第16話:守備隊

 ガニラス王国歴二七三年五月七日

 ミノル・タナカ城

 田中実視点


 城内に閉じ込められた形になった強大な魔獣を警戒したが、大丈夫だった。

 一番巨大で強い魔獣でも二トン級の魔獣だった。

 その程度の魔獣なら、祝福が五十回を越えた俺の魔術で簡単に斃せる。


 この世界の神々の祝福による魔術は、日本の神々の祝福による魔術よりも弱い。

 信心深さならこの世界の人々の方が上だと思うのだが、何故だろう。

 神の格による差なのだろうか?


 たった一度の風斬で、城内にいた魔獣を皆殺しにできた。

 魔獣に備えて戦う気構えだったルイジャイアン達は、肩透かしを食らったような、何とも言えない表情になっている。


「驚いていないで、村に持って帰る魔獣を確保してくれ。

 毎食御馳走になるのだから、食事代として魔獣を渡す。

 街道を通れるようになった時に、栄えている街に売りに行く素材は、約束の値段で買い取ってくれ」


「……残念だが、今の我が領地に魔獣を買い取る余裕はない。

 だが、ミノル殿に食べてもらう、食材用の魔獣は持ち帰らせてもらう。

 ただ、一番美味しい魔獣を使うとなると、大き過ぎて使いきれない分が多過ぎる」


「そんな事は気にしなくていい、一番美味しい魔獣を持って行ってくれ。

 ルイジャイアン達と一緒に食事するんだ、俺だけが別の肉を食べるのは嫌だ。

 全員同じ肉が食べられるようにしてくれ」


「そう言ってくれるとありがたい。

 バットデアとタクスボア、タクスベアを一頭ずつ持ち帰れ」


 ルイジャイアンの命令に護衛達がキビキビと動く。

 今の内にやるべき事をやっておこう。

 何をどこまで神様に頼れるか、安全な時に確かめておきたい。

 

 どの神様の加護を得られているのかは確かめたが、どこまで御願いを聞いてもらえるかまでは確かめられていない。


「遠く大八島国にて地上世界を成り立たせる国之常立神よ

 国常立尊、国底立尊、国常立尊、国狭立尊、国狭槌尊、葉木国尊よ。

 多くの意味名を持ち空間を司る国之常立神よ。

 どうか、多くの物の時を止めて、保管する力を授けてください。

 狩った魔獣全頭を

 御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、無限袋」


 無限袋に時間を止めて保管できる事は間違いなくできる。

 魔術で斃した、離れた場所の魔獣も近づく事なく無限袋に回収できる。

 多少の言葉の違いなど気にせずに、加護を与えて魔術を発現させてくださる。


「遠く大八島国にて地上世界を成り立たせる国之常立神よ

 国常立尊、国底立尊、国常立尊、国狭立尊、国狭槌尊、葉木国尊よ。

 多くの意味名を持ち空間を司る国之常立神よ。

 保管してくださっている魔獣を、城壁一階の倉庫に入れてください。

 無限袋から出す時に、城壁一階の倉庫にきれいに並べてください。

 御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、取り出し」


「「「「「オオオオオ!」」」」」」


 ルイジャイアン達が驚嘆の声を上げている。

 俺も内心で何度も御礼を言って、心からの感謝を捧げた。


「国之常立神、助かりました、本当に助かりました、ありがとうございます」


 無限袋に時間を止めて保管してくださるだけでもありがたいのに、俺の望む場所に、望むように取り出してくださるなんて、感謝しかない。


 単に出すだけだと、保管する倉庫に行って何度にも分けて出さないといけない。

 一度に全部その場に出せたとしても、人力で各倉庫に運ばないといけない。

 こうやって、一度に違う場所に思うように出せるなら、もの凄く楽できる。


「遠く大八島国にて水と雨雪を司る淤加美神よ。

 龗神とも呼ばれる水と雨雪を司る尊き神よ。

 御身を慕う民を御救い下さい。

 狩り集めた魔獣を凍らせ長く食べられるように保管する力を御貸しください。

 魔獣を納めた倉庫を凍らせ、氷の壁で塞いでください。

 御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、氷壁」


 魔獣を納めた城壁一階の倉庫が凍っていく。

 最初に魔獣や倉庫の壁が凍っていくのが分かる。

 次に入口が氷の壁に覆われるので、安心して倉庫を離れることができる。


「もう驚き疲れた、ミノル殿の力は常識外れ過ぎる」


 全てを見ていたルイジャイアン殿が呆れ果てたように言う。

 ルイジャイアン殿の家族と護衛の半数は、口を開けて驚いている。


「生まれ育った世界の神の力だから、俺の力じゃないよ」


「それは違う、この世界では、神に愛され加護を得られる事が本人の実力だ。

 神の加護を受けて振るえる力が大きいのは、ミノル殿の実力だ」


「慣れない考え方だが、この世界で暮らすなら慣れるしかないな。

 分かった、俺が規格外の力なのは認めよう。

 それで、この城は、開拓領主となった俺の物なのだな?」


「そうだ、ミノル殿の物だ。

 ここにこれだけの城があって、城主が盟友のミノル殿なら、俺も家族も安心して眠る事ができる」


「ルイジャイアン殿が勧めてくれたように、俺は祝福上げを優先する。

 昼夜この城を留守にするが、大丈夫か?

 ルイジャイアン殿が敵対していると言う、アドリアに奪われたりしないか?」


「そうだった、ミノル殿はこの城を留守にするのだった。

 余りの事にうっかりしていた、どうしたもんか……」


「今祝福上げのために雇っている騎士たち以外に、この城の守備の為にルイジャイアン殿の家臣を雇う事はできないか?」


「そうだな、村の警備が手薄になるのは心配だが、この城を無視して村に襲い掛かるほど、アドリアも愚かじゃない。

 何よりこの城をアドリアに奪われる方が怖い。

 分かった、出せる限りの騎士と兵士をだそう。

 だがそうなると、格の問題で、ラザロスはこちらに常駐させる必要がある」


「格の問題?」


「アドリアが子弟を交渉に寄こした場合、こちらも俺の子弟が交渉しないと、家臣の騎士では階級負けする場合があるんだ」


「分かった、そういう事なら祝福上げのメンバーを総入れ替えしてくれて構わない」


「そう言ってくれると助かる。

 祝福上げは、魔獣をミノル殿の所に追い込めばいいだけだから……

 四男のレアテスをラザロスの代わりに付ける。

 騎士は城の守備に回したいから、弓騎兵と馬丁を倍以上にする」


「ああ、それでいい、決まったのなら直ぐに祝福上げしたい」


「今日はもう三回も祝福上げしたのではないか?」


「まだまだ時間がある、後三回は上げたい」


「申し訳ないが、この城を守る騎士と兵士が集まるまで待ってくれ。

 水は魔術で何とかなるし、燃料も転がっている木々を使わしてもらえるが、長期保存できる食糧を運び込まないといけない」


「分かった、肉だと腐るから、給食用に小麦粉を支給しよう」

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