第10話:祝福上げと魔術
ガニラス王国歴二七三年五月六日
ルイジャイアン・パッタージ騎士領
田中実視点
ピィイイイイ
今日十度目の笛が北側から鳴り響く。
騎士に率いられた、勢子の弓騎兵と馬丁が魔獣を追い込んできてくれる。
これまでは鹿の魔獣や狼の魔獣が多かったが、今度は何だろうか?
直ぐに猪とよく似た魔獣が群れで現れた。
最初に鹿似の魔獣を狩った時には、子供も混じっているから、乱獲による種の絶滅が気になったが、護衛のヴィオレッタが心配いらないと教えてくれた。
魔獣は一度に十頭以上の子供を生むだけでなく、三カ月に一度子供を生むという。
しかも生まれた子供は三カ月で成獣と同じ大きさになり、出産までするという!
ネズミと同じ早さで子供を生み増える魔獣がどれだけ恐ろしいか想像できた。
だから遠慮する事なく小さな子供も全て狩った。
愛読していたラノベの魔力増加法を試しながら、どんどん魔力を増やしていった。
中でも本に執着するラノベの主人公がやった、魔力増加保存法は役に立った。
それに、ダラダラと生きてきたとはいえ、東洋医学で食って来た。
最低限の経絡と経穴の知識は身体に沁みついている。
あの本では一カ所の魔力器官に蓄えていたが、俺は七つのチャクラに蓄えた。
「遠く大八島国にて風を司る志那都比古神よ
御身を慕う民を御救い下さい。
御身を慕う民を殺そうとする魔獣の首を刎ねてください。
御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、風斬」
呪文を唱えると、俺に向かって突進して来ていた猪似の魔獣の首が刎ね飛ぶ。
既に十度目なので護衛のヴィオレッタもラザロスも驚かない。
初めて使った、商人を助けた時とは比べ物にならない攻撃力だ。
俺が授かった加護は攻撃に関するものだけではない。
ラノベでもとても重宝される能力が使えるようになっている。
「遠く大八島国にて地上世界を成り立たせる国之常立神よ
国常立尊、国底立尊、国狭立尊、国狭槌尊、葉木国尊よ。
多くの意味名を持ち空間を司る国之常立神よ。
どうか多くの物の時を止めて保管する力を授けてください。
御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、無限袋」
ラノベでは魔法袋とかストレージとか呼ばれている能力。
多くのかさばる物を小さな袋に保管できる能力。
ラノベによったら時間まで止められる非常識な保存能力。
それが俺にも使えるようになっていた。
空間を司る国之常立神に御願いしたら使えてしまった。
ただ、魔法袋やストレージでは国之常立神のイメージに合わないので、無限袋と呼ぶ事にした。
朝から狩り続けた、最大二トンを超える魔獣が百頭以上入っている。
魔獣肉で良いと割り切るなら、もう一生分の肉を手に入れた。
もし日本で売る事ができるのなら、輸入肉と同じ値段で買い取ってもらえたとしても、億は越えるのではないだろうか?
「次は自分で戦えるか試してみる」
「危険なのは分かっておられますね?
魔獣も命懸けでかかってきますよ?」
護衛のヴィオレッタが警告してくれる。
危険なのは俺も分かっているが、ちゃんと護衛がいる時に、人間ではなく魔獣を相手に試しておきたいのだ。
この世界で不老不死を手に入れようとしているのだ、ありとあらゆる可能性、特に最悪の可能性を考えて、備えておかなければならない。
不老不死のドロップを争って、何時誰に襲われるか分からない。
ドロップは直ぐに使うとしても、売りに出された時の事も考えて、大金貨十万枚は蓄えておきたいが、それだけの大金を持っていたら間違いなく襲われる。
人を殺す経験などしたくないが、事前に近い体験はしておきたい。
遠距離から魔術で動物に似た魔獣を狩るのと、直接自分の手で人間を殺すのでは、精神的な衝撃が全く違うから、せめて自分の手で魔獣を殺す経験を積んでおきたい。
ピィイイイイ
今日十六度目の合図の笛が聞こえて来た。
「遠く大八島国にて雷と剣と相撲を司る建御雷之男神よ
御身を慕う民を御救い下さい。
御身を慕う民を殺そうとする魔獣の首を刎ねる力と技を御貸しください。
戦う事のできる力を御貸しください。
御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、身体強化」
身も蓋もない、ど直球な呪文だが、俺の語彙力ではこの程度だ。
それでなくても四六回の祝福で力と速さを手に入れている。
それだけでも十分魔獣と戦えるが、それに加えて加護の力を利用する。
「逃げろ、逃げるんだ、ワイルドブルだ!」
ヴィオレッタが警告してくれる。
運が良いのか悪いのか、今度の群れは、十トンを超えるワイルドブルだった!
だが、ここで逃げてしまったら、何の為に異世界に来たか分からない。
ダラダラと生きてきた人生を反省して、やり直すために異世界に来たのだ。
半ば以上冗談で、病んだ心を安定させるための行為だったが、本当に異世界に来られた以上、命懸けで人生をやり直さなくてどうする!
ルイジャイアンから買った武骨な鉄剣を握る。
祝福による剛力を前提に造られた、マンガやラノベで使うような巨大剣だ。
大きさはカイトシールド、いや壁盾と同じくらい大きな、冗談のような剣だ。
以前の俺なら、若い頃でも、全身全霊の力を使っても持ち上げられなかった。
そんな巨大剣を片手で軽々と振り回せる。
そんな巨大剣を持ちながら、風のように素早く魔境の中を駆けまわれる。
ワイルドブルが魔境の大木を避けて突進してくる。
流石のワイルドブルでも、魔境で一番巨大な木は倒せない。
世界樹とまではいわないが、縄文杉や大王杉が赤子に見えるような巨木がある。
その巨木の間に雑草のように生えている木々が、縄文杉くらいの大きさなのだが、それを吹き飛ばして突進してくるのだから、もう笑うしかない。
「可哀想だが、祝福上げの踏み台になってもらう。
成仏できるように、血の一滴も無駄にせずに食べてやる。
それでも成仏できないのなら、黄泉津大神の願いしてやるから心配するな」
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