彼氏」
として、女性が自分を求めてくるということはなかったようで、
「告白された」
などということもなかった。
就職してから、二年目の夏のボーナスの後、直属の先輩が、
「お前は、風俗行ったことあるか?」
といきなり聞いてきた。
その表情は、仕事の時の真剣な表情から、明らかに、砕けた表情になっていて、そのくせ、目がギラギラしているように見えた。
いやらしさは確かに感じたが、その視線のギラギラに、何か楽しそうなものがこみあげてきているのを感じるのだった。
その表情を見ていると、
「先輩の言っているところって、本当にパラダイスなんだな」
と感じた。
実際に行ったことはなかったが、どんな雰囲気のところかなどというのは、Vシネマなどで、ちょっと出てきたりしていたので、まったく知らないわけではなかった。
そういう意味では、まったく興味がなかったというわけでもないのだ。
先輩は、どうやら、何度もいっているようだった。
その時、先輩は、風俗について、いろいろ教えてくれた。
風俗の種類であったり、それによっての料金体系なども教えてくれたのだ。
その時は、
「山本君の、風俗デビューだ」
ということで、先輩の奢りだったのだが、先輩は、かなり無理してくれたようだった。
さすがに、
「最高級店」
というところまではいかないが、
「高級店」
ということで、
「サービスも、女性のランクもかなり上だぞ」
と先輩が言っていたので、
「先輩がいうのだから」
ということで、信じていたが、後から考えても、その言葉に間違いはなかった。
風俗にそれから、ちょくちょく行くようになったが、先輩の言っていることに間違いがないことは、その後になっても、分かったことだったのだ。
先輩が連れていってくれたお店に着いた時には、彼の、
「お相手」
というのは決まっていた。
先輩が前もって予約を入れてくれていたので、それに従うだけだった。
店というのは、
「いかにも風俗街」
と呼ばれるようなところの一角にあった。
そこは、
「ある通りからこっちは、完全に別世界」
というようなところで、
「男のパラダイス」
というようなところであった。
先輩がいうには、
「こういうお店というのは、県の条例で、作れる場所が決まっているんだよ」
というではないか。
先輩から教えられたこととしては、
「風営法という法律があるんだけど、実際に有効になるのは、その風営法が基準となり、実際に有効となる法律は、各都道府県の自治体が定める、条例というものなんだ。例えば営業時間も、風営法では、午前六時から、深夜午前0時までなんだけど、条例では、風営法の範囲内で、その間に条例で設定されると、それが、法律になるんだよ」
ということであった。
「なるほど、よく分かりました」
と、普段なら、風俗というと、どうしても低俗なイメージで見ていたことが恥ずかしくなるほどだった。
だが、
「先輩ってすごいな」
と感じるほどの知識には、一目置くほどであり、
「いやいや、風俗というのは、結構置くが深かったりするんだ」
という先輩の言葉を、素直に、先生から聞いているという気持ちで聞いていたのだった。
「先輩の言葉を聞いていると、風俗も悪くない」
と思うようになった。
むしろ、変に意識する連中の方が、却って、偏見で見ていることで、
「いやらしい」
と感じるほどだった。
だから、初めていくと、それから、
「お金をためて、また行こう」
と思い始めると、それが自分のルーティンになってくるのを感じた。
「ストレスが溜まったものを鑑賞するのに、風俗を使って何が悪い」
という感覚であった。
風俗というものが、
「いかに、非道徳なもので、不健全化?」
ということは、考えてみれば、誰かから教えられたわけでも、諭されたわけでもない。
しかし、皆、
「その話題に、わざと触れない」
というようにすることで、
「実に嫌なことだ」
ということを植え付ける結果になってしまい、
「人が、わざと触れないようにしていることは、モラルや、道徳的に、あまりいいことではない」
と感じさせる、一要因となってしまっていた。
だから、そして、余計に、
「風俗というものが、話題にできない」
ということであるから、性行為自体も、
「触れてはいけないことということになったのか」
それとも、
「性風俗が、触れてはいけないことになるために、性行為をそのターゲットにした」
ということになるのか、どちらにしても、税行為自体が、元凶のように思わせるのも、無理もないことではないだろうか?
