第12項 試食会の時間です
小鳥達の囀りで目が覚める。
いや、嘘でしたわ。ごめんなさい。
一睡もできてないのですね。
なので、小鳥が泣いてそろそろ解放される時間が近づいてきたなーと。
さて、いい加減に不眠で辛い。
メイを起こすことにした。
あれ、でも待てよ。
昨日は薄暗かったけれど、今はすごく明るいよ?
メイ、ベッドからでるとき、丸見えですね。
よくないですよね。そういうの。
すると、メイが寝言をいう。
「アン……ハァハァ」
こいつどんな夢見てるんだ。
やばい、早く起こさねば。俺の正義が崩れ落ちそうだ。
ちょっとメイの肩を揺すってみる。
全然起きない。
この人大丈夫なの?
主人のベッドですよ? ここ。
人間強度高すぎませんか?
もっと揺する。
グラグラ。
多分、地震だったら震度4くらいだと思う。
ようやくメイが起きた。
起きるなり「キャーー!!」と大騒ぎして、メイはベッドから転げ落ちた。
丸見えですよ? あなた。
まぁ、また遺書書かれるの嫌だから言わんがな。
なんか、毛布巻いて、キッとこっちを睨んでる。
マジかよ。
勝手に部屋に入ってこられて、勝手に脱いで。
勝手にこの部屋で寝たくせに、なんかめっちゃ睨まれてるよ。
いやぁ、でも、睨む顔もまた……。
かわいい。
メイは怒り顔や悲しむ顔も可愛いから見たい。
でも、怒らせたり悲しませたりはしたくない。
このジレンマ。悲劇だな。
おお、ハムレットよ。泣かせるべきか、笑わせるべきか。
あれ、なんだろ。ハムレットって誰だ?
前々前世の記憶かな。
いや、理不尽といえば、あの寝言。
メイに寝言のことを聞いてみる。
すると、アンというワンコが死んでしまって泣いている夢を見たということだった。
なんて紛らわしい。
と、そんなことをしている場合じゃなかった。
今日はやらねばならぬことがあるのだ。
いつまでもピーマン嫌いとか言ってられんからな。
シェフに命じて、ピーマン克服メニューを考案させたのだ。
その試食会をする予定だった。
朝食は1人でとることが多い。
今日も食事室にいるのは、俺1人だ。
メイが特別メニューの朝食を運んできてくれる。
昨日の緑のメイド服も良かったが、今日の黒いのもいいな。
いやぁ、何色でも可愛すぎる。
こんなことなら全色買い占めれば良かった。
さて、ピーマンメニューがどんどん運ばれてくる。
ピーマン、マジで苦手なんよね。
こんな罰ゲームみたいなイベント。
前世なら、シェフを10回くらい死刑にしてたわ、きっと。
まず一品目、ピーマンのスープ。
色は緑。いや、むしろピーマン色。
そのまんまやんけ!
マジかよ、なんか着色くらいしてくれよ。
これじゃ、見た瞬間ピーマンてわかるわ。
こいつ、このイベントの趣旨、理解してるのか?
まぁ、見た目じゃわからんよね。
食べてみて判断。すぐ死刑とか言わない。
これが、ループ三回目の熟成した大人の余裕。
……味は、すり下ろしたピーマンですね。
湯がいてすり下ろしたピーマンに、コンソメ、牛乳、塩胡椒ですかね。これ。
料理初心者の俺にでもわかるシンプル構成。
ググーっと際立つピーマン感。
これって、むしろ、素材の味で勝負したい人がやるやつなんじゃ?
やっぱ、死刑にすべきか?
いや、ピーマンが理由で死刑なんかしたら、メイのお父さんにも累が及びかねない。
耐えるんだ。俺。
それで二品目。
ピーマンのアミューズ。
レンゲのようなスプーンに口直しが乗ってる。
……。
あのー、ゼラチンみたいなのの上に乗ってるの、まんま無加工のピーマンなんですが。
ないわー。これ。
俺は、ピーマン苦手な人でも食べられるメニューを求めてるのっ!!!
こんな、ピーマンたくさん食べさせて克服する的なの求めてないのよ。体育会系すぎだろ。
舌下療法ですか?って感じ。
それにしても、前は死刑続出でシェフがどんどんかわってたけれど、死刑廃止するタイミングで
こんなババ抜きのババみたいなシェフが残っちゃったのね。
もう一回くらい執行しとくかな。
いいよね?
メイがじーっと心配そうにこちらをみている。
はい、我慢しますとも。
さて、三品目、
いい加減に疲れてきたな。
給仕される前から、皿に乗ってる緑の物体が見えるんだもん。
せめて、パプリカ使って色くらいは変えようぜ?
ちょっときりがないんで、全体像を見渡してから、どれを食べるか決めることにした。
ごめんね、ピーマンさん。
あなた達のことは責任持って、あのシェフに食べさせますんで。
フードロス反対です。
ズズーっと見ると、10品中、1品だけオレンジのが見えた。
逆を言えば、9品は真緑。グリーンジャイアントスター。緑の9連星。
食べるまでもない。
んじゃあ、あのオレンジのを行ってみよか。
何やら、メイが心配そうにじーっとこっちを見ている。
あぁ、なるほど。
これだけ緑じゃないのおかしいもんね。むしろ不自然。
これね。
きっと、メイが作ったね。
オレンジ色のデザートだ。
口に入れてみる。
あっ、これは……。プリンだ。
ミルクの甘味が、ピーマンの青臭さを打ち消している。
パプリカを使ってるのね。あまり苦くないし。
それにバニラ。砂糖は精製されていないキビ砂糖を使っているな。ピーマンの風味消しかな。
上に乗っているのはキャラメリゼか。香ばしい。
料理はしないからわからないが、ピーマンを食べやすくするための工夫(愛情?と思いたい)が随所に感じられた。
うんうん、いいんじゃない?
これなら普通に食べられそうだ。
これを採用することにしよう。
俺がピーマンを食べていると、メイも嬉しいようだし、良かった。
シェフが隣でドヤ顔してるのが気に入らないが。
誰が作ったのか(色を見れば明らかだが)は追求しない。
主人の口に入れるものを他人に任せたとなれば、その咎は免れられないからだ。
試食会は収穫があったな。
工夫すれば、ぴーまんを食べられることがわかったのは大きい。
は?
なんかシェフが褒美をよこせと言ってる。
お前の作品は緑の9連星だろうが。
あり得ないな。
……やはり死刑にしとくか?
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