裏交差3項 わたしの勇者さま③

 しまった。

 目を合わせてしまった。


 すると、わたしの意識は、瞬時にリリスの瞳の中に吸い込まれていった。


 そこで見えたのは。


 最初の生で、わたしの死後に絶望するルーク様、意地悪を言いなが、いつもわたしを優しい目で見ているルーク様、ループに失敗してリリスに土下座するルーク様。


 どれもこれも。

 肌で感じてはいたけれど、初めて見るルーク様の顔だった。


 ルーク様。

 わたしが思っているよりも、ずっとずっと私のことを愛してくれていた。


 わたしを救うためなら、何の躊躇いもなく自分の命を投げ出してしまうだろう。


 そこで、フワッとした飛翔感があり、リリスの瞳から締め出されそうになった。


 だけれど、まだ何か奥にある。

 なにか。悪魔には似つかわしくない何か。


 それを見たい。

 まだ締め出されたくない。


 そうだ。

 千里の眼だ。


 物質界では封じられているけれど、あれは本来、魂に備わった力だ。魂のレベルでは使えるのではないか。


 わたしは千里の眼で、深淵をさらに覗き込む。


 そこにあったのは、小さな子を抱くリリスの姿だった。

 

 すごく幸せな気持ち。

 目の前の小さな命を慈しむ気持ち。


 いや、でも。

 リリスは悪魔王だぞ。


 そんな訳は……。


 そこで、わたしは、リリスの心象世界から、無理矢理引きずり出された。


 「リリス。これは……」


 「リリス様だろ? ちっ。盲目揃いの偽善の三下は、どうせ我の言うことなど信じぬからな。見せるのが手っ取り早い」


 ……よかった。

 どうやら、彼女の深淵を覗き込んだことは、バレていないようだ。


 「いや、どうしてそんなことを?」


 「ルークのバカもな。我の助言を聞き入れねーんだよ。楽しろっていってるのに。どいつもこいつも。どうして好き好んで死にたがるかね」


 リリスは、周囲を窺う素振りをすると、声のトーンを下げた。


 「一度しかいわねーぞ。よく聞け。ルークのアホは、もうループはつかえねー。つぎ死んだら終わりだ。悪魔の契約は絶対だからな。だからな、もし、どうしようもなくなったら、女神を騙せ。女神の力でループさせろ」


 「でも、なんで。なんで敵陣営の貴女がそんなことを教えてくれるの? それに女神様に嘘をついたら私は……」


 「ちっ。あんなデブの魂なんざいらねーんだよ。あんなん喰ったら高脂肪で下痢するわ。お前は何が大切なんだ? 女神か? デブか? せっかく人間に生まれたんだ。身勝手にいきたらいいじゃねーか」


 次の瞬間。

 視界は、普段の港に戻っていた。


 リリス。

 悪魔王。


 そんな彼女の言葉を信じていいのだろうか。

 もし、女神様にきいたら、リリスの言うことは全て嘘だと言われるだろう。


 だけれど、子供を抱くあの姿をみたら。

 わたしには、全てが嘘だとは思えなかった。

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