第13項 ストーカーのお時間です

 最近、メイがよくどこかに出かけている。

 前世の時は、夜中まで残っていたもんだが(俺様が常時無理難題を押し付けていたので)。


 気になる。

 いや、ストーキングとか良くないよね。

 これは、彼女を守るために、見えないところからのガードなのだよ。全ては彼女のため。うん。


 だって、気になるんだもん。仕方ないじゃないか。


 休憩時間になった。

 メイのあとをつける。


 すると、メイはそそくさと着替え、どこかに行く。


 俺も変装して後を追う。


 メイは、街中をどんどん進んでいく。


 いろんな人に声をかけられて笑顔でこたえている。


 あいつ、マジで人気者だな。


 どこぞの凱旋パレードみたいだぞ。人気者すぎだろ。



 やばい、気を抜くとおいていかれる。


 メイはある建物に入っていく。


 これは、銭湯じゃないか。



 わかったぞ!


 毎晩、俺様にいつ呼び出されてもいいように風呂に入っているんだな。


 そういえば、この前、お風呂に入っていないと最後まで抵抗していたっけ。


 俺様は別にいいんだが。

 ちょっとくらい汗ばんでる方が燃えるってもんだ。


 そういえば、これもループ前にはなかった感情だ。

 新しい感情の芽生えは大切にすべし。


 って、作られたてのAIか。俺は。


 メイがなかなか出てこないので、俺も男湯に入って待つことにする。

 

 もしかしたら、男湯との壁を挟んでの逢引きかもしれんからな。主人として必要なチェックだ。


 浴室に入る。


 そういえば、他の人と風呂に入るのってはじめてだ。

 屋敷ではいつも1人だからな。


 領民の皆に、俺様の高貴なメガキャノンを披露してやろうではないか。


 どれどれ。


 他のヤツの粗末なものはどうだ?



 ……。



 まじか。

 

 俺様の相当小さいが。


 まじ俺様より全員でかい。



 タンポポとヒマワリくらいサイズが違う。

 いや、ビー玉とボーリングの球くらい?

 

 同じくらいなのは、あそこで球遊びしてる生まれたてベビーくらいだ。


 俺様よりでかいやつは、全員死刑にしてやるか?


 知らないって幸せっ。

 無知って罪だぜ(カッコいい風に)。



 ちょっと俺の人間強度じゃ入浴続けられないわ。

 風呂出よっと。


 基本、他人を打つの専門だから、打たれるのには慣れていないんだよね。


 

 あっ。メイもでてきた。


 髪を下ろしている。

 あいつの髪の毛、あんなに長かったのか。


 いつもメイド服のときは纏めて上げてるからな。


 可愛すぎる!!


 明日から髪の毛を下ろして仕事させるか。

 いや、メーカーに発注して、全髪型のウィッグを取り寄せるか……?

 メイのあんな髪型もこんな髪型も見てみたい。



 あっ、メイがまたどこかにいくぞ。


 もしかしたら、風呂に入って男に会いにいくのかもしれん。追跡せねば。


 すると、女性と待ち合わせしていた。


 まさか。


 まさかのまさか。


 百合の園ってやつか?



 それは、けしからん(鼻の下のばしてる)!! おれも混ぜろ!



 動向をしっかりマークだ。


 

 すると、2人はカフェでランチを始めた。


 歓談している。


 あれ、あれってこの前のメイド服屋の店員(以下、店員A)じゃね?


 なんか紙袋を渡されたぞ。


 あっ、何か耳打ちされている。

 よっぽどの企業秘密なのか?



