第12話:貴金属買取業者

 日本国西暦二〇XX年五月六日

 千葉県市原市某地区

 田中実視点


 俺は急いで拠点として借りている二LDKの賃貸アパートに行った。

 ネットを起動して、大量の必要物資を確認した。

 途中で思い直して、異世界の物を売れる可能性のある店を確認した。


 最初に行ったのは、異世界の金貨を買い取ってくれる場所だ。

 ただ、異世界の金貨なので、カラットの表示がない。


 金の含有割合など簡単に計る事ができるが、正規の表示がない事を理由に難癖をつけられ、買い叩かれるかもしれない。


「残念ですが、僅かに純金とは言いかねます。

 九九パーセントはあるようですが、九九・九パーセントとは言えません。

 二三カラットとしての買取になります」


 どこに行っても純金としては扱ってもらえず、グラム当たり一万一九六三円の買取価格だった。


 大量に持ち込むのなら、九九パーセントと九五・八三パーセントでは、大きな損が生まれてしまうので、小金貨四七一枚を見せて正確な金含有量で買い取ってくれるところを探し、金銀の専門業者に行きついた。


「分かりました、そこまで言われるのなら、特別に正確な純度を測って買い取らせていただきますが、計測手数料はいただきますよ?」


「測定手数料を負けてくれるのなら、買取価格の半分で純銀のインゴットを買うが、それで手を打たないか?」


「一二七六万円分の銀を買って下さるのですか?」


「ああ、買う、悪い取引ではないだろう?」


「分かりました、それで手を打ちましょう」


 俺は小金貨を二五五二万〇八〇五円で売った。

 半額とは言ったが、今後の事も有るので、一キログラムの純銀インゴットを八五本、一二三三万九三六〇円で買った。


 日本では魔法が使えないが、祝福を受けて強化された身体は強くなっていた。

 異世界にいる時のような人間離れした力はなかったが、ウエイトリフティングで世界記録を更新できるくらいの力はあった。


 異世界用に買った丈夫な百リットル登山リュックに銀のインゴットを入れ、急いで近くのホームセンターに駆け込んだ。


 最大積載荷重一八〇キロのリアカーを一〇万四六〇八円で購入した。

 同時に二五キロ入りの並塩を税込み二二一四円で七袋購入。

 一キロ入りの上白糖三一九円を十袋購入して、急いで転移場所に向かった。


 転移場所は周囲の住民から人間不入の聖域として封鎖されている。

 封鎖されているといっても、小さな竹林がコンクリートで囲われているだけだ。

 その気になれば簡単に入り込める。


 俺は人目に付かないように素早く塩と砂糖を竹林の中に運び入れた。

 リヤカーも軽々と持ち上げて運び入れた。


 竹林の中央にある窪地の磐座に神籬を立てて願い、異世界に行った。

 異世界に行ってしまえばあとは簡単だ。


 「遠く大八島国にて地上世界を成り立たせる国之常立神よ

 国常立尊、国底立尊、国狭立尊、国狭槌尊、葉木国尊よ。

 多くの意味名を持ち空間を司る国之常立神よ。

 どうか多くの物の時を止めて保管する力を授けてください。

 御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、無限袋」


 塩と砂糖とリヤカーを無限袋に入れる。


「遠く大八島国にて矢よりも速く駆ける天迦久神よ。

 御身を慕う民を御救い下さい。

 御身を慕う民を殺そうとする魔獣から逃げられる速さを下さい。

 この世界に住む全ての生き物よりも速く長く駆けられるようにしてください。

 御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、健脚」


 俺は早くなった脚で転移場所から村にまで駆けた。

 身体強化でも、脚の速さに特化した魔術は素晴らしいモノだった。

 村の見張りの目に留まる事もなく、防壁を乗り越えて中に入れた。


