第11項 夜伽の時間です

 

 夕食を済ませ、シェフとメイに礼をいう。

 なんか、お礼を言っただけで、家族全員から怪奇現象みたいな顔をされた。


 ちょっと思ったのだが、俺がこんな性格になったのは、俺だけのせいじゃない気がしてきた。

 使用人に礼を言うと奇異の目で見られる家族って……。

 両親もだが、兄貴(養子)と姉貴も大概だぜ。


 ちなみに、うちの食卓では、それぞれの家族に専属メイドがつく。

 メイは俺専属なので、基本的には他の家族への給仕をすることはない。


 他の貴族の家はどうか知らないが、うちではこれがしきたりだった。


 いやぁ、でも、本当によかったわ。


 メイが兄貴(イケメン)に給仕して、手とか握られようものなら、兄貴のこと殺しちゃいそうだもん。


 マジで。



 夕食が終わり、紅茶で一息つくと親父の部屋に呼び出された。

 「ルーク。今日はメイを連れて街へ行ったそうだな」


 「あぁ、そうだな(街ってか、この家も街の中にあるんだけれどね)」


 「色々と買い与えていたとか。まさか、メイに弱みを握られているのではあるまいな?」


 「ただ、俺の周りにいる人間に、清潔な格好をさせたかっただけです。専属メイドの服装がボロボロじゃ、主人の俺のメンツに関わるので(それに、弱味って言うなら、惚れてるのが一番の弱みよね)」


 「そうか、くれぐれも使用人に肩入れするでないぞ。あいつらは、常々、当家の威信を羨み、足を引っ張ろうとしておる」


 「気をつけます。ご忠告ありがとうございました」


 俺は親父の部屋を出た。

 いやぁ、これは、メイとの結婚とか絶対に許してくれなそうだな。

 それに、あの警戒心……、なんか理由でもあるんかね。


 

 自分の寝室に戻る。

 そして、最近の出来事を反芻する。


 正直、俺は、メイさえいてくれればなんでもいい。


 だけど、メイはそうじゃないかもしれない。

 父親の話しか聞いたことはないが、母親もいるであろう。それに兄弟とかもいるかもしれない。


 メイだけを引き上げても、メイは幸せになれない。


 メイの周りごと引き上げる。

 それには相応の力がいる。


 リリスって言ったっけ。あの悪魔のことをなんとか懐柔できないかな。


 トントン……。

 「入れ」


 入ってきたのはメイだった。

 しかも、下着だ。


 いや、俺の冗談を間に受けたのだろうか。

 上半身は何もつけていない。

 

 顔と耳を真っ赤にしている。


 かわいい。

 可愛すぎる!!


 だけど、刺激が強すぎるぞ。

 ちょっと大人の事情で、ベッドから起き上がれないわ。


 これ以上、メイに近づかれたら色々と我慢できないかもしれない。

 俺は、メイを幸せにしたいのであって、性欲の吐口にしたい訳ではない。


 子供とか。できてもいいけれど、ご両親への挨拶もしてないし。

 


 頼む。頼むからそれ以上、近づかないでくれ……。

 でも、強く拒んだら、また遺書騒ぎになりかねない。


 それにメイにも恥をかかせることにもなりかねない。


 すると、メイが近づいてきて「ちょっとの間だけ、向こう向いていてください」と言った。


 俺は、もう寝たふりを決め込むことにした。

 万事円満に解決するにはこれしかない。


 なんだか、背後からスルスルと何かを脱ぐ音がする。

 そして、控えめな声で話しかけてくる。

 「ルーク様。ルーク様。こっちを向いてもいいですよ。でも、目を閉じてください」


 可愛すぎるぜ、マイハニー。

 大人の事情でそっちは向けんがな。


 メイがピタッとくっついてくる。

 そして……。



 スゥ…、スゥ…。


 

 寝息が聞こえてきた。


 まじか。こいつ寝たぞ。

 すげえ度胸だな。


 まぁ、普段から疲れてるもんな。

 俺がいつも無理難題を言ってきたから。


 ごめんな。


 いつか、ちゃんと面と向かって謝れたらいいなと思う。

 まだ無理だけど。

 謝罪なんてしたら、怪訝そうな顔で遺書書かれちゃうからな。


 でも、今は少しだけ。

 少しだけメイの方を向いて、頭を撫でる。


 すると、指先がメイの髪の毛に引っかかり、ふわっと甘くていい香りがする。


 

 そして、俺はまた背後を向いて大人の事情と戦うのだった。

 


 いやぁ、寝れんよね。これ。普通に……、

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