 気になる。



 俺は、盗聴することにした。

 聞き耳の魔法だ。


 この国では魔法は貴族の特権だ。

 貴族の親が貴族の子弟に教える。


 だから家ごとに魔法の格が違うし、平民は使うことができない。


 

 「「五芒星の傾聴(ペンタグラム・リスニング)」」


 すると、遠くのメイの声が聞こえてくる。

 「えっ。そんなの恥ずかしくてできません」

  

  メイド服屋の店員Aはニヤニヤしてる。

 「ご主人様に喜んで欲しいんでしょう? ならこれくらいはできないと……」


 メイの耳は真っ赤だ。……恥じらう姿も可愛い。

 「でも、わたし経験なくて。それにそんないやらしい手の使い方は恥ずかしい……」


 俺は聞くのをやめた。

 良心がとがめたんじゃない。


 鼻血が出たし、

 楽しみは知らない方が楽しいからだ。


 鼻血といえども俺様の高貴な血をこんなところでばら撒けないからな。



 それにしても、銭湯にランチ。

 あいつの安月給じゃ厳しいんじゃないか?


 どっちの用事も俺様のためだ。

 あいつ、ちゃんと仕送りとかできてるのか?

 自分のことに使う金はあるのか?


 心配すぎる。


 今度、ボーナスを渡すか。


 いや、でも、夜のお勤め代とか、退職金と勘違いされそうだよ。



 メイが席を立った。



 どこにいくんだろ。

 あぁ、屋敷に戻るのか。


 すると、メイの前で子供が転んだ。

 ってか、転んだなんて可愛いものじゃないや。


 大出血して骨が見えてるぞ。

 あれ放っておいたら、死ぬやつじゃね?


 まぁ、俺様なら見て見ぬフリをするか、俺の前で転んだ罪で死刑だな。


 

 メイはどうするんだ。

 俺に見せる優しい顔とは違う、冷酷な一面があったりして。



 メイは子供に『ないしょですよ』とでも言いたげなジェスチャーをすると、何か患部に手をかざしている。


 手が淡い緑に光っている。


 おいおい、あれ回復魔法だぞ。

 なんで平民が魔法使えるんだよ。


 しかも回復魔法って。

 聖女の家系でしか伝わっていないような、かなり格の高い魔法だぞ?

 

 まじわからねぇ。謎すぎる。


 って、やばい。

 メイより先に屋敷に戻らないと。


 俺はその後の顛末は見届けずに、屋敷に帰る。


 屋敷に帰ると、そそくさと着替え、横柄な主人を演じるのだ。

 

 ただ、今日の俺様は一味違う。

 この布袋。


 銅貨50枚入ってる。

 そうだな。メイの給料の3ヶ月分くらいの金だ。


 また身売りや遺書騒ぎになっても困るからな。

 渡し方が難しい。

 悪役ロールプレイも疲れるぜ。


 

 あ、メイが帰ってきた。

 「すみません、遅くなりました」


 子供のために走って帰って来たのか。

 汗だくだぞ。


 メイはそそくさと、ランチの準備をする。

 おれは、作業がひと段落するのを待つ。


 

 俺様はメイに布袋を渡した。


 「これ。やる。俺にとっては、捨ててもいいくらいのはした金だからな。お前みたいな身分の卑しい者にはお似合いだろ。せいぜい有り難がって受け取っておけ」



 ちらっとメイの方を見る。


 ……泣いてるじゃん。


 悪役ロールプレイやり過ぎたか?

 どうしよ。


 死ぬとか言い出されたら困る。

 

 メイは布袋を抱きしめた。

 「ありがとうございます。これであの子に包帯と薬をあげられます。さっき、道で転んだ子を見つけて心配で。このお金があれば……」

 

 おいおい、お前自身のために使ってほしいんですけど?


 まぁ、いいや。めんどうくさい。

 好きにしてくれ。


 それにしても。

 自分も貧乏なのに他人に施すとか。

 こいつほんとに聖女みたいだな。


 メイは、柱の影に隠れてこちらみると、顔を赤くしてどこかに駆けて行った。


 やれやれだぜ。


 って、ランチの皿、全部放置されてるんですけど。



 おーい……。

 

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