裏13項 ストーカー注意報です

 

 最近、わたしには悩みがある。

 どうやら、ストーカーなるものにつけられているみたい。


 お屋敷の中や、休憩時間に外に出ると誰かの視線を感じる。


 今日こそ、その真犯人を突き止め、必要であれば衛兵につきだしてやろうと思っている。


 朝のルーク様のお世話を終え、わたしは急いで外出する。

 今日は、休憩時間中に色々としたいことがあるのだ。


 まず、最近できた公衆浴場。

 アヴェルラークでは、平民にとって、お湯を張ったお風呂は贅沢品だ。大体は、水浴びや濡れタオルで身体を拭いて済ます。


 それでも、頻繁に利用できるわたしは恵まれているとは思う。


 ルーク様は、何故かわたしがお風呂に入ることに否定的なご様子だ。だけれど、いつ、またこの前のようなことがあるか分からない。


 それに、湯船に浸かることは、美容にもいいらしいのだ。


 是非とも試してみたい。

 わたしのお給料では、たまにの贅沢だけれど、自分にご褒美。


 入り口で受付の人に料金を払い、簡単なレクチャーを受ける。

 

 中は……、思ったより広い。

 時々、カコンという音が響き、湯煙が上がっている。


 身体を洗う場所と浴槽が別になっていて、湯煙が上がっている。この様式は、最近流行の和式というらしい。


 小さい椅子に腰をかけて、身体を洗う。

 目の前には小さな桶が置いてあり、ここにお湯をためて身体や髪の毛を洗うらしい。


 何、この桶。

 黄色くて、小さなカエルの絵が書いてある。


 かわいい。


 身体を綺麗にして、浴槽に入る。

 すると、湯に触れた足先から、次第に熱が身体中をめぐるような感覚。

 

 お湯は、かなり熱い。

 頑張って肩まで浸かると。背中がピリピリとして、痒くなった。

 

 浴槽はちょっとした部屋くらいの広さがある。


 わたしは、足を広げて、両手も広げてみる。

 湯煙も石鹸とハーブのような良い匂いがして、まるで身体の中から浄化されているようだ。


 すごく気持ちがいい。

 それに、自分が偉くなったような気持ちになる。


 思ったより気持ちがいいなぁ。

 頻繁に来たいけれど、わたしのお給料じゃちょっと厳しいか。


 そんなことを考えていると、壁の向こうから騒がしい音が聞こえてくる。受付の人が教えてくれたのだが、壁の向こうは男湯だ。


 

 「ちょ、ちょ。俺様と同じくらいなのはそこの生まれたてのベビーくらいじゃないか!!」


 なんかルーク様の声に似ている?

 でも、こんな平民用の施設にいる訳はないか。


 なんだか泣き声が聞こえてきた。

 そして、バタンっと扉を閉める音がして、すぐに静かになった。


 どこにでも、こーいう騒がしい人はいるんだなぁ。


 あっ、もうこんな時間。

 リーズさんとの待ち合わせに遅れてしまう。


 わたしは、急いでお風呂を出ると、メイド服を着る。

 髪の毛をアップしている時間がない。

 ルーク様に会うわけじゃないし、このままでもいいか。


 わたし待ち合わせのカフェに急ぐ。

 お店に入ると、既にリーズさんは来ていた。


 おすすめのお店だけあって、美味しい。

 でも、高いのかなぁ。


 『今月、仕送りできるお金残るかなぁ』

 わたしがそんな心配をしていると、「これ、プレゼント」と、リーズさんに紙袋を渡された。


 わたしが首を傾げていると。

 「これ、下着なんだけれど過激すぎて売れ残っちゃってさ。よければあげるよ。メイのご主人様もこんなの好きなんじゃない?」


 袋を開けてみる。

 なんだこれは……。下着というより紐ではないか。

 これを着るくらいなら、全裸の方が、まだ恥ずかしくない気がする。


 そこで、わたしはハッとした。

 『もしかして、先日のルーク様は、わたしがこういうの着てないから何もしてこなかったのかな』


 うーむ。

 これは一応、もらっておくことにしよう。


 続けて、リーズさんが耳元でヒソヒソと話してくる。どうやらご主人様に気に入られるための裏技を教えてくれるらしい。


 なになに。どれどれ……。


 ……!


