第2話 奴隷
祠から外に出てみるとジャングルとまではいかないがそれなりに草木が生い茂って見渡す限り木だ。
「こっちか」
太陽なんか見えないので足跡頼りだ。
足跡を見ればどの方向に向かったかがわかるな。
とりあえず残った足跡に沿って行く。ゆっくりしてられないからちょっと急いでだ。
斬られた服がヒラヒラするので前で結ぶ。
「くそ!簡単に斬りすぎなんだよ!」
少し蒸し暑くイライラするが、こんな時こそ冷静にならないとな。
しかし異世界転移?か、本やアニメでは見たことあるが自分がいざなってみると上手くいかないな。
『グギャ』
「おわっ!」
緑色の子供のような背丈、ゴブリンか?
『グギャギャ!』
剣を振り回してくるのでそれを避けると、今度はこっちの番だと蹴りを入れる。
『グギャ!!』
ササッと落とした剣を拾い形勢逆転だ。
それでも噛み付いてこようとするので斬りつけると喉に刺さり死んだようだ。
「っは、ハァァァ」
こちとら生き物を殺すなんて習慣はないんだよ!
「ウェェエェェ!」
とりあえず空腹でよかったが、胃液しか出ないのはキツイな。
「はぁ、はぁ、はぁ」
それにしても剣の扱いなんて習ったことないのになんとか倒せたな。
でもとりあえず武器ができたのはラッキーだな。これで魔物が出て来てもなんとか戦える。
足跡を探してまた追いかける。
「森を抜けないとな!」
なんとか足跡を見逃さないように歩いていたが、咄嗟に木の陰に隠れる。
誰か殺されたらしい。
ゴブリンらしいのが三匹確認できた。
『クチャクチャ』と気持ち悪い音を出しているので今のうちに逃げようと“パキッ”
『グギャギャ!』
「くそぉ!やられる前にやってやる!」
剣を一体目のゴブリンに突き刺して、抜くと二体目の剣を弾く、三体目は蹴り飛ばし、二体目を斬る。
後一体!こっちに向かってくるので俺も走り出し頭を剣で貫くとゴブリンは倒れた。
「はぁ、はぁ、はぁ、ウェェエェェ!」
な、慣れないな。
死体は男のようで騎士ではないようだ。
手を合わせて拝みながら何か持ってないかと探すとベルトにつけるポーチと、ポケットの中にお金のようなものを発見した。
それを悪いと思うがもらうことにする。
後、カードのようなものがあったのでそれもこの人の証明になるみたいなのでそれを持って行くことにする。
バッグなんかがあればよかったのだがその辺には落ちてないみたいだな。
倒したゴブリンの中で一番良さそうな剣に取り替えてまた足跡を探そうとするとガサッと音がしたので構える。
「あ、あの、私」
そこには貫頭衣というような服を着ている女の子が立っていた。その女の子には耳と尻尾がついていた。獣人ってやつか?
可愛いと思うがこんなところで声をかけられると思わなかったので驚き過ぎて声を失っていた。
「…はぁ!ビックリした!どうしたんだ?」
「私はこの人の奴隷だったんですが今から貴方の奴隷です」
女の子はこちらをじっと見ている。
「は?何を言ってるんだ?」
「主人が殺されると、その、奴隷は生きていけなくて」
「いや、逃げればいいじゃないか?」
「そ、それもできなくて、あの、そのポーチの中に奴隷契約書が」
「ん?」
小さなポーチだが中に手を突っ込むと中にあるものが頭の中で分かる。
ゲームなんかでよくあるマジックポーチか!
その中に奴隷契約書というのを見つけ、取り出すと読んでみる。
しかし随分と奴隷に不利な契約書だな。
主人が死ぬとこの契約書を持っているものが主人になるのか…え?それはなんとも胸糞悪い契約書だな?
しかも破くと奴隷は死ぬと書いてあるし、これはどうしたもんか…
「あ、あのご主人様、精一杯頑張りますので捨てないでください!」
「ふーむ、この契約書の破棄は出来ないのか?」
「は、はい!奴隷は奴隷ですので」
「くそっ!ところでなんでこんなところに?」
「私達は馬車で王都に行こうとしていて、ご主人様が腹が痛いと言ってその」
「…森で野糞している間に殺されたと?」
「は、はい」
「そんな情けない…で?お前は何してたんだ?」
「一瞬のことだったんで私もどうしたらいいか分からずに、木の陰に隠れていました」
「…ちょっと待て、私達って言ったか?」
「は、はい、他にもいます」
「はぁ、そこに連れて行ってくれないか?」
「はい!」
ついて行くと女ばかりこの子も合わせると5人もいる。
「あ、帰って来た」
「え、あ!え?」
「みんな、新しいご主人様です」
「「「「「え?」」」」」
そりゃそうなるよな。
「旦那はどうしたんだ?」
「ゴブリンに殺されてしまいました」
と言うと、
「はぁ、バカな主人だった」
と爬虫類の尻尾のようなものを動かしている槍を持った女が言う。
「…せいせいする」
今度は耳の尖った女の子だ。
「で?貴女だけ逃げたの?」
もう一人耳の尖った女が出て来て聞く。
「は、はい」
「貴女は奴隷として失格ですね」
「で、でもほんとに一瞬で!」
「それで貴女はどうしたの?」
「き、木の陰に隠れて」
「卑怯者ね!」
「っ!…貴女だって同じ立場なら!」
「なあ、逃げて当然じゃないのか?」
あまりにも責められるから擁護してやりたくなった。
「も、申し訳ありません」
とすぐに土下座する耳の尖った女。
「いや、別に謝らなくていいんだが」
「は、はい!」
「はぁ、…どうすればいいんだ」
「あ、あの!ありがとうございます」
「気にしないでくれ」
俺はプチパニック中なんだから、さっきから貫頭衣の隙間からいろんなものが見えて、ちょっと整理しないと頭の中がピンク色だ。
ちょうどいい感じの岩があったのでそこに座って落ち着く。
なぜか俺がこの子達のご主人様になってしまったのだからどうにかせねばいかんな。
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