第10項 お買い物の時間です
俺様とメイはケルアの街にいる。
ケルアはリューベック公国の北東に位置する。
人口は1万人ほどで、クラム領では中心的な街だ。
中心部には、我がクラム侯爵邸があるのだが、そこを中心として南北に街道が走っている。
周辺には商店も多く、買い物に不便することはなかった。
いつもであれば、俺が外出すると、領民はそそくさと居なくなってしまう。
商店も俺が買っている店以外は、すぐに閉店してしまう。
……自分ながらに、よくもまぁここまで嫌われたものだと思う。
今日は俺も変装しているし、メイがいるせいで領民の様子が朗らかだ。
俺と目があっても閉店しない。
なので、こんな買い物らしい買い物は久しぶりだった。
さて、何を買おう。
メイの手を引き、服屋に入る。
すると、女性の店員が出てきて話しかけてきた。
『よし、やはり俺に気づいていない』
「こちらの女性のお召し物ですか? 夜のご奉仕用ですか? どのような物をお望みで?」
メイを奴隷とでも思ったのだろうか、店員はニヤニヤしている。
メイとそういうこと、今なら大歓迎なのだがな。
まぁ、でも、ループ3回目のラストチャンスだ。無理をして失敗することは許されない。
俺の魂は、現世限りなのだ。
どうせなら、人生を楽しく全うしたい。
メイは勘違いしっぱなしらしく、店員に色々と教えてもらっているらしい。
あっ、メイの耳が赤くなった。
あいつ、面白いな。
メイに任せていても進まなそうなので、店員を呼びつけ給仕用の服を何点か見繕ってもらう。
どれも似合うに決まっているのだが、一応、試着させるか。
……いやぁ、どれも似合いすぎで可愛すぎるだろう。
つい、ニヤニヤしてしまった。
その様子を見たメイは、俺が残虐刑の計画でも立てていると思ったのか顔が真っ青になる。
そして、店員に紙とペンを借りている。
何か書き始めた。
どうも、遺書を書いているっぽいな。
早くやめさせねば。
そんなこんなで、メイド服を何着か新調した。
次は、下着屋か。
うちの親父、ドケチだからな。給料も安い。
どうせ、新しい下着をかう余裕などないだろう。
服や下着が綺麗なだけで、仕事効率も上がるからな。
これは必要経費だ。
店員が何着か見繕ってくれるというので、メイにどんなのがいいのか聞く。
すると、メイは顔を赤くした。
「ルーク様がお好きな物でいいです。でも、あまり恥ずかしいものはちょっと……」
うーん、毎回のことだが、完全に勘違いしているな。
俺が好きなものというなら、何も着ていないのが一番いいに決まっている。
まぁ、自分のものだからな。自分の好みの物を選ぶように伝えた。
すると、すごく怪訝そうな顔をされた。
やばいやばい。
いい人になりすぎた。
良い人すぎると好きになってもらえないし、悪辣すぎても自分にストレスが溜まる。
絶妙なバランス感覚。
難しいな。ほんと。
咳払いをして言い直す。
「えー、お前は俺の所有物なのだから、何でもいい。どうせすぐに脱がせるのだからな」
すると、メイはモジモジしている。
「あの、わたしを弄んで、そのあとは殺すのですか? 夜までに遺書とか書いた方がいいですか?」
しまった。
冗談が通じる相手ではなかった。
本当に面倒臭いな。
前は無関心だったから気づかなかったが、こいつ、こんな性格をしていたのか。
まぁ、そんなこんなで、なんとか買い物を済ませた。
帰り道、メイの手を引く。
メイの手を握ると、メイは最初はビクッと手を離そうとしたが、観念したようだ。
大人しく着いてきた。
俺は、照れ隠しもあって、メイに言った。
「はぐれたら困るだろう。一緒の家に帰るのだからな」
「ルーク様、どうしたのですか。急に。今までわたしに関心なんて全くなかったのに」
そして、ハッとした顔をする。
「お母さんに聞いたことがあります。冷たい男の人が急に優しくなるのは下心があるに決まってるって。そして、その後、すぐに捨てられるって」
おいおい、お前の母さん、なんてこと吹き込んでくれるんだ。
俺は、頭を掻いてそっけない声色で返す。
「ずっと当家に仕えてくれたからな。礼だ。それに、さっきから風呂風呂言ってるが別に不要だ」
「礼って、なんでわたしにだけ? それに仕えて
いや、もうなんでもいいやホント。
こいつと話してるとマジで疲れるわ。
早く家に帰ろう。
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