裏16項 レディのバースデーは見逃せません。

 夢を見た。

 わたしは子供で、孤児院の前で売り子をしてる夢。


 ブローチが売れなくて困ってた。

 皆んなで頑張って作ったのに。


 わたしの売り方が悪いのかな。

 そうしたら、女の子が足を止めた。


 わたしと同い年くらいかな?

 綺麗な服を着た女の子。


 その子は、わたしの前に来ると鼻をつまんだ。


 「くさい。なにこのへん。汚いし。こんなブローチを買う人なんているのかしら?」


 みんなで作ったブローチなのに。

 わたしは、悔しさとかを通り越して、情けない気持ちになった。


 なんで世の中はこんなに不平等なのだろう。

 わたしが、なにかいけないことをしたのかな。


 そんなとき、わたしより少し年上の太った男の子がやってきた。さっきの女の子を「邪魔」と突き飛ばすと、こっちにズンズンとやってくる。


 わたしは、また嫌な思いをさせられるのだろうか。


 すると、男の子はブローチを手に取りこう言った。


 「このへたくそなブローチはお前が作ったのか? セバス? これならどうだ?」


 すると、数歩あけて控えていた初老の男性が答えた。


 「これなら、ぼっちゃ……ルークソさまが作ったといっても通るかもしれません。美的感覚のカケラもないルークソさまにしては、出来が良すぎる気もしますが。誰しもマグレはありますってことで」


 「おい、おまえ。ルークソっなんだ? クソっていうのがメインの情報か? まぁ、いい。んじゃあ、女。このブローチくれ」


 わたしは不遜な態度のその少年に、おそるおそる答える。


 「銅貨一枚です……」


 すると少年は銀貨を出した。


 「これしかないからこれでいいか?」


 「ぼっちゃ、銀貨はいくらなんでも。それ銅貨10枚の価値ですよ……」


 「いうなら『ん』までいえ!ぼっちゃで終わったら、ますますバカっぽいだろ!」

 


 わあわあと騒ぎながら少年の背中を見送るわたし。

 そして、夢から醒めた。


 寝惚け眼でぼーっとしながらわたしは考える。

 あの小太りな少年。まさか……ね?



 お屋敷にいくと、ルーク様は寝室に居なかった。ルーク様のスペースには寝室と客間があるのだが、ルーク様は基本的にはいつも寝室にいる。


 ベッドの上に色々おいて、基本ベッドの上で生活しているようだ。わたしはベッドメイキングをする。すると、毛布の下に、ポテチやクッキー、生クリームが落ちていた。


 お菓子ばっかり。


 だから、太るんだろうなぁ。

 まぁ、痩せちゃってカッコよくなって、モテても困るのだけれど。


 マリーさんに聞くと、ルーク様は旦那様に呼び出されているらしい。何の用事だろう。わたしがお金を使わせちゃってるからかな。


 どうしよう。

 わたしも何か手伝えないかな。


 身体で払うとか。

 ルークさまがお客様なら、それもいいかも。


 でも、肝心のルーク様がお金ないんだから、それはないか。



 しばらして、ルーク様が戻ってきた。

 そして、言った。


 「いやな、父上に金遣いで詰められてな。お前を働かせるのに、身体を使ってどんな仕事をできるか確認するためだ」


 それって、わたしに他の人に身体を売れってこと?


 わたしは悲しくて、気づいたら泣いていたらしい。

 ルーク様はあたふたして、私の目の前に抜け毛が落ちてきた。


 わたしはメイドらしく、サッと毛を拾った。もっと抜けたら、ルーク様は他の人に相手されなくなるかな?


 しまった。

 つい、ニヤけてしまった。


 そのあとは、しつこく誕生日を聞かれた。

 やっぱり、わたしに他の人とさせる気なんじゃ……。


 その後、ルーク様は鉄砲玉のように飛び出して行った。もしかして、わたしにプレゼントとか。


 ……ないない。


 淡い希望をもっても、あとで傷つくだけだ。

 しばらくすると、ハァハァと肩で息をしてルーク様が戻ってきた。


 そして、ポンとテーブルの上に何かを置いた。

 ルーク様は、鼻を掻きながら照れくさそうに言った。


 「それ、プレゼントだ。本当はどうでもいいんだけどな」


 それは、ブローチだった。

 いびつで簡素で。

 さっき夢でみたブローチとそっくりだった。


 わたしは確信した。

 木枯らしの中、ブローチが売れずに困っていた私を助けてくれた少年。やはりルーク様だった。


 わたしはルーク様に抱きついた。

 だって。この人は。不安でたまらなかった子供のわたしを助けてくれたんだもの。


 ありがとう。

 ルーク様。だいだい大好き。


 すると、ルーク様は不審そうな顔をした。


 「え。なに?」


 ルーク様は忘れてしまったらしい。

 寂しいけれど、仕方ないか。


 でも、ちょっとだけヒントを。

 わたしはルーク様を下から覗き込むようにしていった。


 「……ルークソさま? ぷぷっ」


 しまった。

 つい笑ってしまった。


 だけれど、ルーク様は顔を真っ赤にしてお咎めなしだった。やっばり、ルーク様は優しい。

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