さて、そんなことを考えていると、いよいよ先輩が、お店に行く時間になったということで、先輩の後を、まるで、
「金魚のフン」
のように、くっついていったものだった。
大体の場所は知っていたが、近寄ることもなかった。
そもそも隣は、同じ歓楽街一体の中でも飲み屋街だったので、
「酒があまり得意ではない」
という三十郎には、まったく行くようなところではなかったのだ。
「繁華街はさぞかし賑やかなところだろう」
と思っていたが、ネオンサインも、想像していたよりも、すごくはなかった。
ライトアップというと、ネオンサインが、まるで、
「芸術を奏でる動画」
という雰囲気であったが、今は、動画の雰囲気はかなり低くなっていて、
「思ったよりも、寂しい感じであった」
と感じるほどだった。
風俗街に入っていくと、色合いが、賑やかというよりも、
「妖艶な雰囲気」
という感じで、歓楽街が、
「赤や青」
と言った原色系よりも、
「紫や、少し薄い紺色」
のような感じで、そこには、
「淫蕩な雰囲気」
を醸し出しているのだった。
「このネオンの雰囲気は、どうやら昔かららしいんだ。歓楽街の方のネオンは、まったく変わってしまったけどね」
というではないか。
「なるほど、風俗の方も、変えようと思えば変えられないわけではないが、今の雰囲気を考えると、前からそうだったと思う方が自然な感じがする」
と感じたのだった。
先輩も以前、似たような話をしていた気がするが、実際に見たわけでもないし、その頃は話だけでピンとこなかったので、余計なことを考えることもなかったのだ。
先輩は、今までにも風俗のことを話してくれた。
そのほとんどは、
「行ったことも、これから行くこともないと思っている人にとって、まったく不必要なものだ」
といえるものであり、
「興味もない」
と言ってよかった。
しかし、それが、
「急に切実な思いを抱くようになった」
と考えたから、そのタイミングで、
「先輩が連れていこう」
と感じてくれたのかも知れない。
しかし、その逆に、
「先輩が連れていってあげよう」
ということになったから、
「急に切実に感じるようになる」
と言ってもいいのかも知れない。
もう一ついえば、こんな深く考える余裕があの時にあったということもあるので、これらの考えは、
「後になって、自分の中で作り上げた妄想のようなものなのかも知れない」
ということであった。
先輩が連れてきてくれた店は、一見、
「ヨーロッパのお城か、宮殿」
を思わせるようなところだった。
となりの店が、まるで、日本の高級料亭を思わせるような作りになっていることから、
「こりゃあ、この一帯でも、さらに別世界なんだな」
ということであった。
先輩から聞いたところによると、
「風俗には、最高級店、高級店。大衆店、格安店というランクがあるのさ、高級になればなるほど、ソープの技というものが洗練されてきて、マットを駆使するようなものをたくさん、嬢は身に着けていて、それだけのサービスを味わえるが、値段が下がっていくと、まさに、ショートコースで、回転数を増やす、ファストなものが何になるかということを考えさせられる」
ということを言っていた。
今でこそ、大衆店が多くなったのだが、それは、
「質より量」
を選んだからというわけで、
「高級店とかであれば、本当に、ボーナスが出ないとなかなか敷居が高い」
ということであったが、大衆店であれば、2,3カ月であっても、かなり楽だといってもいいかも知れない
だが、たまに、
「質より量」
では我慢できないことがある。
「せっかくだから、たまには、女の子の最高の癒しを受けたい」
と思うのも当たり前だ。
そうでないと、
「欲望のままに、欲望を果たすためだけのため」
と考えると、今まで感じてはいけない
「今までが、ただ、出すだけという、感情のない時間を過ごしていたのではないかと思うと、たまに、高級店での、最高の癒しがもらえることを楽しみにしている」
と感じないわけではなかった。
特に。高級店には高級店なりの、
「心遣い」
というものがある。
それが、
「ソープの技」
という露骨なものではなく、あくまでも、
「風俗の愉しみ」
それが、
「癒しになるんだ」
ということを忘れないようにするというのが、モットーになってきた。
そんな思いを感じながら、先輩が連れて行ってくれた店の待合室で待っていると、これほど、興奮したことはなかった。
実際に今でも、待合室で待たされるのが、それほど億劫ではない。さすがに、30分以上待たされるのは、愚の骨頂だと思っているので、予約は絶対に欠かさないが、予約で待つ場合は、何かのトラブルでもない限り、十分な許容範囲だったのだ。
待合室は、ある意味至れり尽くせりであった。
というのも、ドリンクバーが設置してあったり、ソファー咳だけではなく、奥はバーカウンターのようになっていて、さらに、その奥では、まるで社長室のようなフカフカソファーと、カラスのテーブルという形のものが用意されていた。
広さに限りがあることで、なかなか、いろいろ工夫はしているだけに、それぞれの場所はせまかったりするが、その分退屈はさせない。
何と言っても、予約が多いわけで、その時間に対応する客が、ちょうど同じ時間に重なるということも、それほどないだろう。
なぜなら、一人のキャストに対して、対応時間が値段によって、さまざまであるし、次のお客様への準備等で、少しくらい時間がずれたりもする。
さらに、
「ご案内」
がかぶらないように、先着で中に入っていくことで、それほど、待合室が混みあうということはないのだ。
それを考えれば、
「待合室に、いろいろある方が、楽しい」
という客も結構いるようで、店も、そのままにしているようだ。
さらに、風営法の規定の中に、
「新店舗を経営したり、新規参入のような会社は許さない」
というような規定があるので、新しい店舗ができた場合、そのほとんどは、他の店のチェーン店のような形になるだろうが、その時に、あまり大げさな改修をすることは許されないということになる。
だからこそ、
「前の店舗をそのまま踏襲し、同じような内容で、コンセプトだけを変更する」
ということになるだろう。
「サービスオプションの変更だったり。壁紙を張り替えるなどの程度くらいにしておかないと、改修とみなされる」
と言えるのではないだろうか?