 ルイジャイアンとの約束で貸してもらう事になった、防壁長屋に商品を置いた。

 そのままトンボ返りで転移場所に戻った。


 転移場所から日本に戻ったが、周りの日本人から不審に思われてはいけない。

 常識的な早さで同じホームセンターに行って買い物をした。


 絶対に必要な物は買えたので、少し心が落ち着いた。

 店頭に置いている物だけでなく、必要な物を取り置きしてもらう事にした。

 ビー玉とトルコ石、シトリンとメノウを有るだけ買って取り寄せもお願いした。


 二度目のホームセンターで買ったのは、二五キロ入りの並塩を九袋。

 一キロ入りの上白糖と黒胡椒と白胡椒を十袋ずつ。

 リュックとリヤカーの両方を使って運べるだけ買った。


 先ほどと同じ要領で異世界に行き、荷物を下ろした。

 トンボ返りで日本に戻ったが、手鏡や鏡台を買っていない事を思い出した。


 鏡は、あの欲深い商人が値がつけられないと言うほどの価値があるのだ。

 絶対に買っておかなければいけないが、ホームセンターと百均のどちらの方が安いのか分からなかった。


 お金はあるので、とりあえずホームセンターに行くまでにある百均で買った。

 スタンド式の鏡も手鏡も、店にある鏡は在庫も含めて全部買った。

 千個買っても十万円にしかならない。


 ホームセンターまでにある全部の百均に行き、鏡を二七五七個買い占めた。

 それだけでリュックとリヤカーが一杯になってしまった。

 仕方がないので、鏡を異世界に置きに行った。


 日本に戻ってきて、今度は寄り道する事なくホームセンターに行った。

 鏡の値段を確かめたが、物は良いのだが、一番安い物でも五百円以上した。


 質の良い鏡は、百均の鏡が異世界に広まって値が下がってから持ち込めばいい。

 今は少ない投資で大金が稼げる方法を選ぶと決めた。

 二七五七個の鏡を競売で売り切るまでには、相当の時間がかかるはずだから。


 日本の人に不審に思われないように、異世界の人に見つかって騒がれないように、気を付けて日本と異世界を往復した。


 商品となるモノをもっと買い置きしておきたかった、

 三度目のホームセンターでも、二五キロ入りの並塩を九袋。

 一キロ入りの上白糖と黒胡椒と白胡椒を十袋ずつ買った。


 今回もリュックとリヤカーの両方を使って、一度に運べる最大量を異世界に持ち込んだが、流石にこれで時間切れになってしまった。


 異世界では神の加護で矢よりも早く走れるが、日本では人並みにしか走れない。

 ホームセンターが転移場所の竹藪から離れているのも痛かった。

 四度目の商品を異世界に運んでから日本のアパートに戻った。


 アパートに戻っても休めない。

 異世界の物で、金貨以外に売れる物を探さないといけない。

 ネットで色々確かめたが、食品は危険なので除外するしかなかった。


 毛皮や皮革は、専門の本職に売ると、異世界の魔獣だと見抜かれるのが怖い。

 だが、ネットで素人に売るなら何とかなるかもしれない。

 ネットで売られている毛皮や皮革の商品を確かめてみた。


一枚皮敷物:牛:一一〇×一一〇センチ:八八〇〇円

一枚皮敷物:牛:二一四×二一四センチ:九万三二八〇円

一枚皮敷物:牛:二〇四×一八一センチ:一二万九一四〇円

一枚皮敷物:シマウマ:三〇六×二三五センチ:一四万八〇〇〇円


毛皮のコート:一万八七〇〇円から三〇〇万三〇〇〇円


皮鎧:一万〇〇〇〇万円前後

ブーツ:一万〇〇〇〇万円から三〇万〇〇〇〇円


 異世界の物が、どの程度の値段で売れるか全く分からなかった。

 特にブーツは靴底にゴムや合成樹脂が使えないのが痛かった。


 分からないが、何とかして異世界の物を日本で売らなければならない。

 仕方がないので、異世界で作れる物を全部ネットショップで売る事にした。

 駄目元でやれるだけの事をする!

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