2023年7月27日 13時41分

 こんにちは。怪談集めまSHOW管理人のショウタです。


 S岳にまつわる話を集めていたら、身近な所に体験談が転がっていました。さすが地元ですね。早速ここでご報告したいと思い、いつもとは少し違った時間の投稿になります。


 これは、俺の親父が同僚のYさんに聞いた話だそうです。


 かれこれ6年前ほどでしょうか。その日、残業を終えたYさんはS岳の峠道を走っていました。


 S岳の山道は木々が鬱蒼と連なっていて日中でも薄暗く、おまけに道も細い。なので普段は山道を避けて通勤していたそうです。

 

 でも、その日は時間も遅くなり過ぎた上に翌日に早朝からの出張を控えていた事もあり、急いで帰宅しなければならないと仕方なく峠道を使う事を選んだそうです。


 ただ、それでもやはり雰囲気が暗い上に、県内最強心霊スポットと名高いS岳を通って行くのも気が進まない。

 疲れがたまっていた事もあり、兎に角早く抜けようと、自然とアクセルを強く踏み込んでいました。


 昼でも暗い道は深夜ということもあり、より一層深い闇に包まれるばかり。

 対向車とすれ違うことも無く、車のヘッドライトが白く照らす範囲がはっきりと浮かぶ分だけ、周りの闇がいよいよ際立つ。


 早くこんな道を抜けて家に帰りたい。まったく今日は散々だと、そんな気持ちで走らすも、ヘッドライトは変わり映えのしない闇を裂いていく。


 行程も半分越えた辺り。ちら、と見た時計は22時半過ぎを表示していました。

 家に着くのは23時近くになってしまう。

 それから風呂に入って出張の準備をして、それでどれだけ睡眠時間が取れるのか。 

 

 そんな事を考えていたらどっと疲れが増したように思い、ふぅと溜息が不意にこぼれてしまった。まさにその時でした。


 ドン、と激しい音がして、強い衝撃に車体が大きく跳ね上がり、Yさんは慌ててブレーキをぐっと踏み込んだそうです。


 やばい! 何か轢いたか?!


 頭の先からサァーッと血の気が引き、心臓は今にも口から飛び出さんばかりに大きく跳ね上がる。ききぃっと激しい音を上げてガクンと停まった車から、Yさんは慌てて外に飛び出しました。


 けれど、そこには何もありませんでした。


 眩いヘッドライトに照らされた道路は白く輝くばかりで、今しがたYさんがつけたブレーキ痕が残るのみ。

 山中には鹿や猪も稀に見かけるので、それらが飛び出してきたのかとも思ったそうなのですが、そんな様子もまるっきりない。


「あれ? おっかしいなぁ」と呟きながらバンパーを撫でてみるも凹んでいたり、傷が出来ていたりもなく、Yさんは怪訝に思いながらも運転席に乗り込みました。


 一体何だったのだろうか。確かに衝突音もしたし、ぶつかった衝撃もあったのに。でもまぁ、何もなかったのなら良かったか。


 ほっと一息ついて運転席のドアを閉めてシートベルトに手を伸ばしたYさんでしたが、ふと手を止めてしまいました。


 ……何かがいる。

 

 しんっと静まり返った山中の峠道。濃密な夜闇に塗りこめられた中で、視界の隅に捉えた白い影。それはだらりと両腕を垂らした白い服の女でした。

 

 運転席のすぐ外側に立つその女は、まるで自分の方をじっと見ているようにも感じます。首筋にじりじりと当たる視線にYさんは振り返りたくなる衝動をぐっとこらえ、ハンドルを握る手に力をこめました。


 そこは真っ暗な峠道の中腹。誰かが通りかかるような場所でもなく、実際さっきまで誰の姿もありませんでした。


 これは絶対に見たらあかん!!


 Yさんはアクセルを思いっきり踏み込んで急発進しました。タイヤの空回りする音が響いて、ぐんっと速度が上がる。

 バックミラーを見る余裕もなく、ただひたすらに急いでその場から逃げなければいけない、振り返ってはいけないという本能の打ち鳴らす警鐘のままに車を走らせました。


 その後どの道をどう通ってきたのか。気がついた時にはすでに自宅の目の前だったそうです。


 おかげで翌日の出張は散々だったそうで、それ以来、Yさんは昼間であっても絶対にS岳の峠道だけは近づこうとしないのだと、親父は言っていました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る