だから、ここの待合室も、カウンターは元々あったので、それ以外を、家具や色調を変えるくらいにすると、こういうコンセプトになったのだ。
「そもそも、この店になる前も、ここは、高級店だったからな」
と先輩は言った。
「高級店というと、サービスが濃厚で値段が高いというのもあるが、同じサービスでも、表立って言えないのもあるからな」
と言って、先輩は、ニヤッと笑った。
「ちなみに、ここは、そのサービスはない。だから、逆に、プロの技をしっかりと味わえるというわけさ」
というのだった。
その日、最初カウンターに座って、ドリンクバーを所望していたが、コーヒーを落ち着いて飲みたくなったので、今度は、重役のようなソファーに腰かけた。
「これは、気持ちがいいですね」
と先輩にいうと、
「ここは、昔だったら、目の前にシュガレットケースが置いてあって、ライターも高級品。それこそ、金ぴかの彩で、本当の高級店だったら、葉巻のようなものまで用意してあったくらいなんだ。要するに、そこまで完全に、差別化をすることで、どれだけ客を満足させるかということを考えているということさ。高級には高級のわけがあるのさ。これは、経営学などを勉強するなら、いいことなんだろうと思うぞ」
と耳元で言った。
「まさか、先輩、将来、起業なんてことを考えているんじゃないですか?」
と聞いてみると、ニッコリと笑って、
「分からんぞ?」
というのだった。
その時の表情から、本心を見抜くことはできなかったが、
「まんざらでもない」
と思ったのは、事実だった。
今の時代は、基本的に、
「自分の家以外では、室内での喫煙は禁止」
ということになっている。
よほど分煙ができていて、分煙室が隔離されていて、さらに、電子タバコであれば、
「ワンチャン、いいのではないか?」
と大目に見られることもあるだろうが、今は、まず、街にそういうところはない。
皆勘違いしている人もいるかも知れないが、
「受動喫煙防止法」
というのが施行した時、
「段階的に行われた」
ということである。
本番が4月からだったが、本当は、前の年の夏くらいに、一度先行して、実施されたところがあった。
それが、
「病院であったり、公共の施設」
だったのだ。
だから、その場所というと、
「病院や学校」
というのが、まず一番に考えられる。
そしてもう一つが、
「公園」
である。
病院や学校というのは、そもそも、こんな法律ができようができまいが、今の喫煙場所が限られてきている時点で、自主的に禁煙にしてしかるべき場所である。
「いまさら感」
があっても仕方がないだろう。
しかし、公園だけは、そうもいかない。今でも、
「室内で吸えないから」
ということで、公園で吸っている人がいるくらいだ。
「公園では吸ってはいけない」
ということくらい分かりそうなものなのだが、問題は、
「路上喫煙」
であった。
基本的に、都心部の駅近くであったり、オフィス街などでは、路上喫煙禁止場所になっていたり、もちろんではあるが、地下通路も室内同様だから、当然、喫煙は許されない。
それを考えると、
「どうしても、公園で吸う」
ということになるのだろう。
しかも、路上の禁煙所というのも、刑法での禁止事項ではない。基本的に、
「都道府県による条例の定めるところなので、せめて罰金くらいであろう」
というものである。
それを思えば。公園の方が開放的だし、問題がないようになっている。しかし普通に喫煙禁止ではないところで吸っても、基本的には、法律違反でも、条例違反でもないというところが、大きな問題であり、そんな中途半端なことをするから、
「公園では吸ってもいい」
ということになるのだ。
ただ、
「人間って、何てバカなんだ?」
と思うのは、法律で決まっていようがいまいが、表で吸うのは違反だということは、古戸でも分かるというものだ。
なぜか?
