第29話:捕虜と脅迫状

 ガニラス王国歴二七三年五月三〇日

 ミノル・タナカ城

 田中実視点


 ルイジャイアンと捕虜の扱いを話してから二時間ほど後で、疫病神に御願いして敵の疫病を終わらせて頂いた。


 ただ、終わらせる前に最後の止めを刺した。

 水と雨雪を司る淤加美神に御願いして、豪雨を降らせて頂いた。


 敵は痛覚が異常に敏感になっている状態で、豪雨に叩かれ続けるのだ。

 その苦痛は想像を絶するものがあり、精も根も尽き果てる状態になっていた。


 何より、下痢と嘔吐の汚れを洗い流してもらえたのが大きい。

 糞尿まみれになって連中に近づくのも嫌だったから、もの凄く助かった。


 鎧の上から全てを洗い流すほどの豪雨を降らせてくださった、淤加美神には心から御礼を言って感謝を捧げた。


 抵抗する気力を失った敵を城内に入れるのには、人力が必要だった。

 俺の魔術を使って運ぶのではなく、ルイジャイアンの家臣が運ぶ事で、敵にルイジャイアンの捕虜になった事を自覚させた。


 特に思い知らせたかったのは、宮中伯が代理に寄こした宮中騎士とパラスケボプロス侯爵軍の指揮官とアドリア・アンドリュー騎士だ。


 ルイジャイアンの家臣が五十人ずつ捕虜を担いでくる毎に、城壁内側の四階横穴に放りこみ、材木と土で創った扉で蓋をした。


 アニメやラノベの幽閉室に有るような、食事を差し入れる小さな口と、捕虜がいる事を確認する小さな口の有る、頑丈な木製の扉で蓋をする。


 木々を司る久久能智神と五十猛神、木工を司る彦狭知命と手置帆負神に御願いして、魔境の木々を圧縮強化合板にしていただき、横引の扉にしてもらった。


 更に扉の表面に厚みのある神像彫刻を刻んでもらい、壁画よりは多く、立体的な神像よりは少ない、神通力を留めてもらった。


 この世界の神から百度の祝福を頂いた者が、最強の攻撃魔術を放とうと、強化された身体で死力を尽くしたとしても、破壊する事にできない強固な扉だ。


 全員を牢屋にした横穴に放り込み、体力を回復させるための麦粥を作って与え、三時間ほど休ませてから、ルイジャイアンが尋問を始めた。


「アドリア、お前がウソを言って宮中伯と侯爵を利用したのか?

 それとも、宮中伯と侯爵がお前を利用して俺の村を奪おうとしたのか?

 正直に言わないと、もう一度あの地獄の味合う事になる。

 お前だけでなく、村に残っている家族も、あの地獄の苦痛を味合う事になる」


「……最初は、俺の野心でお前の村を手に入れる心算だった。

 だが、この巨大な城があるのが分かって、アポストリディス宮中伯とパラスケボプロス侯爵が城を欲しがった。

 この城があれば、魔境に独立王国を築く事も可能だ。

 独立しなくても、この城を拠点にすれば、王国内の誰にも負けない。

 その力を背景に、王国の政治を牛耳ろうとしたのだ。

 俺もおこぼれで子爵にしてもらうはずだった……それが、なんなんだ!

 あの力は何なんだ、どの神様に祝福されたらあんなことができるんだ!

 ギャッフ」


 アドリアは尋問の途中で激高して暴れ出そうとしたが、そんな体力はなかった。

 ルイジャイアンに軽く殴られただけで昏倒してしまった。


 ルイジャイアンは、家臣に命じてアドリアを元の牢屋に放り込んだ。

 介抱は同じ牢屋にいるアドリアの家臣がやるだろう。


「アドリア・アンドリューが全て白状した、お前も正直に白状しろ。

 アポストリディス宮中伯が、私利私欲で王国の政治を私したのだな。

 嘘偽りを口にしたら、さっきの生き地獄をもう一度味わう事になるぞ!」


 ルイジャイアンは宮中騎士にも激しい尋問を行った。

 騎士とは言っても内政が専門の役人だ。

 地方の領主舐められないように騎士の地位に就いているだけの文官だ。


 そんな文官に、武闘派のルイジャイアンと争う力も根性もない。

 前日と午前中の交渉で居丈高だったのは、王家の威を借りていたからできた事だ。


 相手が王家の威光も恐れない武闘派だと分かれば、逆に平身低頭な態度になる。

 まして二時間前に生き地獄のような激痛に苛まれたばかりだ。


 もう一度あの激痛を与えると言われれば、嘘などつけない。

 いや、嘘をついてでも激痛から逃れようとする、誇りも根性もない腐れ外道だ。


「アポストリディス宮中伯が悪いのです、私の地位では逆らえないのです。

 辺境伯はパラスケボプロス侯爵と手を組んで、何の罪もないルイジャイアン・パッタージ殿から城と領地を奪おうとしたのです。

 全部アポストリディス宮中伯とパラスケボプロス侯爵が悪いのです」


「それを国王陛下にも奏上できるか?

 国王陛下に、アポストリディス宮中伯とパラスケボプロス侯爵の罪状を書いた告発状を奏上できるか?

 できるなら、この城で騎士待遇の生活を保障する。

 王都王城に戻ったら殺さるだろう、この城で守ってやる。

 ただし、裏切らないように、神々の刻印を身体に刻む。

 俺達を裏切ったら、あの激痛に襲われる刻印を刻む。

 まあ、告発状を書かなければ、今直ぐあの痛みに苦しむ事になるがな」


「書きます、書きます、喜んで書かせていただきます。

 ですから、もうあれだけは許してください。

 もう一度あの痛みを味合うくらいなら、死んだ方がましです!」


「だったら今直ぐこの紙に告発文を書け」


 宮中騎士は、告発文を書かせてから客室に案内した。

 客室とは言っても、城壁内側にある横穴なのは牢屋と同じだ。

 違うのは、四階から七階になり、雑居房だったのが個室になった事だ。


 それに、個室と呼べるくらいには調度品が整っている。

 城の警備をしてくれているルイジャイアンの家臣が過ごしやすいように、最低限の家具が揃っている。


「最後は侯爵軍の指揮官だ、連れて来い」


 ルイジャイアンが家臣に命じた。

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