第20話:攻め滅ぼすか?
ガニラス王国歴二七三年五月七日
ルイジャイアン・パッタージ村領主館
田中実視点
本物のドラゴンなのかサブ・ドラゴンなのかは分からないが、強大な魔獣を斃してルイジャイアンの村に戻った。
日本に戻る時間にはまだ間があるが、熱中して狩りをしていたので、昼食を食べてからそれなりに時間が経っていた。
異世界ではスマホが十分に使えないし、激しい戦いがあるかもしれないと思い、方位磁石付きの軍用時計を身に付けている。
その時計では十五時になっている。
日没二時間前には日本に戻る予定だったから、ルイジャイアンと話せるのは一時間ほどしかなかった。
「父上、ミノル殿がドラゴンを狩られました!
属性種なのか亜竜種なのか分かりませんが、ドラゴンを狩られました!」
「なに、ドラゴンを狩っただと、本当か?!」
「本当です、あのような殺気はドラゴン以外有り得ません」
「殺気だと、実物を見たわけではないのだな?」
「父上、亜竜種だろうと、ドラゴンと出会って生きて戻った者などいません。
殺気で判断するしかないではありませんか」
「セオドア、どう思う?」
セオドア、ルイジャイアンが四男と俺の教育役に付けた弓騎兵。
年齢と話し方から考えて、心を許せる友か家臣なのだろう。
「私もドラゴンに間違いないと思いますが、見た方が早いでしょう。
村の外に奇麗な氷の広場ができたのです。
ミノル様にそこに出して頂ければ確認できます、何の問題もないでしょう?」
「そうだな、それが一番早い、ミノル、狩ったドラゴンを見せてくれ」
「いいぞ、ワイルドベアくらいの大きさだが、外でないといけないのか?」
「ミノルの御陰でだいぶ体調が回復したとはいえ、多くの領民が病み上がりだ。
死骸とはいえ、ドラゴンなんて見せたら心臓が止まってしまう」
「大げさだな、まあ、いい、外でいいぞ」
そんな風に話しながら、俺達は村の外に出た。
村の外には、俺の狩った魔獣を凍らせ保管した氷の道がある。
下に大金に代わる魔獣があると思うと、地下金庫のように思える。
「出すぞ、いいか?」
「ああ、いいぞ」
「遠く大八島国にて地上世界を成り立たせる国之常立神よ
国常立尊、国底立尊、国常立尊、国狭立尊、国狭槌尊、葉木国尊よ。
多くの意味名を持ち空間を司る国之常立神よ。
保管してくださっている魔獣のなかで、ドラゴンだけ出してください。
属性竜や亜竜に関係なく、竜種を全て出してください。
無限袋から出す時に、氷の上にきれいに並べてください。
強い順に並べて出してください。
御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、取り出し」
あれだけ強大な殺気を放つ敵だったから、もしかしたら複数のドラゴンを斃しているかもしれないと、欲深く考えていた。
風斬の一撃で、ワイルドボアやワイルドベアの首を刎ね飛ばせるのに、斃せなかった敵がいたから、複数のドラゴンがいたのではないかと、欲深く考えていた。
風斬よりも遥かに強力な風槍で斃せず、俺の魔力をほとんど使うほど強力な魔術、風槍乱舞を想像してようやく斃せた敵もいたから、複数のドラゴンがいたのではないかと、欲深く考えていたが、その通りだった!
俺が数える時の癖に従って、左から小さい順にドラゴンが並んでいる。
一番小さなドラゴンは、中型犬くらいで、トカゲにしか見えない。
いや、地球にいた恐竜に近い姿形だ。
恐竜にも小さいモノから大きなモノまでいた。
世界的な映画配給会社が作った、現代に恐竜が蘇る大作を思い出した。
ヴェロキラプトルに似たドラゴンからティラノサウルスに似たドラゴンまで、なんと千頭前後が並んだのだから笑うしかない。
ヴィオレッタとレアテスはもちろん、ルイジャイアンまで固まってしまっている。
家臣の大半が口を空けて茫然自失になっている。
こちらから話すのが悪い気がして、正気を取り戻すまで待った。
「……小型のサブ・ドラゴンを狩っただけでも大騒動になるのに、何だこれは!」
「何だこれは、と言われても困る。
一頭、一番右端の特に大きい奴を除いたら、遠方からの魔術で狩れた。
自覚はないが、こいつらを狩った時よりも祝福が増えていると思う。
その気になれば、一番右の奴も、次は遠方から狩れるかもしれない」
「……もう、いい、ミノルをこの世界常識に当てはめて考えるのは愚かだ」
「えらい言われようだな」
「当然だろう!
独りで千頭ものドラゴンを狩ったなんて、伝説にもないわ!」
「俺のせいじゃない、神様の力だ」
「前も言っただろう、神様の加護は本人の実力だ!
好い加減この世界の常識を受け入れろ!
話は変わるが、お前が祝福上げしている間に、アドリアの息子がやってきた。
商人を窃盗の罪で処刑したと言ったら、宣戦布告して帰って行った。
もう戦いは避けられないが、どうする?」
「どうするだと?
ルイジャイアンに味方して戦うと言ったではないか?」
「俺の味方をして戦うのではなくて、ミノルが主になって戦わないか?」
「俺が主になる意味は何だ?」
「アドリアの村を誰が手に入れるかの問題だ。
俺が主になって、ミノルが助太刀だと、奪った村は俺の物になるが、助太刀してくれたミノルにそれ相応の礼を渡さなければならない。
だが、正直に言って、礼を払う余裕がない」
「礼なんて後払いで良いぞ。
ルイジャイアンが、一番大切な事を優先しろと教えてくれたじゃないか。
俺のが優先するのは不老不死だ、領主や騎士の地位じゃない」
「……だが……俺にも騎士の誇りも有れば男の見栄もある。
ミノルが独力で奪った村を自分の物にはできない」
「おい、おい、おい、前に言っただろう、人の命や生活に責任を持ちたくないと。
領民のいない城を創るのはいいが、領民を治めるのは嫌だぞ」
「だったら代官を置いたらどうだ?」
「代官だと、それに何の意味がある、代官が悪政を行っても領主の怠慢だろう。
こう見えても、最低限の良心はあるんだ。
形だけの領主でも、領民が不幸だと責任感で胸が痛む」
「俺の子供に代官をさせるというのはどうだ?
こういう言い方は自画自賛で嫌なのだが、俺の息子たちは誇り高く優秀だ。
騎士としてはもちろん、領主としても優秀だと思う。
俺の誇りと見栄を守りつつ、ミノルの負担にもならないように村を治めるだろう」
参ったな、これで断ったら、ルイジャイアンはもちろん、ルイジャイアンの子供達も信用していない事になる。
「それなら安心だが、まだアドリアの村を手に入れていないのだぞ?」
「ミノル、俺もダンジョンの深部まで潜った事がある。
不老不死がドロップする深部にまで潜れる騎士や戦士は、数えるほどしかいない。
そんな深部に現れるドラゴンは、あれくらいなのだ」
ルイジャイアンが指差すドラゴンは、タクスベアくらいの大きさだった。
地球のサイよりも一回り小さいくらいで、俺が狩ったドラゴンの中では強い方だが、百頭以上いる。
「ミノル、アドリアはもちろん、家族も家臣も、ダンジョンの深部には潜れない。
ミノルがその気になったら、遠くから皆殺しにできる。
その気があれば何時でも皆殺しにして村を奪えるんだ」
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