裏交差4項 わたしの勇者さま④
汽笛がなり、乗船できる時間になった。
桟橋に列ぶ。
すると、桟橋の横で小さなテーブルを出して何か売っている人がいることに気づいた。
目を凝らしてみると、どうやら華奢な女性のようだ。露店の物売りで女性は珍しい……って、あれはウルズの神官服?
あの人、この前、レストランにいたウルズの神官さんじゃない。
ルーク様が鼻の下をのばしていたので、その顔はよく覚えていた。
わたしは駆け寄る。
「ちょっと。何してるんですかー!?」
神官さんは、顔色一つ変えずに答えた。
「はい。旅人に祝福を与える護符を……」
護符?
東方の神じゃないんだから。
しかもあの文字って、東方の一部だけで使われている……漢字じゃないかな。
ウルズ様もレイア様も、たぶん漢字読めない……。
「ウルズ教のお札とか聞いたことないんですけどー? それにこの紙……、神聖力を感じませんし」
しかも、テーブルの前には紙が貼ってあり「1護符 銀貨2枚」って書いてある。
たかっ。
めっちゃボッタクリなんですけれど。
そもそも、1護符って、何の単位なのよ。
無理にでも、偉そう感を持たせたいみたい。
わたしが騒ぎ立てたものだから、美貌の神官さん見たさに集まっていた男性客達は、散り散りになっていった。
すると、神官さんが涙目になって口を尖らせた。
「ちょっとぉ。同業者なのに邪魔することないじゃん……。何か用?」
いや、別に用はないんだけれど……。
あっ、そうだ。
ルーク様のことを頼んでおこう。
わたしが居ないことに気づいたルーク様は、もしかしたら、彼女達を頼るかもしれない。
「あのね。わたし、これからちょっと旅に行くんだけど、もし、ルーク様が困ってたら、助けてあげてくれないかなぁ?」
「ルークさんって、レイア教徒でしょ?」
「なんかね。ルーク様、レイア様が自己中だから思うところがあるみたい。この前、だれか美人の女神様と知り合えたら、チェンジ希望っていってたし」
うわー。いかにも良いそう。
わたしの勝手な想像なのに、なんだか腹が立ってきた。
それを聞いた神官さんは満更でもないようだった。
「わたしは、イブキ……。あっ、濁音の後のイ段は、こっちの人には発音しづらいんだよね。わたしのことは、イヴって呼んでね。他でもない聖女さまの願い。ルークさんが来たら、話くらいはきいてあげますよ」
噂通りだ。
ウルズの神官は、新規信者獲得に異常に貪欲だと聞いたことがある。やはり、その通りらしい。
目つきがいっちゃってる。
ちょっと怖い。
まぁ、これで、ルーク様が門前払いになるってことはないだろう。わたしはイヴさんに手を振ると、船に乗り込んだ。
船の中は広く快適だった。
てっきり、雑魚寝の大広間なのかと思っていたのだけれど。個室の客室だった。
今の私には、個室は逆に不用心な気もする。でも、個室での船旅なんて、一介のメイドの私には、なかなかできない贅沢だ。今後、どうなるかもわからない現状を考えると、客室も貴重な時間に思え、満喫することにした。
メルドルフまでの1週間は、灯台をみて、岬をみて、鳥をみて、星を見て過ごした。
物心ついたときから、ずっと働いていたし。
こんなのんびりとした時間は、生まれて初めてかもしれない。
すると、窓の外に大きなカラスがいることに気づいた。異様に大きくて、真っ赤な目をしている。
あれは、リリスの肩にのっていたカラスだ。
きっと、わたしは、リリスにも監視されている。わたしのことを信じてはいないと言うことだろう。
まぁ、悪魔だしね。
それはそうか。
でも、これって。リリスの目がずっとわたしにも届いているということだよね?
だったら……。
メルドルフに行ったら、やはり、アレを手に入れておくか。
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