ということになると、
「灰皿がそもそもないのだから、禁煙なんじゃないか?」
という理屈は、小学生にでも分かるというものだ。
だからこそ、
「いい悪いは別にして、コンビニの横には、灰皿が設置してある」
ということなのではないだろうか?
それも、
「路上喫煙」
には変わりなく、さらに言えば、
「集中して吸っているので、その付近の空気の悪さは、公害レベルだ」
と言えるのではないだろうか?
そういう意味で、コンビニの横の、喫煙コーナーも、犯罪行為でしかなく、本来なら、他の場所、例えば大きなターミナルに設置してあるような、
「喫煙コーナーを設けないといけない」
というはずなのである。
それができないのは、
「そんな金はない」
というのだろうが、そんな金がないのであれば、最初から、すべてを禁煙にしてしまえばいいのだ。
ここまで喫煙場所を制限しているのだから、中途半端なことをせず、
「世の中すべてを、禁煙」
としてしまえばいいのではないか?
どうせ政府は、
「たばこ税が取れない」
などと言って、自分たちのことしか考えていないのだろうが、
「タバコをやめられない人はどうすればいいか?」
というのだろうが、
そんな連中のために、国の金で、
「禁煙促進病院」
のようなものを作って、
「タバコをやめられないという依存症の連中」
を、入院させればいいのではないか?
「タバコと、大麻やマリファナのような薬物とどう違うというのか?:
昔であれば、ヒロポンや大麻など、合法だった時代もあったのに、今は違法となっている。タバコだって、ここまで喫煙者を締め付けているのであれば、中途半端なことをせずに、
「非合法」
ということにしてしまえば、タバコがなくなっていいのではないか?
と言えないだろうか?
元々タバコを作っていた、
「元、専売公社」
と呼ばれていたあの会社だって、ほとんどのタバコが売れなくなり、全国にあったほとんどの工場を閉鎖したりして、結局、何とか細々とやっているわけで、もういまさら、タバコで金がとれる時代ではないということである。
それを思えば、
「今の時代ともなると、完全に、タバコをなくしたとしてもいいくらいのところまで来ているのだから、これを機会に、一気になくすくらいしなければ、何事も中途半端に終わってしまい、恥にも棒にもかからなくなる」
ということになるだろう。
そんなタバコを吸う習慣など、なくなればいいというのは、まあ、少し乱暴ではあるが、
「結局、乱暴であっても、やってしまうと、それが結局よかった」
ということになるのは、今までの歴史が証明している。
ただ、それは、
「悪しき遺産だ」
ともいわれるかも知れないが、これを一種の、
「必要悪ではないか?」
とも考えられるのだ。
そういう意味で、風俗業界というのも、人によっては、
「撲滅すればいい」
という人もいるかも知れない。
確かに昔のような、暗いイメージが漂っていれば、世間から、あまりいいイメージで考えられないだろう。
ただ、言い方は悪いが、借金がある人が、借金の返済の手段として、風俗嬢になるというのが、当たり前の時代で、よくVシネマであったり、昔のロマンポルノと呼ばれていた時代には、
「借金のかたに、娘を風俗に」
というのも、当たり前のように描かれていたので、そんな悪いイメージが染みついているといっても過言ではないだろう。
しかし、実際に、今の時代では、そんなこともない。
中には、
「ホストに狂って、借金をしてしまったり」
あるいは、
「買い物依存症などになって、借金を背負ってしまった」
ということで、
「風俗嬢になった」
という人も少なくないだろうが、
「依存症」
のような、病気の人は別として、それ以外の人は、ある意味、
「自業自得」
という人が多いのではないだろうか?
それを思えば、
「今の時代の風俗嬢は、自分から、望んでなっている」
と言ってもいいかも知れない。
理由はいくらでもあるだろう。
「もちろん、今までのように、借金の人もいる」
であろう。
ただ、結構今の女の子は、
「夜は風俗をしながら、昼間は、普通に大学に通ってたり、昼はOLとして働いている子も多い」
もっといえば、
「それが当たり前」
という時代になってきている。
昼間の仕事だけでは遊ぶ金がないから、風俗で、小遣い稼ぎという女の子もいるだろう。
また、もっと真剣に考えている人もいる。
それは、スナックやクラブなどで働いている女の子と発想は似ているかも知れないが、
「いずれは、自分の店を持ちたい」
というような、
「経営者の道」
というようなものを目指している女の子も結構いたりする。
それを思えば、
「風俗嬢」
というのは、世の中や、将来のことを真剣に考えている子も、結構いるのではないだろうか?
