第30話:尋問と強襲

 ガニラス王国歴二七三年六月一日

 アドリア・アンドリュー村

 田中実視点


 ルイジャイアンはパラスケボプロス侯爵軍の指揮官も尋問した。

 尋問して侯爵の悪事を告発させようとした。

 だが、千の軍勢を預かるだけの騎士だ、最初は主君を売らなかった。


「ミノル、もう一度頼む」


 主君の為に、痛みに耐えきれずに自白する前に、自害しよとした指揮官。

 そんな侯爵家の忠臣を自害させずに拘束したルイジャイアンは、忠臣を家臣に任せて、敵に俺が黒幕だと知られないように、誰もいない場所で言った。


「分かったが、その前に指揮官の身体に呪いを刻印しよう。

 疫病神に御願いして、指揮官の身体に疫病神の絵を描いてもらう。

 痣で疫病神の印を残して呪いを留める。

 指揮官が俺達を裏切ろうとしたら、あの地獄の苦痛に苛まれる。

 死のうとしても、地獄の苦痛に苛まれて自害もできないようにする」


「そんな事ができるのか?!」


「やってみれば、やれるかやれないか分かる。

 できなかったら他の方法を考えればいい」


「分かった、やってみてくれ」


 パラスケボプロス侯爵軍の指揮官は、三度目の疫病に耐えられなかった。

 激痛にも苦しんだが、俺たちの前で糞尿を垂れ流した事で根性が挫けた。

 告発文を書くと約束したので、疫病を止めてやった。


 もしかしたら、激痛が止まったら自害する心算だったのかもしれない。

 誇り高い騎士だから、それくらいの覚悟はあったかもしれない。


 だが、疫病が消えて周りを見たら、脅迫されただけで告発文を書いた騎士が、平気な顔をして御馳走を食べ酒を飲んでいる。


 忠義の為に、疫病に苦しみ糞尿を垂れ流しながら痛みに痙攣する副指揮官と騎士もいるが、大半の騎士は言葉で脅かされただけで告発文を書いている。


 自分が自害しても、侯爵の罪を告発する者が沢山いる。

 それが指揮官の根性を打ち砕いて告発文を書かせたのかもしれない。


 言葉で脅かされただけで告発文を書いた根性のない騎士は、胸に痣の刻印を記して客室に移動させた。


 指揮官から徴兵された者まで、全員が侯爵の告発状を書いた。

 彼らに完全な自由は与えられないが、時間を決めて交代で自由にさせた。


 自由にさせたとは言っても、城の内側からは出られない。

 俺達に逆らっても、城から出ても、疫病が再発すると言って脅したから、誰も逆らわないし逃げようともしない。


 俺は二日後にアドリア・アンドリュー村を占領した。

 このまま王国と争ったら、アドリア・アンドリュー村が王国軍や侯爵軍に占領され、軍に略奪されるとルイジャイアンが言ったのだ。


 王国軍と正面から戦う事にはならないが、対陣しての睨み合いとなるから、王国軍に駐屯された町や村は悲惨な状況になると言われたのだ。


 力の有る領主が治める都市や街なら、王国軍の騎士や兵士も大人しくするが、諍いの原因となったアドリア・アンドリュー村は、徹底的に略奪されると言われたのだ。


 そう言われると、見殺しにできなくなってしまった。

 良心がシクシクと傷んで、責任を持たない範囲で助ける事にしたのだ。


 アドリア・アンドリュー村の防壁など、軽々と乗り越えられる。

 領主館の扉など軽く壊して侵入できる。


 アドリア・アンドリューの家族や家臣など、優しく撫でる程度で昏倒させられる。

 戦うどころか、争う事もなく、一瞬で領主館を占拠できる。


 元々、五百人弱の領民から百人も徴兵して軍勢を整えたのだ。

 まともに戦える者など殆ど残っていなかった。

 アドリアの家族と少数の守備兵を倒したら、簡単に占領できた。


 俺が本当にやりたかったのは、アドリア・アンドリュー村を守る事だ。

 もしかしたらやって来ないかもしれないが、王国軍が来た時に、領民が殺されたり痛めつけられたりしないように守る事だ。


 戦える者がほとんどいない状況で、魔境の魔獣やドラゴンに襲われないように、城壁を創って守ってやる事だ。


 最初に築いたのと全く同じ城壁を、空壕も含めて魔術で創った。

 戦える者がいなくなった事で、手入れができなくなった放牧地も含めて、村の周囲にある木々を根返りさせた。


 元々ルイジャイアン・パッタージ村ほど広い放牧地ではなかった。

 アドリア・アンドリュー村の周囲にある空き地は、千メートル四方しかなかった。

 それを、王国軍の弓兵の力を考えて二千メートル四方の木々を根返りさせた。


 二千メートル四方にあった木々の半分を城の内部に置いておき、領民が日常的に使う薪などにできるようにした。


 これでアドリア・アンドリュー村も俺の領地になった。

 だが、ルイジャイアンの領民数では守備兵を置く事ができない。


 恐怖も痛みも与えていないアドリア・アンドリュー村の領民が、何も分からずに蜂起したら、彼ら傷つけてでも止めないといけない。


 仕方がないので、二つ目の城壁を創る事にした。

 一つ目の城壁の内側に、アドリア・アンドリュー村に備える城壁を創った。


 深さ五十メートルの空壕も、高さ五十メートルの防壁も、内側にあるアドリア・アンドリュー村に備えるためだ。


 外側と内側の城壁の間は百メートルほどある。

 内外に歩道と自転車道と四車線道路、真ん中に商店街を創れるようにしておいた。


 これでドーナツ型の城が完成した。

 内外の敵、両方に備えられる城だが、後々の使い道も考えている。

 空壕と城壁を乗り越えられない程度の魔獣を飼う場所にするのだ。


 貴重な素材が取れる魔獣を養殖できれば、安定して莫大な富を確保できる。

 ダンジョンもなく交通の便も悪い魔境の村にとって、これほど安定した収入源はないと考えた。


 内外の城壁が完成したのを待っていたかのように、ルイジャイアンが家臣を率いてやってきた。


「おい、おい、おい、城を留守にして大丈夫なのか?」


「ミノル・タナカ城は三男のラザロスに任せて来た。

 捕虜だった連中も、刻印があるから絶対に逆らわない。

 それよりもこれはどういう事だ、内側にまで城壁を創るとは聞いていないぞ」

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