第25話:不満と代案

 ガニラス王国歴二七三年五月九日

 ミノル・タナカ城の周囲にある魔境

 田中実視点


 神像を創り、神通力を入れる事に成功したので、直ぐにでもエマヌイユ・ディアマンティス街に街道を繋ぎたかったのだが、ルイジャイアンに反対されてしまった。


「ミノル、あまりにも強い力は問題がある」


「どんな問題があるんだ?」


「どれほど強大な魔獣もドラゴンも横切らせない街道が長く続いたら、魔獣やドラゴンはどこに行く?」


「……道に沿って移動するな」


「その先にこの村があるのだぞ!」


「この村に神像を置いてはいけないのか?」


「俺の村はいいが、他の村はどうする?

 到着先に予定している、エマヌイユ・ディアマンティス街はどうなる?」


「勝手に神像を置いたら争い事になるのだったな?」


「なる、なるが、それ以前の問題だ。

 神像を置くか置かないかの争いごとになる前に魔獣に襲われる。

 ミノルが街道を造った所為で襲われたと言われるぞ!」


「神像を置かない、守護結界を張らない、危険な街道なら良いのか?」


「ああ、構わないが、それだと、以前言ったような街道の争奪戦になる」


「どっちにしても争いごとになるのか……」


「ああ、そうだ、ダンジョンを御創り下さった神々のように、地下に街道を造るような奇跡でも起こせない限り、争い事は避けられない」


「そうか、地下に街道を創れば良いのだな!」


「おい、おい、おい、ミノルの世界の神々がどれほど強大だとは言っても、人に与える加護ていどで地下に街道を造るのは……不可能だよな?」


「それはやってみなければ分からない、だからやってみる」


 俺はそう言ってルイジャイアンの館を出た。

 街道を創るような無駄な事をせず、アドリアを殺して村を奪う方が簡単だとは思うが、弱い人間を一方的に殺すのは、どうにも嫌なのだ。


 面倒な街道創りなどせずに、魔獣を狩ればいいとルイジャイアンに言われたが、魔獣やドラゴンを狩って祝福を上げるのは、とても効率が悪くなった。

 俺が強くなったからだろうが、一日中狩りをしても祝福されないのだ。


 それなのに、もの凄く短い距離の街道を創っただけで、祝福が一つ上がった。

 多くの神像を創った時には、五回も祝福された。

 神々の力を神像に留めた時にも、五回も祝福された。


 街道創りは神々の願いに叶っている。

 少なくとも俺の知っている神々の願いには叶っている。


 とはいえ、祝福上げに為に創った街道創りの悪影響で、何の罪もない人が魔獣やドラゴンに襲われるのは嫌だ、悪夢を見るに決まっている。


 ルイジャイアンは地下トンネルを造るのは神の技だと言っていたが、日常的に地下鉄を使っていた俺は、地下道なんて人間でも造れるモノだと知っている。


 まあ、俺の場合は、神々の御力を借りて創るのだから、ルイジャイアンの言葉に嘘はないのだが、出来ないとは思えない。


 問題は、どの神様の御力を借りるかだ。

 地上の街道のように、知っている神様全てに御願いするのは、不敬だと御叱りを受けるだろか?


 日本のトンネルの場合は、地下鉄以外は山を掘って隧道を造っていたから、事故がないように山の神を奉っていたと記憶している。


 建築工事の神様は、天孫降臨で日本統治の土台を築いたという事で、天津彦火邇々杵尊が祭られているが、天津彦火邇々杵尊だけに御願いすべきなのだろうか?

 多くの意味名を持たれているが、瓊瓊杵尊と御呼びした方が良いのだろうか?


 それとも地鎮祭で御願いする、大地の守護神である大地主神に御願いした方がいいのだろうか?


 工事の時に安全を御願いする土地の氏神様、産土大神も一所に御願いした方が良いのだろうか?


 考える時間がもったいないから、とりあえずやってみるが、あまりにもかけ離れた神様に御願いするのは申し訳ない気がしてきたのだ。


 気軽に頼んで怒りを買うのと、無視して怒りを買うのと、どちらが重い神罰が下るかなんて、人の基準では分からないから自分で決めるしかない。

 

「遠く大八島国にて人々を守る神々よ。

 遠く蝦夷地にて人々を守る神々よ。

 風を司る志那都比古神、地上世界を成り立たせる国之常立神、雷と剣と相撲を司る建御雷之男神、水と雨雪を司る淤加美神、矢よりも速く駆ける天迦久神、山と森を司る大山津見神、森を司るニドムカムイ、天地宇宙創造の神である天御中主神、男女産霊の神で生成力を持たれる神でもある高皇産霊神、生成力を我々人間の形とした御祖神である神皇産霊神、国生みと神生みの男神である伊邪那岐神、天津神の命により創造活動の殆どを司り冥界も司る女神である伊邪那美神、五穀豊穣と厄除けと国の守護神である大物主神、道を司る猿田毘古神、村を守り子孫を繁栄させ旅の安全を守る道祖神、石を司る石土毘古神と石巣比売神、木を司る久久能智神と五十猛神、粘土と埴輪を司る波邇夜須毘古神、鉱山を司る金山彦神と金山毘売神、製鉄と鍛冶を司る天目一箇神、鋳物と金属加工を司る神伊斯許理度売命、勾玉を司る玉祖命、鍛冶と鋳造を司る天之御影命、建築工事を司る瓊瓊杵尊、大地を守護される大地主神、土地の氏神様である産土大神。

 これまで私に力を御貸し下さった全ての神々よ。

 御身を慕う者に力を御貸し下さい。

 誰にも迷惑が掛からない地下に街道を創らせてください。

 ルイジャイアン・パッタージ村からエマヌイユ・ディアマンティス街に通じる地下道を創らせてください。

 御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、地下道創り」


 今回も俺の周りにはヴィオレッタたち六人がいるが、声もなく固まっている。

 ダンジョンがどんな造りなのか知らないが、目の前で地面に穴が開きトンネルが創られていくのだから、驚くなという方が無理な話だ。


 地下街道への入り口は、大量の雨水などが入り込まないように、周囲が高くなっていて、馬車や人も一度なだらかに上ってから下って地下街道に入る。


 洪水などがあっても、二メートルの高さを超えない限り、周囲の水が入り込まないようになっている。

 

 大洪水になった時の事を考えて、周囲に地下水道を創って水が低地に逃げるようにしたが、城に空壕までつないで水濠にしようかな?


 魔境ではそのまま飲めるような水が不足しているというから、人工の池くらいは創った方が良いかな?


「俺は安全確認のために地下街道に入るが、ヴィオレッタたちはどうする?」


「力不足なのは重々承知していますが、建前は護衛です。

 ミノル様が行くと言われているのに、逃げる訳には行きません。

 御一緒させていただきます」


「姉上が行かれるのに、見習の私が行かない訳にはいきません。

 私も行かせていていただきます」

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