それを思うと、
「風俗嬢」
という職業も、男性にとっては、癒しになり、彼女たちにとっては、
「夢への第一歩」
ということで、
「winwinの関係だ」
と言ってもいいかも知れない。
それを思うと、
「自分たちが何も、後ろめたい気持ちになることもないだろう」
ともいえるのだ。
奥さんがいて、奥さんに後ろめたいというのであれば、それは仕方がないだろうが、結婚しているわけでもなく、彼女がいるくらいであれば、何も後ろめたくなることではない。
「風俗嬢に、本気になった」
ということであれば、少し話が変わってくるだろう。
しかも、
「相手の女の子が本気になった」
と言えば、またややこしいが、考えてみれば、この状況は、相手が風俗嬢であろうがなかろうが、関係のないことではないだろうか?
もし、相手の彼女が、
「何を風俗嬢なんかに真剣になって」
などと言って、バカにしたような言い方をすれば、
「名誉棄損」
という形になるのではないだろうか?
それを思えば、
「風俗嬢は、何も特別な職種でも何でもない」
と言えるだろう。
特に、特殊浴場という職種は、風営法で法律上、キチンと認められた職業なのだ。
法律にしたがっている限り、その問題はないのであって、もし、それを差別的な発言をしようものなら、
「名誉棄損であったり、侮辱罪」
ということで、訴えることもできるというものだ。
それだけ、法律も厳しく、その中で合法で営業もしているのだから、
「市民権は、風俗嬢側にある」
と言ってもいいだろう。
もちろん、その時が、
「風俗デビュー」
だったので、
そんなことは分からなかったが、考えてみれば、当たり前のこと。
その日相手をしてくれた、
「彼女」
を見ていれば、それはよく分かるというものだった。
まず、最初、待合室から呼ばれた時、
「こちらにどうぞ」
と、ボーイ風のスタッフが呼びに来た。
それも、片膝をついていて、まるでこっちが、王様にでもなったかのような気分であった。
形式的に冷たさに見えるが、こちらは、初めてのことで興奮しているので、これくらい落ち着いてくれている方が気が楽だった。
「俺が、初めてだから、こんな感じなんだろうか?」
と思ったが、それから何度か来たが、毎回態度に変わりはなかった。
ただ、さすがに慣れてくると、相手もリラックスしているように見えてきたのだが。それはこちらのリラックスが、そう感じさせたということであろう。
「おトイレの方は、済まされましたか?」
と言われると、いよいよ緊張が頂点に達してきて、とりあえずは、
「ハイ」
と答えたが、実際には、初めてのことで、自分でも分からない。
いや、これに関しては、何度回数を重ねても、自分ではわからない。緊張を抑えられないからこそ、興奮は倍増するのであって、
「お金を払って求めてくる癒し」
なのだから、それくらいでなければいけないと感じるのだった。
お金ということを口にすると、
「泥臭い」
ということになるかも知れないが、それだけではない。
「とにかく、興奮をいかに、自分で感じるか、どんなことをしてでも、感じるか?」
ということであった。
そういう意味でも、風俗嬢との相性は、大切なことである。
三十郎は、
「飽きっぽい性格」
であった。
相手の女の子がいくら可愛くて、癒しになるとしても、何度か相手をしてもらうと、
「そろそろ、今度は違う子」
という風に思うのだ。
遭いたいという気持ちに変わりはないが、何しろ、身体が求める興奮は違うところにあるのだから、それはしょうがないと言ってもいいだろう。
中には、
「同じ女の子で、何十回」
と通っている人もいるということだが、
「俺には、できないな」
と思うのだった。
これは、どちらがいい悪いという問題ではない。お互いの相性であったり、性格的なもの。
男性としての、性癖が、どうしても許さないという人も普通にいるだろうから、
「そのあたりの問題も難しいお-ところだ」
ということであろう。
その時相手をしてくれた女性は、先輩が指名してくれた。
どうやら、
「童貞キラー」
という異名があるようで、
「筆おろしには、最適」
ということであろう。
優しい気遣いもできて、先生のような頼りがいもある。そんな彼女を頼もしいと思ったのも、三十郎だけではないだろう」
ということであった。
三十郎は、スタッフに連れられて、入り口のようあカーテンの手前に立つと、何やら、注意事項を聞かされた。
それを聴いていて、思わず、
「んなことは、分かってるよ」
と言いたかったのだが、スタッフとしては、
「これも大切な仕事だ」
と言いたいのだろうが、後で聞いたりしているうちに、
