第11話:計算違い

 ガニラス王国歴二七三年五月六日

 ルイジャイアン・パッタージ騎士領

 田中実視点


 陽が沈む二時間前まで祝福上げを続けた。

 狩った魔獣を全て無限袋に入れて保管したからできた事だ。

 そうでなければ狩るたびに村に戻らなければいけなかった。


 陽が沈む二時間前に狩りを終えて、転移できる場所に向かった。

 祝福上げのために雇った者達は、転移場所には来られなかった。

 結界が施してあるのか、俺以外は違う場所に移動してしまう。


 ラノベではよくある事なので、こうなると思っていた。

 彼らには、元に戻ってしまう場所に三十分ほど待機してもらった。

 俺が戻らない場合は、三十分後に村に戻ってもらう約束だった。


 そんな約束をした理由は、心配な事があったからだ。

 異世界では魔術が使えるが、日本に戻って魔術が使えるとは思えなかったからだ。


 ラノベによって設定は違うが、普通に考えて、日本に戻って魔術が使えたら、とんでもないことができてしまう。


 これまでの歴史で、どれほど多くの人間が神隠しや天狗隠して異世界に行った?

 もし戻ってきた者が魔術が使えたとした、その記録が残っているはずだ。

 そんな記録がない以上、日本に戻っても魔術が使えないはずだ。


 日本に戻れた場合、攻撃魔術などが使えないのは良いし、無限袋の出し入れができない程度なら何の問題もない。


 困るのは、無限袋に異世界の物を入れていたら日本に戻れない可能性だった。

 その心配は当たった、磐座に神籬を立てて願っても日本に戻れなかった。


 初めて異世界に転移できた時に、五度も往復して確認したから、別の理由で日本に戻れなくなったとは思えなかった。


「お~い、一旦村に戻って狩った魔獣を全部預かってもらう。

 預かるのが無理なら、買い取ってもらう。

 それも無理なら、淤加美神に願って雪に埋めてもらう」


「何の事を言われているのか分かりませんが、あれだけの魔獣を保管する場所など、村のどこにもありません、諦めてください」


 護衛のヴィオレッタにそう言われたが、二度も説明するのは面倒だった。

 俺は急いで領主館に行ってルイジャイアンに何がしたいのか話した。


 獲った魔獣は、時間を止めたり冷凍したりして保存できるから、市場価格の四割で買い取ってくれと交渉した。


 だがルイジャイアンからは、俺が日本に行っている間は外に出しておかなければいけないが、村にそんな場所はないし、保存する方法もないから無理と言われた。

 実際に俺が氷漬けにする現場を見なければ約束できないと言われた。


 ルイジャイアンの、一度約束した事は必ず守ろうとする言葉には共感できた。

 だから実際にやって見せる事にした。


「分かった、だったらルイジャイアン殿が保存加工出来る分だけ買い取ってもらう。

 村の中に置き場のないのは分かったから、村の外で置いて良い場所を教えてくれ」


「村の外に置くなら、村の周囲にある木々を伐採した場所以外にしてくれ。

 あれは敵が襲って来た時に、木々に隠れて近づけないように、敵に向かって矢を放てるようにしてあるのだ。

 魔獣を山のように積み上げられたら困る」


「だったら大地に大きな穴を掘って、そこに狩り集めた魔獣を保管しよう」


「そんな事ができるのか?」


「できるかどうか、神に加護を頼んでみるから、自分で確認してください」


「分かった」


 俺達は東側の城門を出て、木々が伐採された広場に立った。

 村から二千メートルくらいの幅があるが、埋めた魔獣を掘り出すのに苦労しない深さにしようと思うと、東城門を中心にコの字に穴を掘るべきだろう。


「遠く黄泉国にて死者を統べる黄泉津大神よ。

 遠く大八島国にて大地を創りし偉大な伊邪那美命よ。

 多くの意味名と力を持つ、いと尊き神よ。

 御身を慕う者に力を御貸し下さい。

 狩り集めた魔獣を保管する大穴を大地に御造り下さい。

 御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、大陥没」


「なっ、なんだと?!」


「これで驚いてもらっては困る、これからが本番ですよ」


「まだ何かしようというのか?!」


「さっき言いましたよね、雪で凍らせて保存すると」


 このまま大陥没に魔獣を入れて凍らせるのでは不安がある。

 先に大陥没を雪で凍らせておかないと、下と側面の温度が高い。

 土の中にいる虫や菌が魔獣に悪さするかもしれない。


「遠く大八島国にて水と雨雪を司る淤加美神よ。

 龗神とも呼ばれる水と雨雪を司る尊き神よ。

 御身を慕う民を御救い下さい。

 狩り集めた魔獣を凍らせ長く食べられるように保管する力を御貸しください。

 御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、氷壁」


「こんな事ができるのか?!

 私は夢を見ているのではないのか?!」


 ルイジャイアン殿は、大陥没の地面と側面が氷の壁に覆われるのを見て、無意識に言葉がでるほど驚愕している。


「遠く大八島国にて地上世界を成り立たせる国之常立神よ

 国常立尊、国底立尊、国常立尊、国狭立尊、国狭槌尊、葉木国尊よ。

 多くの意味名を持ち空間を司る国之常立神よ。

 無限袋の中にある全ての魔獣を大陥没に奇麗並べてください、御願いします」


 もうルイジャイアン殿は驚き過ぎて言葉もないようだ。

 一緒に付いて来たヴィオレッタとラザロス、家臣達も固まっている。

 だがここで終わりではないぞ、仕上げが残っている。


「遠く大八島国にて水と雨雪を司る淤加美神よ。

 龗神とも呼ばれる水と雨雪を司る尊き神よ。

 御身を慕う民を御救い下さい。

 狩り集めた魔獣を凍らせ長く食べられるように保存する力を御貸しください。

 この世界に住む魔獣が掘り返せないほどの厚く硬い氷で覆ってください。

 御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、氷壁」


 多くの魔獣を敷き詰めた大陥没の上を氷の壁、いや、床が覆った。

 コの字のスケートコースができたようなものだから、氷道と言った方が良いか?


 滑ってしまうので、村を出入りするのは西側だけにした方が良いだろう。

 魔獣も冷たい氷の上に乗るのは嫌がるだろうから、アンデット以外は村に近寄らないのではないか?


「ルイジャイアン殿、私は急いで自分の世界に戻ります。

 この村で使う物、交易に使ってもらう物を買い集めて来ます。

 今見て理解してくれたと思いますが、魔獣は氷漬けにして保存できます。

 魔獣を保管するための新しい区画を村の外に造ってくれませんか?」


「分かった、人手には限りがあるが、できる限りの事はしよう」

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