第14項 これはデジャヴですか?

 その日の夜。

 寝室にいると、ドアがノックされた。


 まぁ、誰だか予想はつくのだが。

 クールを演じて返事をする


 「入れ」


 ドアが開くと、メイがいた。

 しかし、この夜のメイはひと味ちがった。


 今度も下着ではあるのだが、今日は下だけ履いてない。


 なんだ?

 この前は上だけ裸だったぞ。

 なんかのパズルか?


 両方組み合わせると、美少女使用人メイのフィギュアがもらえるとか?


 本気で欲しいぞ?

 

 メイは頬を赤らめて恥ずかしそうにしている(そりゃあそうだよ。これで恥ずかしくなかったら、ちょっとした異常者だぜ)。


 「ルーク様、ルーク様。ちょっと恥ずかしいので、少しだけ後ろ向いてもらえませんか?」


 いや、脱がなくても、今のアナタの格好で十分恥ずかしいと思うんですが?

 むしろ、全裸になった方が正常化する気すらするぞ。


 まぁ、大人の事情で前を向いてると辛いからな。

 言われなくても後ろを向くが。


 なんだか、メイが何かを着ている音がする。

 残念だけど、ちょっとホッとした。


 メイも正気を取り戻してくれたか。


 と、油断してしまった。

 つい、後ろを向いて直視してしまったのだ。


 しかしだ。

 俺の専属メイドが、そんなマトモなはずがない。


 神官服だ。

 今度の敵は、全裸に神官服をまとっているっ!!


 裸にエプロンも捨て難いが、タブー感で強化された神官服の攻撃力は相当だぜ……。


 もう。無理。

 可愛すぎるんだよ。おまえ。 


 とりあえず、俺様は後ろを向いたまま集中する。

 

 そして、こころの中でさけぶ。

 無心の呼吸、壱の型っ!!

 メイ天の鉄壁っ!!


 メイ天の鉄壁。これは、可愛すぎるメイド対策で、俺が山籠りの末(この辺に山はないがな)に編み出した最終奥義だ。

 この鉄壁の前には、どんな誘惑も無駄だ。


 さて、深呼吸をして心を落ち着けよう。


 スーッ、ハーッ。


 よし、落ち着いてきたぞ。

 あと少しだっ。あと少しで俺は正義を取り戻せる。


 そんな背後からメイの声が聞こえる。

 「ルーク様。ルーク様。こっちを向いてもいいですよ。でも、目を閉じてください」


 あれ、これデジャヴ?

 ちょっと前にも同じセリフを聞いたような。


 そうだ。このまま放置しておけば、こいつは寝るんだった。


 放置。


 ……。

 

 なんか背後からガサガサした音が聞こえる気がする。

 

 何してんの?

 怖い。


 なんだか、手紙を広げるような音がするよ。

 そして、なんか背後で「よしっ、よしっ」って、報連相みたいにブツブツ呟いてるぞ。

 メイさんや。ちょっとお爺さんは本気で怖いんですが。


 そして、メイが布団に潜り込んでくる。

 「ルーク様。ルーク様。寝てしまわれましたか? うん。寝てるならいいよね? 教えてもらった練習……」


 そういうと、ハムッ。

 メイは俺の耳たぶを優しく噛んできた。

 そのままペロッとする。


 そして、耳元で「愛してますよ?」と。


 ちょっと。

 おれのメガキャノン(あ、プチキャノンに改名したんだった)やばいんですが。

 

 冷静をたもて俺っ。

 鉄壁、鉄壁の呼吸だ!!


 すると、メイの手がスルスルッと前の方に回ってくる。

 そして、下半身の方に。


 キャノンのあたりがサワサワっとされる。

 俺はゾワゾワッとする。


 赤コーナーのメイ選手ったら、ピンポイントに急所を狙ってくる。

 ……あのセコンド(店員A)め、なんと素晴らしい、そしてなんと恐ろしいことを叩き込んだのじゃ!

 (あれ? セコンド? また前々前世の記憶が……)

 

 とにかく、もう、我慢できん!!

 ご両親への挨拶は後からするわ。

 メイの方を向こうと思ったその瞬間。


 メイが冷静な声でいった。

 (いや、低い声も可愛いな、こいつ)

 「あれ? 店員さんに教えてもらった通りにしたのに。ルーク様。何にもなってないや……」


 ……。

 

 我が相棒のメガキャノン改めプチキャノンよ。

 そなたの存在は、敵に認識されなかったようだぞ?


 良かったな……。



 って、良くないわ!!!!


 あー、もう。

 こいつ。死刑……にはしないけど、寝室出禁!!


 毎晩こんなことされたら、俺がもたんよ。


 

 そして。


 すーっ、すーっ。


 また寝息が聞こえてくる。

 こいつ、よくこの状況で眠れるな。

 すげーよ。ほんと。


 メイが寝静まったのを確認して、メイの方を向く。


 すると、メイは寝ながら泣いていた。

 子供のような、悲しそうな泣き方だ。


 どんな夢を見てるんだろう。

 メイの涙をみて、メイが死ぬ前に浮かべた涙を思い出した。

 

 ……おれの夢をみて悲しんでるのかも知れないな。


 今更、罪悪感で押し潰されちゃいそうだよ。

 俺は、こんな優しくて可愛い子を、一時の享楽で殺した。


 許されるなら、あの時のメイに謝りたい。

 俺の魂は、現世をもって消え失せるらしいから、叶わぬ夢ではあるが。



 そして、メイのさっきの発言を思い出す。

 「愛してるよ」って確かに言った。

 あれ、仕込みかなぁ。

 直前に大工さんの手順確認みたいに「ヨシ!ヨシ!」言ってたし。


 んー。どうだろう。

 仕込みって分かってても、ついニヤけてしまう。

 

 すると、メイがぱちっと目を開けた。

 そして、例の冷めた声で。

 「ルーク様。何にニヤニヤしてるんですか? ちょっと怖いです」



 ……って、お前にだけは言われたないわ!!

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