第24話:神像

 ガニラス王国歴二七三年五月九日

 ミノル・タナカ城の周囲にある魔境

 田中実視点


 とても欲深い御願いをした後、暫く待ったが、何も起こらなかった。


「……流石にいくら何でも無理な御願いだったようですね」


 ヴィオレッタが慰めるように言ってくれるが、手応えはあった。

 もう少し何か工夫する事で、神々の力をこの世界に止められる気がする。

 それに、何が足らないのかくらい、直ぐに分かった。


 俺が手を抜いたからできなかっただけだと思う。

 仏造って魂入れずという言葉があるのだ。

 神々の御力を地上に止める神像は、自分で造らないといけないのだ。


 だが、俺は壊滅的に不器用で、神々が認めて下さるような像は造れない。

 かといって、地球の神々の事など全く知らない異世界人に、造ってもらうのはもっとおかしい気がする。


 日本に戻って既製品の神像を買ってくるのもおかしい気がする。

 有名な仏師に造ってもらうのなら大丈夫な気はするが、お金的にも時間的に難しいので、自分で何とかするしかない。


「遠く大八島国に暮らされている全ての神々に希い願い奉る。

 遠く蝦夷地に暮らされている全ての神々に希い奉る。

 特に石を司る石土毘古神と石巣比売神に希い奉る。

 木を司る久久能智神と五十猛神に希い奉る。

 粘土と埴輪を司る波邇夜須毘古神に希い奉る。

 鉱山を司る金山彦神と金山毘売神に希い奉る。

 製鉄と鍛冶を司る天目一箇神に希い奉る。

 鋳物と金属加工を司る神伊斯許理度売命に希い奉る。

 勾玉を司る玉祖命に希い奉る。

 鍛冶と鋳造を司る天之御影命に希い奉る。

 御身を慕う者に力を御貸し下さい。

 御身を慕う者に神像を創らせたまえ。

 木像、石像、埴輪像、砂像、銅像、乾漆像、鉄筋コンクリート像など、考えられる全ての材料で神像を創らせたまえ。

 大八島国と蝦夷地に暮らしておられる全ての神々が望まれる、ありとあらゆる神像を、御身を慕う者に創らせたまえ。

 御身らを加えた、志那都比古神、国之常立神、建御雷之男神、淤加美神、天迦久神、大山津見神、ニドムカムイ、天御中主神、高皇産霊神、神皇産霊神、伊邪那岐神、伊邪那美神、大物主神、猿田毘古神、道祖神が望まれる神像を創らせたまえ。

 御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、守護神像」


「「「「「うっわ!」」」」」


 憐れむような表情で俺を見ていたヴィオレッタたちが、驚きの声を上げた。

 俺は喝采を上げて小躍りしたかったが、我慢した。

 ぐっとこらえて思いつく限りの神々に心から御礼を言った。


「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます」


 神々の御力で創る事ができた街道の両脇に、神像が立ち並んでいく。

 ニドムカムイに御願いして根返りさせた木々を材料にした神像が創られる。

 木像だけではなく、他の素材でも神像が創られていく。


 大理石の白さが美しい神像、黒光りする御影石が美しい神像、青味のある輝きを放つ栗石の神像、真新しい銅が光り輝く神像、砂を固めた神像、陶磁の神像などが街道に向こうにまで創られていく。


 多くの神々に心から希い奉ったからだろうか?

 如何にも強力そうな剣と盾を持たれ、神々しいほどの光を放つ鎧と勾玉などを身に纏っておられる。


 これは、自身がこの世界に顕現される事を考えて創られたのだろうか?

 神通力の一部であろうと、この世界に留まらせるためには、これほど神々しい神像が必要なのだろうか?


 などと考えている時間があるなら、やって見ればいい。

 駄目だったらまた挑戦すれば良いだけの事だ。


「遠く大八島国に暮らされている全ての神々に希い奉る。

 遠く蝦夷地に暮らされている全ての神々に希い奉る。

 特にこれまで御力を御貸し下さった神々に希い奉る。

 風を司る志那都比古神、地上世界を成り立たせる国之常立神、雷と剣と相撲を司る建御雷之男神、水と雨雪を司る淤加美神、矢よりも速く駆ける天迦久神、山と森を司る大山津見神、森を司るニドムカムイ、天地宇宙創造の神である天御中主神、男女産霊の神で生成力を持たれる神でもある高皇産霊神、生成力を我々人間の形とした御祖神である神皇産霊神、国生みと神生みの男神である伊邪那岐神、天津神の命により創造活動の殆どを司り冥界も司る女神である伊邪那美神、五穀豊穣と厄除けと国の守護神である大物主神、道を司る猿田毘古神、村を守り子孫を繁栄させ旅の安全を守る道祖神、石を司る石土毘古神と石巣比売神、木を司る久久能智神と五十猛神、粘土と埴輪を司る波邇夜須毘古神、鉱山を司る金山彦神と金山毘売神、製鉄と鍛冶を司る天目一箇神、鋳物と金属加工を司る神伊斯許理度売命、勾玉を司る玉祖命、鍛冶と鋳造を司る天之御影命。

 御身を慕う者に力を御貸し下さい。

 御身の形代、神像に力を留まらせてください。

 善良な者を守り、悪しき者を罰する力をこの世界に留まらせてください。

 御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、守護結界」


 とんでもない力が次々とやってくるのが分かる。

 これまで多くの神々の御力を御借りしていたからこそ分かる。

 数えきれない御力の一つ一つに、ドラゴンを狩った時以上の御力がある。


「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます」


 何万何十万と下された御力の一つだけで、ドラゴンを斃す事ができる。

 これで街道に近づく魔獣もドラゴンもいないと確信できる。

 悪しき心を持つ者は、近づいただけで滅されるだろう。


 これで老若男女が何の不安もなく安全に街道を使える。

 目的地にまでつなげれば、安全に交易できるだろう。

 ただただ御礼を言うしかないほど強大な御助力を賜った。


「……ミノル様、これはいったい……」


 ヴィオレッタが震える声で聞いてきた。

 六人の中で最上位だという責任感が、畏怖を押し殺して質問させたのだろう。

 本当に気高く勇気ある、尊敬に値する騎士だ。


「俺の世界の神々が神像に御力を込めて下さったのだ。

 これでこの街道が魔獣やドラゴンに襲われる事は無くなった。

 エマヌイユ・ディアマンティス街までつなげるから、安心して交易するが良い」

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