「マジで、こんな当たり前のモラルともいえないようなルールを守れないやつっているんだ」
と思えば、腹が立ってくる。
そして、
「そういう連中のために、真面目に利用している俺たちまで、白い目で女の子に見られるというのは、理不尽だ」
と思う。
しかし、女の子たちからすれば、もっとたまらないだろう。実際にそんなとんでもない連中の相手をさせられて、正直、
「精神を病んでしまう」
ということも普通にあるだろう。
それを考えると、ちょっとしたことで、普通に来ている客にイライラをぶつけてしまったり、客が悪くないのに、衝突してしまい、その客を出禁にでもしてしまい、問題にあることもあるだろう。
その客が、本来なら、完璧な客であれば、何ら問題ないにも関わらず、その対応ができないことで、スタッフに、
「あのお客さん、私にひどいことをしました」
などと言ってしまうと、スタッフも、
「あれ? あのお客さん、いい人で、そんな変なことはしないんだけど」
と言ったとしても、それを聴いた女の子がさらい怒りをあらわにし、
「私のいうことがウソだというの?」
と言い出せば、こうなると、
「売り言葉に買い言葉」
どうしようもなくなってしまうことだろう。
そうなると、
「私は、スタッフからも、客からも、相手にされない」
などと思うと、
「店を辞める」
と言いかねない。
彼女のいうことを聴くのであれば、一人の客を出禁にしないといけない。そうなると、
「出禁になるような客は、他に言っても、同じようなことをして、結局、どこの店からも相手にされないようになるのだ」
ということである。
そうなると、他の店との、
「ブラックリスト」
の情報開示をしていて、
「あの客を出禁にした」
というと、
「えっ? おたくはあの人を出禁に?」
という反対意見があると、他のところも、結構、
「いやいや、あの客を出禁というのはないでしょう?」
などと言ってくるものだ。
そもそも、出禁になるかどうか分からないくらいの怪しい客であれば、
「えっ?」
などと言って、口を挟むようなことはしないだろう。
それをするということは、それだけ、
「店側からも慕われている」
ということになる。
なぜなら、もし、その客を出禁にするようなことになった場合、その客を出禁にしたということが、他から漏れると、
「情報共有と言いながら、、店同士のバチバチというのもあるかも知れない」
ということになると、そんな情報をいかにあやつることができるのか?
ということになるのである。
それを考えると、
「一人の女の子を切る方が、店側としては、リスクが少ない」
と言えるだろう。
そういう意味で、女の子と店、そして、客の間での問題は、大きいのかも知れない。
その時はもちろん、分からなかったが、女の子のことを店は、基本的に守ろうとする。そして、その中でも、一番大きな問題は、
「身バレ」
というものであった。
これが、
「デリヘル」
というもののように、
「客がホテルにいて、女の子が、そこに向かうという場合は、どうしようもないが、店が店舗を構えていて、そこに、男性が来る」
というシステムであれば、防ぎようがある。
待合室などに、マジックミラーを仕込んで置いたり、、防犯カメラを、恩の子に見せたりという方法がある。
中には、先に客を部屋に案内しておいて、部屋の外から確認するというところもあったりする。
しかし、これが難しいところで、身バレの問題というのは、基本的には、お互いに分からず、出会いがしらで、客が、上司であったり、学校の先生であったり、下手をすれば、父親だったりということもありえなくもない。
それを思うと、女の子というのは、前述のとおり、
「昼職を持っていた李、学生だったり」
という顔を持っている。
だから、そのプライバシーを彼女たちは必至に守ろうとする。
というのは、
「目標を持って。この仕事をしているのだから、ここでバレてしまうと、今後、目標に向かって進むための、致命的なミスということになりかねないからである」
それを思うと、女の子も必死だ。
店の方としても、女の子を守らないと、看板の女の子が、
「私辞めます」
と言って、翌日には、ライバル視されている店に新人としていないとも限らない。
こうなると、一人の女の子だけの問題ではなく、彼女についていyた、客をすべて取られるということになる。
集客率が、50%くらいの率を誇っていれば、たまったものではない。
売り上げが半分になり。その分がライバル店に行くのだ。
もし今まで同じくらいだったとすれば、その影響だけで、