 いやぁ、そんなこと、できないでしょう。


 自分で両太ももを広げて誘うと良いらしい。


 一歩間違えたら、性犯罪で逮捕されそうなんですが。リーズさんのテクは、まだわたしには時期尚早ということで、参考程度にしておこうと思う。


 だけれど、こうしてお友達とランチしておしゃべりするのって楽しい。

 気軽に会える友達ができてよかった。


 あっ、もうこんな時間だ。

 お屋敷に帰ららないと。


 リーズさんとまた遊ぶ約束をして、お屋敷に向かう。

 

 すると、わたしの目の前で子供が転んだ。すごく泣いている。


 なんか、ちょっと前にも同じようなことがあったと思う。でも、放置することもできない。


 子供に声をかけてみる。

 

 「大丈夫?」


 「転んじゃって。痛い〜。僕死んじゃうかも〜」


 膝を見ると、ひどい怪我だ。

 感染とかしても困るし、人前ではいけないんだけれど、仕方ないか。


 わたしは、子供に内緒にしてもらえるようにお願いすると、回復魔法を使った。


 「「ブレスド・ヒール」」


 魔法だけでは、応急処置にすぎない。

 ちゃんと、包帯とか薬を塗って完全に治す必要がある。


 どうしよう。


 わたしは、お財布の中にあった数枚の硬貨を、子供に渡した。これじゃあ、必要なものは買えないと思うけれど、ごめんね。


 早く戻らないと。

 もうすぐ、ルーク様の昼食の時間なのだ。


 子供に謝ると、わたしはお屋敷に急ぐ。


 すると、子供が居た奥の柱の陰にルーク様の姿が見えた気がした。

 

 まさか……ね?


 ルーク様がこんなところにいるわけないし。でも、あの薄毛に小太りな体型。

 ルーク様以外にあんな愉快な体型の人いるのかなぁ。



 なんとか間に合った。

 無事にルーク様の昼食の配膳をして、脇に控えていると。


 「これ。やる。俺にとっては、捨ててもいいくらいのはした金だからな。お前みたいな身分の卑しい者にはお似合いだろ。せいぜい有り難がって受け取っておけ」


 そう言って、ルーク様が布袋を床に投げ捨てた。布袋を開けると、銅貨が入っていた。それもかなりの額だ。


 銅貨で50枚はあると思う。わたしの数ヶ月分のお給料だ。


 はした金って、ルーク様、いつも銅貨数枚でもお金足りなくてツケにしてますよ?

 ルーク様にとって、これがはした金のはずがない。

 

 その時、さっき柱の陰から見えた姿を思い出した。


 『あれ、やっぱりルーク様だったのでは。そして、きっとあの子供のことを見て、ボーナスくれたんだ』


 ルーク様は本当に優しい。


 「ありがとうございます。これであの子に包帯と薬をあげられます。さっき、道で転んだ子を見つけて心配で。このお金があれば……」


 そういうと、わたしは早速、さっきの子供のところに行くことにした。


 後ろからはルーク様が呼び止める声が聞こえる。きっと「その金は自分のために使え」とでもいうのだろう。


 なので、わたしは振り返ることなく、颯爽とあの子供の元へ駆ける。


 「ランチの皿が……」とか聞こえた気がするが。気にしない。



  

 ★今回のお話しの表側★

 「第13項 ストーカーのお時間です」

https://kakuyomu.jp/works/16818093075519809159/episodes/16818093075550378257

 

 

 

 

 

 

 

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