第39話:尾行
ガニラス王国歴二七三年九月一日
王都・西地区・王都ダンジョン
田中実視点
翌日ダンジョンに潜ろうと宿を出たら、全員付いて来た。
悲壮な表情をしている者も多いが、根性を入れてついて来た。
見栄をはって頑張る奴も嫌いじゃない、が、無理をしたら潰れてしまう。
「俺に祝福を下さる神の像だ、持っていろ。
攻撃力はないが、百トン級のサブ・ドラゴンの攻撃くらいなら防いでくれる」
ヴィオレッタたち全員に守護神像を渡した。
「ありがとうございます、これで安心して眠れます」
全員を代表してヴィオレッタが礼を言う。
俺を指導する時にはセオドアが話し、随行員を代表する時にはヴィオレッタが話すようにしているようだ。
「やる訳ではないからな、ダンジョンから出たら回収する」
守護神像を悪用されるのは嫌なので、そう簡単に与えられない。
一時的に貸すだけで、必要がなくなったら回収する。
ヴィオレッタが本当に俺の正室になるなら何十個でも与えるが、ヴィオレッタに好きな男ができたら、そいつが見所のある奴だったら、正室話は無しだ。
「お気をつけて行ってください」
昨日の事が、ダンジョンの出入口を管理する連中に広まったのだろう。
一度目の対応とは全く違う、媚び諂うような態度だ。
俺は相手や状況によって態度を変える奴が大嫌いだ!
「ご苦労様です」
俺達を代表してセオドアが挨拶してくれる。
これは一度目と同じで、俺やヴィオレッタが頭を下げなくていいように、家臣代表として挨拶してくれている。
貴族と騎士を比べたら、最下級の貴族である男爵の方が、領地の有無に関係なく立場が上なのだが、騎士同士だと領地持ちの方が偉いと言う奴がいるそうだ。
そういう奴は大抵領地持ち騎士で、自分が領地を持っているから、王家や有力貴族に仕える領地の無い騎士よりも偉いと思いたいのだ。
領地持ち騎士の中には、ルイジャイアンのように、騎士団を設立して同じ騎士を配下にしている者もいるから、猶更なのだろう。
一方王家に仕える領地のない騎士は、王家や王国の権力や財力を背景に、自分達の方が田舎騎士よりも偉いと思っている。
そんな立場や考え方の違いから、騎士同士の争いが頻繁に起こる。
身分は騎士でしかないのに、有力な騎士団を持っている者もいれば、騎士同士が連合して騎士団を設立して、有力貴族に対抗できる騎士団員となっている者もいる。
そんな状況になっているので、王家も有力貴族も下手に騎士同士の争いに介入できなくなり、決闘で正邪を決めている状況だとセオドアが教えてくれた。
だから、昨日決闘を言い立てて実力を示したセオドア達を、ダンジョンの出入口を管理する騎士が恐れるのもしかたがない。
仕方がないとは思うが、どうしても好きにはなれない。
「ミノル様、ヴィオレッタ様、後をつけて来る者がいます、お気づきですか?」
「分かっている、俺の実力を確認したいのだろう」
「分かりませんでした、相当の実力者なのでしょうか?」
「私には分かりかねます、ミノル様、御説明願いますか?」
セオドアが俺に振って来やがった。
セオドアもヴィオレッタを俺の正室にしたいのか?
確かに、これまでの状況を考えると、俺の財力は有力貴族以上だろう。
ルイジャイアンと同格の領地持ち騎士に嫁ぐよりは豊かに暮らせる。
「分かった、説明しよう、間違いなくかなりの実力者だ。
ダンジョンに潜った日とダンジョンから出た日には見なかった顔だが、放っている気配から考えると、ダンジョンの三十階から三十五階くらいの実力だろう。
ヴィオレッタたちの実力に合わせた速さでダンジョンに潜りながら言った。
「一番深くまで潜っていたのは四十三階でしたよね?
その方々を使わないと言うのは、ミノル様を舐めているのでしょうか?」
「さあ、それは分からない。
派閥の違いで使える騎士と使えない騎士がいるのかもしれない。
王家の仕える騎士よりも深く潜れるわけがないと思っているのかもしれない。
今日使える最強の騎士が、尾行している連中かもしれない。
確かなのは、こちらの実力がある程度バレると言う事だ」
「もうバレても構わないのですよね?」
「最初から隠す気なんてないし、知られても困らない。
お前達の限界が来ない限り、不老不死ドロップが手に入れるまで戻らない。
いや、ルイジャイアンとの約束があるから、一年後には戻る」
「一年ですか、ちょっと長いですが、不老不死がドロップするまでと言われるよりは、目途があるだけ頑張れます。
ただ、一年後に不老不死がドロップしていないと、王家や有力貴族の勧誘が激しくなるかもしれません」
「王家や有力貴族の勧誘?」
「昨日交渉した有力貴族の中には、ミノル様を自分達の派閥に取り込もうとした者もいましたから、実力が知られたら、勧誘がもっと激しくなると思ったのです」
「それはちょっと面倒だな。
不老不死がドロップした後なら、無視して村に帰るだけでいいが、ドロップしていないと、王都に戻らないといけない」
「気にされなくてもいいのではありませんか?
ミノル様の実力なら、今でも王国軍を圧倒できるのでしょう?
無視してしまわれたらいいのです。
私達を伴わなければ、誰にも気付かれる事無くダンジョンに潜れるのでしょう?」
よかった、ヴィオレッタは俺の事など何とも思っていないのだ。
これで幼妻を守る責任を背負わなくてもいい。
「そうだな、そうさせてもらおう」
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