「来月から、ライバル店は、うちの3倍の売り上げとなる」
と言っても過言ではないだろう。
それを考えると、
「女の子を簡単に切るわけにもいかない」
ということになるが、それも、女の子次第だろう。
たまにしか指名の来ない、
「フリー要因」
というような女の子であれば、固定客もついていないだろうから、店とすれば、何とでもなるということになるだろう。
しかし、そんなことを簡単にできるわけもなく、結局、
「どっちを切ればいいか分からない」
ということになる。
三十郎は、そんな身バレなどということを知り由もなく、女の子が見ていることを意識することもなく、カーテンの向こうに控えている女の子尾にドキッとした。
正直、
「タイプだった」
のである。
「は、初めまして」
と、緊張した挨拶に、彼女はにこっと笑って、
「どうぞこちらに」
と言って、手を引いてくれたのだ。
清楚な感じはするが、どこか冷たさを感じた。敬語もどちらかというと寂しい感じがする。
部屋に入るまで、彼女は、
「こちらに」
「どうぞ」
という、動作を促す言葉しか言わなかった。
「これが風俗というところの、礼儀なのか?」
と、三十郎は、自分の頭が混乱してくるのを感じた。
部屋に入ると、
「どうぞ」
と言ってベッドの上に腰かけさせた。
「今日は、どちらからなんですか?」
と、やっと会話をしてくれた。
「ああ、えっと、実は先輩に連れてこられて」
というと、急に、彼女の表情が和らいだ。
「自分のお家だと思って、ゆっくりすればいいのよ」
と言って、ニコニコ笑っている。
それを見て、三十郎は、初めて彼女を。
「可愛い」
と感じた。
「いい先輩ですよね? きっとその先輩が私のことを予約してくれたんでしょうね?」
というと、
「ええ、そうですけど、よく分かりましたね?」
というと、
「うふふ」
と、含み笑いではあるが、愛嬌のある笑顔にすっかり、緊張の糸がほぐれてきた。
これも当たり前のことである。当然、スタッフ側も、先輩と一緒にきた三十郎で、前に先輩が予約する時、彼女を予約してくれたのだから、当たり前といえば、当たり前のことだった。
「あらためまして、みなみといいます」
と、彼女は源氏名を言った。
源氏名というのが、彼女たちのいわゆる、
「芸名」
であるということは分かっていた。
そして、スタッフからも、
「ご予約は、みなみさんで間違いないですか?」
と何度も聞かれているので、すっかり、
「みなみさん」
という女性にイメージは沁みついていた。
もちろん、宣材写真も見ているのでイメージはあった。
女の子によって、どこまで顔を出すかというのは、それぞれなのだろうが、彼女は、唇だけ隠して、目は出していたので、イメージも分かっていた。
いかにも、
「童貞キラー」
と言われる、
「お姉さま風の女性だ」
というイメージでいて、しかも、初対面から、どこか塩対応を感じたことで、
「ちょっと、気を引き締めないといけないか?」
とばかりに、
「叱られないようにしよう」
と考えたほどだった。
先輩も最初から言っていた。
「俺も最初は、先輩に連れてこられたけど、次からは一人だったので、一人デビューの時は、相手の女性から、いろいろしきたりのようなものを教えられたものだったよ」
と言っていた。
まさにその通りで、その話は後日談になるのだが、この日は、まずは、
「みなみ嬢」
にお任せするということでの、
「まな板の上の鯉」
ということであった。
みなみ嬢は、とにかく優しかった。
気を遣ってくれていることが、身に染みて分かるような気がして、それが嬉しかった。
そもそも、三十郎は、それほど、人の優しさに触れたことがないと思っている方だったが、それは、きっと
「自分は、人の気持ちに気付かないタイプなのではないか?」
と思っていたからであった。
好きな人ができても、相手が、
「自分に気を遣ってくれている」
という意識が見られなければ、次第に冷めてくるところがあった三十郎であったが、最近ではそれを、
「俺って、どうしても、見返りのようなものを求めているからなのかも知れないのかな?」
と感じるようになったからであり、それは、反省材料ではあった。
しかし、逆にいうと、それができないということは、
「自分が本当にそこまで、本当にその人のことを好きになったわけではないのか?」
と感じていると思うようになっていた。
「半分当たっている」
と考えるようになった。
確かにその通りなのだろうが、
「最初に好きになった」
という気持ちに変わりがあるわけではない。
だから、
「半分は、当たっている」
と思うが、
「半分も、違っている」
