第19話:土属性亜竜・バイオレント・サブ・ドラゴン
ガニラス王国歴二七三年五月七日
ルイジャイアン・パッタージ騎士領奥の魔境
田中実視点
今回身体強化は、これまでの身体強化とは比べ物にならないくらい強力だった。
足の速さに特化した身体強化よりも素早く駆けられる。
以前よりも祝福を重ねているとはいえ、それだけが理由とは思えない力強さだ。
あっという間にドラゴンの前にたどり着けたが、意外な事に血塗れだった。
これまでの攻撃が全く通用していなかった訳ではなかった。
十分にドラゴンを傷つけることができていたが、絶命に至らなかっただけだ。
だが、それだけに、手負いのドラゴンは怒り狂っている。
手負いの獣は恐ろしいと言うが、敵は獣どころかドラゴンなのだ。
これだけの身体強化をしていても、少しの油断が命取りになるかもしれない。
ドラゴンの気配が近づくのと同時に、無限袋から壁盾剣を出してある。
切れ味よりも破壊力を重視した、マンガやアニメに出て来るような巨大剣。
鍛造などできないから、型に鉄を流し込んで造ったという超重量剣。
「ギャオオオオオ」
威嚇なのか怯えなのか、ドラゴンが咆哮する。
あれだけ死にたくなくて、不老不死を求めていたのに、孫のような美少女に見栄を張ってしまい、ドラゴンと戦う事にしたのだ。
今更咆哮ていどで怯んだりしない。
光のような速さとは言わないが、音速は超えていたのだろう。
ソニックブームを起こしながらドラゴンに肉薄した。
ドラゴンに反応する時間を与えず、全身全霊の一撃を放つ。
ドラゴンの弱点と言われている逆鱗の場所は、強化された視力で確かめている。
鋭利な剣で首を斬り飛ばすのではなく、鈍器を力任せに放って、叩き潰してブチ切る感じでドラゴンの首を千切り飛ばす!
逆鱗以外の鱗は余程堅いのだろう、壁盾剣が潰れて変形する。
鍛造剣なら折れてしまっているのだろうが、鋳造剣だから変形ですんだ。
壁盾のように長かった身幅が、竜の首の形に凹んでいる。
凹んだ分だけ横に厚みが出てしまっている。
日本刀で言う重ねの部分が、身幅よりも長くなってしまっている。
特別製の、祝福を重ねた者しか使えない超重量級の武器が駄目になってしまった。
城門を粉砕できる攻城兵器にも、総鉄製の盾の代わりにも使える、特別製の武器が駄目になってしまった。
この剣は、熔かして再度型に流し込まないと使い物にならないだろう。
だが、壁盾剣を駄目にした価値はある。
あれだけ強大に感じ、恐怖したドラゴンを斃す事ができたのだ。
おっと、いけない、ドラゴンはとても高い値段で売れるはずだ。
「遠く大八島国にて地上世界を成り立たせる国之常立神よ
国常立尊、国底立尊、国常立尊、国狭立尊、国狭槌尊、葉木国尊よ。
多くの意味名を持ち空間を司る国之常立神よ。
どうか多くの物の時を止めて保管する力を授けてください。
狩り集めた全ての魔獣を、時間を止めた空間で保存させてください。
御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、無限袋」
ズシリと、とても大きくて重みのあるモノを無限袋に入れた気がした。
気分だけかもしれないが、とてつもない価値のあるモノを入れた気がした。
余りにも集中していたせいか、何回何十回祝福されたのか分からない。
遠距離から多くの魔獣を斃した時には、ピカピカと光り輝く回数を数えていたが、今回は回数どころか輝いていたのかも分からない。
まあ、いい、もう七十回は越えている、一回や二回は誤差の範囲だ。
そんな事よりもヴィオレッタ達に追いつかないといけない。
「ミノル殿、どこに居られるのですか?!
足手纏いと言われようと、護衛に雇われた以上、命懸けで護るのが騎士です!
ミノル殿、どこに居られるのですか?!」
美少女だから下に見ていたわけではないが、ヴィオレッタは立派な騎士だ。
死の恐怖に打ち勝ち、騎士道に殉じる事の出来る立派な騎士だ。
逃げろと言った事を詫びなければならない。
「ここだ、ここにいるぞ、ドラゴンは斃した、胸を張って戻ろう」
「なんですと、ドラゴンを斃されただと?!
魔境に住むドラゴンを斃せるなら、ダンジョンの深部に潜れると聞いています。
街道を使わずに魔境を突破して王都に行く事も、アドリア・アンドリューが治める村を堂々と抜ける事もできるでしょう」
「その辺はルイジャイアン殿と相談して決める。
まだ時間はるが、今日はもう十分祝福上げできた、一旦村に帰ろう」
「分かりました、ドラゴンを狩った事を父上に報告しましょう。
狩ったドラゴンは無限袋に納められたのですね?」
「ああ、金になると思って、他の魔獣と一緒に入れてある」
「父上の話を聞いただけですが、ドラゴンは亜種でも高値で取引されるそうです。
先に狩られたワイルド級の魔獣でも百万セントになると聞いていますが、ドラゴンなら、千キロくらいの小さなドラゴンでも四千万セントになると聞いています」
「とんでもない金額になるのだな。
上手く小売値で売れたら、それだけで不老不死ドロップを買えるかもしれない」
「それは分かりませんが、魔境のサブ・ドラゴンを斃せるなら、ダンジョン最深部に出る亜竜も斃せると聞いています。
数を斃せば、不老不死ドロップを手に入れられる可能性はあります。
急いで村に戻って、父上に相談しましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます