第13話:卵とモーニング会議

 ガニラス王国歴二七三年五月七日

 ルイジャイアン・パッタージ騎士領

 田中実視点


 まだ夜が明ける前に快適に眠れる日本から異世界に移動した。

 ケチと言われるくらい節約好きだったから、異世界に大量の食材があるのに、日本でお金を使って朝飯を食べる気にはなれなかった。


「ルイジャイアン殿、この世界は卵や牛乳が高いのですか?」


「ミノル殿、朝も早くから何を言っているのだ?」


「この世界の金貨が売れない可能性もあるから、節約のために、できるだけこの世界で食事をしたいと言ったのは覚えてくれていますか?」


「ああ、覚えているぞ」


「俺の好物が、この世界で安いのか高いのか確かめたいのです」


「その言い方だと、ミノル殿は卵と牛乳が好きなのか?」


「ええ、大好きです。

 肉の方が好きなので、昨日預けさせてもらった肉があれば文句はありませんが、卵と牛乳があればもっとうれしいのです。

 ああ、牛乳と限った訳ではなく、羊や山羊、馬の乳でも構いません」


「季節によっては、乳のない時期もあるが、牛に限らないのなら、一時期を除けばほぼ年中乳は手に入るが、卵は難しい。

 魔境に住む鳥や鳥系の魔獣の卵を手に入れない限り、食べられない。

 鳥の卵は小さいから食べ応えがないし、魔鳥の卵を手に入れるのは命懸けだ」


「この世界では鶏を飼って卵を集めないのですか?」


「飛んで逃げる鳥を飼おうとする馬鹿はない。

 確かに卵は高く売れるが、家を潰されるかもしれないのに、家に閉じ込めてまで飼う奴はいない」


 異世界の鳥は、防壁に使われるような大木を破壊して逃げるほど強力なのか?


「俺の世界には、少ししか飛べない弱い鶏がいるのです。

 そいつを飼って卵を手に入れるのですが、ここで飼えないかな?」


「試してみたい気はするが、それは不老不死よりも大切なのか?

 私にとっては利益しかないが、ミノル殿に利益があるのか?

 飛べない弱い鳥を飼う時間があるのなら、祝福上げをすべきではないか?

 安く簡単に卵が買えるなら、夜自分の世界に戻った時に買って、朝こちらに来る時に持ってくればいいのではないか?」


「ルイジャイアン殿の言う通りですね、養鶏などしなくてもいい。

 調子に乗って余計な事に手を出すところでした。

 そういう事は、不老不死を手に入れて時間を持て余してからやればいい事でした。

 いったん戻って卵を買ってきます」


「まあ、待て、もう朝食の用意が終わる頃だ。

 卵は昼以降の楽しみにして、乳の飲み比べを兼ねて朝食を食べて行け。

 熟成させたベーコンやハムも美味しいが、作り立てのソーセージも美味いぞ。

 肉が食べたいのなら、使用人に命じて好きな魔獣を焼かせよう」


「申し訳ない、年甲斐もなく調子に乗って色々馬鹿な言動をしていました。

 一緒に朝食を食べさせてもらいます」


「そうしてくれると私も助かる。

 昨日ミノル殿が言っていた、村を大きくする件も話し合いたいのだ」


「分かりました、朝食を食べながら、気を落ち着けて話し合いましょう」


 俺達は朝食ができるまで御茶をして時間を潰した。

 ルイジャイアン殿は砂糖の入っていないハーブティを飲む。

 俺は我儘を言ってインスタントコーヒーにさせてもらった。


 豆からひいたコーヒーが飲みたいとまでは言わないが、朝はコーヒーが飲みたい。

 朝にコーヒーを飲まないと目が覚めないのだ。


 朝食はルイジャイアン殿の家族全員が同席した。

 奥さんはもちろん、ヴィオレッタとラザロスも同席した。

 紹介されなかったが、もっと年若い子供も一緒だった。


「昨日ミノル殿が言っていた、氷や雪に閉じ込めて保存するための区画なのだが、今の村の状態では簡単に造れない。

 妻や子供達とも話し合ったのだが、昨日ミノル殿が見せてくれた神の加護なら、氷の防壁や氷の館を造れるのではないか?」


「そうか、そういう方法があったか!」


 世界的な企業が作ったアニメに氷の城があった。

 だが、あれほどの城はいらない、この村の防壁と同じ物が創れれば良い。


 それに、氷の防壁に限らない、土や岩の防壁の方が使い勝手が良い。

 冬が終わった季節に、淤加美神に無理をして頂くのは心苦しい。

 淤加美神には、石や漆喰で創った倉庫を冷やして頂くだけで良い。


 防壁や倉庫は、伊邪那美命に御願いしよう。

 いや、伊邪那美命だけに御願いしていては申し訳ない。

 石土毘古神、石巣比売神、天之狭土神、波邇夜須毘古神にも御願いしよう。


「分かりました、朝御飯を食べたら、やれるか試してみます。

 場所はどこが良いですか?

 村の西側以外には魔獣を埋めてしまっているので、西側で良いですか?」


「正直に言えば、西側に氷の防壁を造ってもらえると助かる。

 あの商人を殺したので、もう直ぐアドリアが様子を探る使者を送ってくる。

 まず間違いなく戦争になる。

 今のこの村の状況では、戦争になれば、ミノル殿が協力してくれなかったら、厳しい戦いになる」


「協力は惜しみませんから、安心してください。

 ですが、私のいない時に攻め込まれるのが心配ですね。

 夜の間も村にいるようにしましょうか?」


「いや、夜の間は大丈夫だ。

 まあ、一昨日のようなアンデットが襲ってきたら別だが、どんな馬鹿でも夜に魔境の街道を移動したりはしない。

 アドリアは性根の腐った強欲者だが、馬鹿ではない。

 私と戦う前に、戦力を消耗するような夜間行軍はしない」


「分かりました、夜は昨日と同じように日本に戻ります。

 この村の物が売れてくれないと、私も代価をもらえません」


「気を使ってくれるのは嬉しいが、さっき言った事を忘れないでくれ。

 ミノル殿がこの世界に来たのは不老不死を手に入れる為だ。

 それ以外の事は、余った時間だけにしてくれ」


「はい、そうさせてもらいます。

 食べ終わったら、村の西側に防壁を創れるか試しに行きましょう」

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