ともいえるのであった。
もっといえば、
「俺はこれまでに、本当に好きになったといえる人、ちゃんといたのだろうか?」
とも思えて、そういう人は、もし、一度冷めたり、別れたりしても、後悔ではないが、その人への想いというのは、残っているものではないかと思えるのであった。
今回、相手をしてくれている、
「みなみ嬢」
も、冷めた言い方をすれば、
「お金が絡んでいるから、優しくしてくれている」
と思っている。
それでも、お金を払って、一定時間、最高に尽くしてくれる時間を与えてくれるのであれば、
「それも悪くないのではないか?」
と思うようになった。
「結局、恋愛だと思っていても、見返りを考えたりするのであれば、同じではないか?」
とも思えるのであった。
そう思うと、先ほどまでの緊張は、少しずつほぐれてくるような気がした。
緊張がなくなったわけではないが、それよりも、心地よい気持ちは、
「まるで、宙に浮いたような感覚で、どうにでもしてほしいという感覚は、まさに、快感という言葉にふさわしい時間帯だ」
といってもいいだろう。
身体を、彼女の手が這うだけで、まるで電流が走ったような気がして、身体が反応してしまう。
それを、まるでいたずらっ子のような目をする、
「みなみ嬢」
は、妖艶な笑みを浮かべて、こちらを、あくまでも、下から見上げる様子は、却って、三十郎の、サディスティックな部分を目覚めさせる結果になったのかも知れない。
攻守交替して、三十郎が責めに回ると、
「待ってました」
とばかりに、
「みなみ嬢」
は、三十郎に身を任せている。
「あぁ」
と時々、切ない声を上げる。
その声が、耳に当たって、
「湿気を帯びた空気って、本当にあるんだ」
と感じさせるのであった。
湿気を帯びた空気というのは、肌にまったりとまとわりついてくるもので、心地よさと一緒に、
「けだるさ」
のようなものを、同時に感じさせるものだ。
だが、そのけだるさは、決して鬱陶しいものではなく、
「これから、何度でも味わうことになるのだろうが、その都度飽きの来るものではないと言い切れるだろう」
と思えるものであった。
今は、肌と肌が触れ合っていることで、相手の体温を感じ、
「自分だけが熱くなっているのではないか?」
と思っていたことが、気のせいだと思うと、
「あぁ、彼女も俺に感じてくれているんだ」
と思うと嬉しくなってくる。
お金が絡んでいようと、
「仕事だから」
ということであろうと、
「彼女は俺で感じてくれているということは、紛れもない事実なんだ」
ということであった。
そう思うと、三十郎の指も、
「みなみ嬢」
の肌を這っていた。
「あぁ」
と、お約束の喘ぎ声が聞えた。
「本当に感じてくれているんだ」
と思うと、その快感に酔いしれる自分を感じると、
「俺も、我慢できなくなってくるじゃないか?」
と、快感に酔いしれるだけでは、済まされないということを、感じてくるのであった。
「みなみ嬢」
は、自分が責められている間でも、男の身体を絶えず触り続けている。
それは、あくまでも、
「絶えることのない探求心」
からなのか、必死になって、何かを探しているようだった。
それは、きっと、
「どこをどう刺激するか?」
ということを、必死になって、探っているということであろう。
「男というものを、いかに貪るかということは、女の本性」
であり、それを感じる男も、同じようにしたいと思うのは、
「男の本質だ」
と言えるのではないだろうか?
男というものを、いかに感じるかということは、男にとっても、
「願ったり叶ったり」
であり、逆に
「女の本質、男の本性」
だともいえるのではないだろうか?
「オンナは、快感をいつまでも、保ことができ、何度でも、絶頂に達することができ、さらに、男の何倍もの快感を得ることができる」
と聞いたことがある。
最後の比較という部分は、比較対象になるものを、感じることができないということで、
「どこまでが本当なのか?」
ということになるのだろうが、その時の、三十郎は、その言葉を聴いても、
「信じて疑わない」
といっても、過言ではあるまい。
実際に、それが、
「それまで、俺が知ることができなかった、女の正体」
というものではないか?
と、三十郎は考えたのだった。
ただ、この時、セットで感じたのは、
「男の本性だ」
ということだ。
「片方が本質であれば、片方が本性」
そのどちらにも、
「片方」
というものは、なれるということなのだろう。
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