2023年7月25日 21時04分
こんばんは。怪談集めまSHOWの管理人ショウタです。
この間の宣言通りにここ数日はS岳の怪異について色んな人にきいてまわってました。そんな中で祖父の釣り仲間から興味深い話が聞けたので投下します。
話してくれたのはOさんという方で、渓流釣りが趣味の方です。
Oさんは渓流釣りのために頻繁にS岳に入るそうで、その日も1人お気に入りのポイントで釣りを楽しんでいたそうです。
午前中いっぱい釣りを満喫してから、持参したおにぎりを雄大な景色を眺めつつ平らげて、さぁ午後も頑張るぞ、と腰を上げたもののどうにも眠い。
まぁひと眠りしてからやろうと考えたOさんは日よけに張ったテントに戻り、ごろりと横になったそうです。
ストンと眠りについたOさんでしたが、しばらくしてからずざざ、ずざざ、という音で目を覚ましたそうです。狐か狸でも出たか、と寝そべったままちらりと見上げてみると大きな人影がテント周りをうろついている。
Oさんは渓流釣りをしに来た人か、と思いゴロンと寝返りを打って再び目を閉じました。しかし外で歩き回る音は一向にやまない。ずざざ、ずざざ、という音がぐるぐるといつまでもテントの周囲を回っている。
うるさいな、何て奴だ。
いい加減に腹が立って来たOさんはどんな奴だか見てやろう、場合によっては注意しようと起き上がったそうです。
起きあがったOさんの前でテントに映った人影が不安定にゆらゆら揺れています。
外の人は足でも悪いのか、片足を引きながら歩き回っています。ずざざ、という音はその人が足をずりながら歩く音だったのです。
あんなに足をずってる奴がこんな所までどうやって来たんだ。いや、山中で怪我をした登山者が迷い込んで来たのか。
Oさんは咄嗟にテントの入り口に手をかけました。
しかしその時、ふと人影の手元に目が行きました。人影の手元にはどう見ても鉈か牛刀などの大型の包丁にしか見えない刃物が握られていました。
凶器を持った人間がうろついている!
腹の底が冷たくなった瞬間、遥か彼方の方で「ほわぁぁぁぁ」と一筋の泣き声が上がったそうです。
途端に外の人影の歩く速度が早くなりました。片足を引き摺りながら歩いていた人影が次第、次第に速度を上げて行く。
歩いていたものが早足に、早足が小走りに、小走りが全力疾走に。終いには風を巻いてテントを揺らす程の異常な速度でぐるぐる、ぐるぐると回り続ける。それなのに人影は依然と片足を引き摺っている。
これはこの世の者ではない!!
Oさんはテントの中で成す術もなく、ただ、ぐるぐるぐるぐると回り続ける人影を見つめるしかできなかったそうです。
息を詰めて見つめること十数分、だぁん!という大きな音と共に人影はふっと消えました。Oさんの背中は噴き出した冷や汗でべっとりとしていたそうです。
まだいるかもしれないと逡巡したものの、いつまでも閉じこもっているわけにもいかず、また放置したままの道具も気になる。Oさんは辺りを警戒しながらテントからそうっと這い出しました。
今までの狂乱が何だったのか。
目の前を流れる川はさらさらと爽やかな音をたて、午後の優しい光に水面がきらきらと輝いています。向かいの木立も渡る風にゆったりと葉を揺らして、小鳥のさえずりが心地よく響いて来ます。
いつものS岳の風景に、今までの全てが夢だったような気がしてOさんはほっと一息つきました。その視線が河原に置いてあった道具類に向かった時、Oさんを再びの恐怖が襲いました。
Oさんが釣った魚を入れていたクーラーボックスが無惨に叩き割られていたのです。
叩き割られたクーラーボックスの周囲ではその日の釣果が散乱し、その全てが内側から爆ぜたかのようにグチャグチャに四散して河原に飛び散っていました。
予想外の惨状に呆然と立ちすくむOさんをからかうかのように、深い木立のどこからか「ほわぁぁぁ」とまた一筋の泣き声が響き渡ったそうです。
Oさんは慌てて道具を掻き集めて、飛び散った肉片を申し訳程度に洗い流し、急いで山を降りたそうです。それからしばらくはS岳に入ることができず、今も1人で渓流釣りに行くことは控えているそうです。
「だって次に遭遇した時も無事に帰れる保障はないやろ?」
Oさんはそう言って、ふふ、と静かに微笑んでいました。
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