裏17項 いまさらの家庭訪問です。

 最近、ルーク様がかっこいい。


 聖職者のうちのお父さまのように、頂頭部がツルンとしてきた。歴代の聖者達は、厳しい修行の末に、あの髪型になっていくのに、ルーク様ってば。


 毎日、ベッドに転がって生クリームを舐めているだけなのに、その境地に至ろうとしている、


 やっぱり、尊さ指数がハンパじゃない。


 ルーク様に呼び出されたので、寝室に急ぐ。

 あの人、いつもベッドにいるから探すのが楽なのだ。


 そんな刹那。

 急ぎ足のわたしは、ルーク様が放置していたと思われる包装紙で転んだ。


 「ちっ。あのハゲ」


 しまった。

 つい、心にもない本心を言ってしまった。


 部屋に入ると、ルーク様の鼻息が、いつにも増して荒かった。うん。なんだか、荒ぶってるよ。


 ルークソ様。


 あっ。

 もしかして、さっきの悪口が聞こえちゃったのかな。


 この人。導火線が短いからなぁ。

 お腹チョンパは、もういやだな。


 すると、ルーク様は、鼻を掻きながら言った。


 「ところで、メイの実家に家庭訪問することにしたぞ」


 ん。

 この人、何を言ってるんだろう。


 貴方は、既に何回もわたしの実家にきているのだけれど。まだ聖なる髪型が不完全だから、照れているのかな?


 ルーク様は続けた。


 「あのな。お前の家に行くんだぞ? 俺みたいなのが行って本当にいいのか?」


 あぁ。

 わたし、OKすぎてお返事忘れていたよ。


 「いいに決まってるじゃないですか」


 「いや、俺様が逆の立場だったら、絶対イヤだけどね」


 何この人。

 自分で言い出したくせに。


 やっぱり、ちょっとアレなのかな。

 パーなのかな。

 

 専属メイドとしては、ルーク様のレベルに合わせて、ちゃんと丁寧にお答えしないと。


 「なんでですか? わたし、嬉しいですよ。ルーク様、最近、よく毛が抜けるし」


 すると、憤慨したルーク様に出ていけと言われた。


 あれれ。

 失礼なことなんて、言ってないと思うのだけれど。


 すぐに呼び戻され、ルーク様に都合を聞かれた。


 「んで、家庭訪問なんだが、いつがいい?」


 わたしは、明日と明後日以外なら、残り363日いつでも大丈夫。

 

 「明日は?」


 「実家の用事が……」


 「明後日は?」


 「わたしの用事が……」


 「……」


 いるよね。

 こういう間の悪い人。


 その2日間以外なら、いつでも大丈夫なのに。

 そこをピンポイントに狙ってくる人。


 すると、ルーク様は爪を噛みはじめた。

 イライラしてるのかな。


 さすが、小さな男代表。

 その聖なる髪型は、見かけ倒しですか?


 まぁ、仕方ないからわたしが決めてあげるかぁ。


 んー。

 あまり先だと、ちょっとアレなルーク様は、忘れちゃうかもしれないし。


 今日がいいかな。


 すると、ルーク様は、これから外で待ち合わせしたいとか意味不明なことを言い出した。


 もしかして、わたしと待ち合わせしてデートしたいのかな? 


 なぁんてね。


 わたしは、ルーク様が前と違って、ずっと一緒にいてくれるだけで満足だったハズなのに。いつのまにか欲張りになってしまったみたいだ。

 

 ルーク様は、寝ながらたまに泣いている。


 「メイ、ごめんな。会いたいよ」


 この前、そんな寝言を聞いてしまった。


 貴方の後悔を断ち切るために、わたしは女神様の加護で舞い戻ったのだけれど、あまりうまくできていないのかも知れない。


 そう思って振り向くと、ルーク様と目があった。なんだか、鼻の下をのばしている。


 どうせ、他の可愛い子にでも見惚れていたんだと思う。


 本当にこの人は。


 わたしも、よく声とかかけられるし、そこそこ可愛い方だと思うのだけれど?


 この人は、どうもワタシには興味がないみたい。あまり好みじゃないってことなのかな。


 実家につくと、ルーク様は、何か気づいたらしかった。


 わたしは少し嬉しくなった。


 「……見覚えありますか?」


 ルーク様は、子供の頃のことは思い出せないかもしれないけれど。


 わたしは、いま、子供のわたしを助けてくれた王子様と、またここに一緒に立っている。


 そう考えると、すごく嬉しいのだ。

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