第15話:城壁内
ガニラス王国歴二七三年五月七日
ミノル・タナカ城
田中実視点
俺は、伊邪那美命が創り出してくださった城壁内に向かいながら、ルイジャイアン殿に疑問に思った事を聞いた。
「ルイジャイアン殿、先ほど言われていた、開拓領主の身分はどれくらいですか?」
「明確な規定はありませんが、騎士と同等と考えられています。
世襲で騎士の地位に就いた傲慢な者は、開拓領主を下に見ます。
ですが、親の支援を受けて魔境を開拓した騎士は、独力で魔境を開拓した平民を尊敬する者が多いです」
「では、ほぼ同等と思っていればいいのですね」
「はい、そう思われたら良いでしょう」
「だったら、私は敬語を止めます。
その代わり、ルイジャイアン殿はこれまで通りで御願いします。
ルイジャイアン殿に敬語で話されると落ち着きません」
「……分かった、これからは盟友として話そう」
「そうしてくれると助かるよ」
そんな話しをしながら城門の前まで来た。
木々を根返りさせた場所の中心部まで、二千メートル歩かなければいけなかった。
多くの祝福を受けた弓兵は二千メートルも矢を放てるから、ルイジャイアン殿の村から四千メートル離さないといけない、そう思ってしまったからだ。
防壁、いや、俺が伊邪那美命に御願いして創ってもらったモノは、城壁と言うしかないくらい立派なモノだ。
外側の空壕は、恐らくだが、幅と深さが五十メートルだろう。
城壁の厚みも、下の部分で五十メートルあって、高さも五十メートルだ。
空壕の底から城壁の上までなら百メートルもある。
城門部分のトンネルも、当然五十メートルの長さがある。
外側にある大理石製の城門は、幅と高さが五メートルで厚みは一メートルだな。
この世界の馬車が行き交える幅にしたのだが、常識外れだったか?
城門を引かないと開けられないようにしたのは、敵が攻城兵器を使った時を考えての事で、破城槌や衝車を使われても、閂で閉じているのではないので壊れ難い。
横一線にある天井部分と全部削るか、地面から出ている大理石杭を破壊しなければ、城門が内側に開く事はない。
それを破壊するくらいなら、門自体を破壊する方が簡単だ。
それに、叩き壊すよりも引っ張り壊す方が難しいと思ったのだ。
ルイジャイアン殿の家臣が、何も言わないのに先に行って城門を開けてくれる。
もの凄く重そうなのだが、祝福を多く受けた者なら独りで開けられるようだ。
防御力だけを考えて丈夫にしてしまったが、多くの祝福を受けた者がいなかったら、開ける事もできなかった。
城門トンネルの中に入ると、左右の壁と天井に矢狭間がある。
細部まで俺が思っていた通りに創ってくださっている。
これなら外の城門を突破した敵をトンネル内で斃せる。
トンネルの内側に有る城門も大理石製の観音開きで、引いて開ける構造だ。
敵が体当たりしても開く事はない作りになっている。
引いて開けるか、大理石製の城門自体を破壊しない限り中には入れない。
「……まだ中には何も建っていないのだな」
ルイジャイアン殿がぽつりと言った。
威容を誇る城壁に比べて、城壁の中は根返りした木々が倒れているだけなので、ギャップが大き過ぎて受け入れ難いのだろう。
「これから建てる心算だが、使い勝手が悪い建て方をしたら、創り直すのを神々に御願いし難いから、色々相談してから決めたいと思ったのだ」
「確かに、神様にお願いして造ってもらいながら、使い勝手が悪いから造りなおしてくれとは言い難いし、人間が勝手に造り直すのも不遜だな」
「そういう事なので、今は城壁の内側にある横穴住居を確認しよう」
「ああ、そうだな、そうしよう」
城壁の内側は、一番上の回廊部分まで階段状になっている。
警備や防御のために登り易い高さに造られた階段部分が一つ。
倉庫や住居として使うために五メートルずつ高くなる部分が一つ。
城壁外側の厚みは最小で五メートルある。
だから一番下に空いている住居トンネルは、四五メートルの長さがある。
二階部分の長さは四〇メートルで、三階部分は三五メートルの長さだ。
居住性や住居数より防御力を優先しているから、適度な幅を空けた横穴式古墳のような穴が城壁の内側に空いている。
横穴式住宅の床兼天井の厚みは二メートル。
横幅は五メートルあるので、住居としても倉庫としても広く使える。
開通していない城門トンネルが無数に並んでいる感じだな。
これだけの幅と高さにしたのは、居住性を良くする意味もあるが、何より優先したのが、二〇トンもの巨体を誇るワイルド級魔獣を冷凍保存するためだ。
いや、これからもっと大きな魔獣を狩るかもしれない。
その時にも、城壁倉庫に入れて冷凍保存できるようにだ。
基本一階は倉庫や厩舎として使う。
二階以上を人間の住居として使う。
上の方、九階や八階は、家具はもちろん毎日使う水や食糧を運ぶのが大変だ。
まあ、身体強化された人間なら、死ぬ直前まで体力があるから大丈夫だろう。
兵士や自警団員の訓練を兼ねて、一番上の回廊まで水を運ばせてもいい。
二階以上の横穴の前には、幅五メートルの通路兼用のテラスがある。
そこに貯水槽を置いてもいいし、水道を通してもいい。
いや、よく考えれば、水の神の加護を得ている者なら魔術で水が手に入る。
どれくらいの割合でいるのか分からないが、水運びは不要かもしれない。
その辺もルイジャイアン殿に確認しなければならない。
「魔獣だ、倒れた木々の間に魔獣が隠れているぞ!」
しまった、まだ魔獣が数多く生き残っていた。
身軽だから生き残れた魔獣ならそれほど脅威ではない。
問題は、世界樹かと思うくらいの巨木の下敷きになっても生き残った魔獣だ。
経験値は後回しだ、出来るだけ早く魔獣を殺さないと!
「遠く大八島国にて風を司る志那都比古神よ
御身を慕う民を御救い下さい。
御身を慕う民を殺そうとする魔獣たちの首を刎ねてください。
御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、風斬」
「城壁の倉庫兼住居」
一階:奥行四五メートル:城壁側に矢狭間も明り取りも空気取り入れ穴も無し。
二階:奥行四〇メートル:城壁側に矢狭間も明り取りも空気取り入れ穴も無し。
三階:奥行三五メートル:城壁側に矢狭間も明り取りも空気取り入れ穴も無し。
四階:奥行三〇メートル:城壁側に矢狭間も明り取りも空気取り入れ穴も無し。
五階:奥行二五メートル:城壁側に矢狭間も明り取りも空気取り入れ穴も無し。
六階:奥行二〇メートル:厚み五メートルの矢狭間有り
七階:奥行一五メートル:厚み五メートルの矢狭間有り
八階:奥行一〇メートル:厚み五メートルの矢狭間有り
九階:奥行五メートル :厚み五メートルの矢狭間有り
屋上:幅五メートルの警備回廊となっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます