裏14項 デジャブって何ですか?
最近、メイド長がまたうるさい。
やれ、わたしは努めを果たしていないだとか、なんとか。
そんなことないよね。
ねぇ、ルーク様。
とはいえ、リーズさんにも脅されたんだ。
なんでも、男の人は、愛に飢えると、他の女の人に目が行きやすくなるらしい。
それはちょっとイヤだ。
バカでクズなルーク様だけれど、わたしだけを見ていて欲しい。
なので、わたしはリベンジすることにした。
リーズさんに教えてもらった恋のABCとやらを試す時が来たのかも知れない。
わたしは、リーズさんお手製のメモを開いた。
えと、たしかあれがこれで、それがあれで。
自分で足を開くとかはちょっと無理だから、それ以外を頑張ろうと思う。
あと。タブー感のあるコスプレとやらがいいとか。
んー。メイド服がすでにコスプレな気がするけれど、これ以外だと持ってるのは神官服くらいしかないよ。
本物だし、なんだかすごくバチあたりな気がするけれど、仕方ない。わたしは、実家の教会に走る。
そして、
「そんなの持ち出してどうするの?」
そんな疑念の声も振り払い、わたしは神官服を持ってお屋敷に戻った。
最初は着ていこうと思ったんだけれど、義母さんが街中で着ちゃ絶対にダメというので、現地着用にした。
わたしはリーズさんからもらった紐みたいな下着を着て、ルーク様の部屋の前に立つ。
トントンとノックをすると、部屋の中から「入れ」という低い声が響く。
前から思っていたんだけれど、入れという時のルーク様は自分に酔ってる気がする。だって、きっと寝室でお腹だして寝転んでるのに、渋い声だしても滑稽なだけですよ?
まぁ、そんなアホなルーク様が好きなわたしも、大概物好きなのかな。
わたしは、そんな妄想をしつつ、心臓がバクバクして、血圧が上がって倒れてしまいそうな、今のシチュエーションをやり過ごそうとしているのだ。
ほら。
ドアノブを持つ手も震えて、握り込んだ感覚が曖昧だよ。わたしはルーク様の部屋に入る。
そして、ベッドの前に
恥ずかしすぎて前をみるのが大変だ。
ルーク様は、わたしを一瞥すると、目を見開いて咳払いをした。
そして。
「おい。メイ。下着くらい履けよ。俺様にも脱がす楽しみっていうもんが……」
え。
なんで?
わたし、履いてるよ?
わたしは自分の下腹部のあたりを見る。
すると、リーズさんからもらった下着が細すぎて、股間に食い込んでいることに気づく。
これでは、パッとみ全裸みたいではないか。
恥ずかしすぎる。
ブラだけつけて下は裸って。
わたし痴女みたいだよ。
頬がポッポとして、耳が赤くなってるのが自分でもわかる。心細くて何かを握りたくて、気づいたら下着の腰の紐を握っていた。
すると、下着がさらに食い込んで、お尻とか丸出しな状況になってしまった。
もう、無理。
あれを着よう。今の格好よりはマシだ。
「ルーク様、ルーク様。ちょっと恥ずかしいので、少しだけ後ろ向いてもらえませんか?」
わたしは神官服を着た。
あっ、インナーを忘れてしまった。
ローブの上掛け(ケープ)の部分しかない。ケープの長さは、腰下くらい。
これでは、輪をかけて変態っぽい。
わたしがあたふたしていると、ルーク様が一瞬こっちを振り向く。
わたしは見逃さなかった。
ルーク様は、目を見開き口も半開きで、驚愕の表情をすると、すごい勢いで、また後ろを向いてしまったのだ。
どうしよう。
軽蔑されてしまったかも……。
きっと、コソコソしてるから、やましい気分になるんだよ。堂々としよう、堂々と。
だって、これ。神官服で神聖なものなんだよ。
わたしは意を決する。だけれど、さっきの冷たい視線を思い出してしまうので、すぐには目を開けないで欲しい。
「ルーク様。ルーク様。こっちを向いてもいいですよ。でも、目を閉じてください」
しばらく待つ。
……あれ?
反応がないぞ。
心なしか、『スーハースーハー』とイビキをかいている気がする。でも、すこし寝息が荒いかも?
悪夢でも見ているのかな?
背中の向こう側では、涙を流しているのかも。
心配。
えと。たしか、リーズさんのメモに男性を元気にする方法っていうのがあったような。
わたしは、ルーク様を起こしてしまわないように、慎重にメモの内容を確認する。
なになに。
これは……。
もし、実はルーク様が起きてたら大変だ。
「ルーク様。ルーク様。寝てしまわれましたか?」
うん。寝てるならいいよね?
練習……。
わたしは、ルーク様のベッドに潜り込むと手順通りに、ルーク様の耳を噛む。
そして、メモの指示通りに、相手が1番喜ぶであろう言葉をかける。
きっと、ルーク様は、みんなに嫌われている夢をみて泣いているんだと思う。実はお優しい方だから。
だから、わたしは。
ルーク様の耳元で囁いた。
ルーク様。ルーク様。
きっと、みんな貴方のことを。
「愛していますよ?」
すると、神官服が淡く光る。
この言葉には、3つの意味がある。
1つめは、今つたえた意味。
2つめは、わたしの本心。
3つめは、聖女の守りの祝福。
きっと、この先、貴方が本当に困った時に。
『わたしの声が届きますように』
わたしがその時、貴方の側に居れなくても。
貴方の力になれるように、ありったけの気持ちを込めたから。
だから大丈夫。
貴方なら大丈夫。
泣いていないで、よく休んでね。
その日のそれからのことはよく覚えていない。
メモ通りにして、大変なことになった気もするけれど、些細なことだ。
そして、その晩。
久しぶりに子供の頃の夢をみた。
わたしの前には、聖女だったお母さんが立っている。
わたしは、駆け寄って、ありったけの力でお母さんの腰のあたりに抱きつく。
ふわっと香る、甘くて安心する温もり。
わたしは、上を見上げる。
すると、お母さんは、右手で垂れる髪の毛をかきあげながら。わたしに愛しむような視線を向けて囁いた。
「メイ。愛してますよ。だから、大丈夫。貴女なら大丈夫」
あぁ、そうか。
わたしはこの時に、母から祝福を受けたのだ。
子供のわたしは、1人でどこかの薄暗い屋敷に閉じ込められて、目の前には絶望しかなかったけれど。
だから、貴方が助けてくれたんだね。
わたしだけの勇者様。
★今回のお話しの表側★
「第14項 これはデジャヴですか?」
https://kakuyomu.jp/works/16818093075519809159/episodes/16818093075555275327
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