第45話 お試し

【ラファエル視点】

 リーダーのバン殿が少し難しい顔をしたと思ったら、思いがけないことを話してきた。


「えっと、アレクシアさん、ラファエルさん、良かったら僕たちとパーティーを組んでみませんか?とりあえず1週間組んでみて、正式に仲間になるか、お別れするか決めるのはどうですか?ただ、僕はこの先にあるサニタルの町に用があります。最近孤児院を出たナリアナという女の子を探しに来ていて、彼女を仲間にするつもりなんです。また、僕の活動拠点はシャラックになります」


 バン殿から私とアレクシア殿にお試しでパーティーを組まないか?との提案に私は賛成した。


「アタイはこんなだけど良いの?」


「アレクシアさんが心は女性だというのは理解していますが、まだ知り合ったばかりです。だから、申し訳ありませんが満室なので、部屋割りは男性として扱わせてください。そんなことしないと思いますが、もし心が女性だというのが嘘だった場合・・・」


 バン殿の提案を聞いた瞬間、私は少し気まずさを感じた。


「大丈夫よ。アタイお風呂は男風呂なの。ほら、竿ついているからさ。それに本物の女の子は心配するのは当たり前だから」


 アレクシア殿は風呂も男性用を使っていると言っていたが、竿とは?それは良いが、私には他にも心配事があった。これまでの経験上、己が女なのだと知られると、体の関係を迫られることが多かったからだ。

 だからこれまで男性のふりをしていたのだが・・・


 バン殿について・・・ミンディー殿とメリッサ殿の様子から信頼できそうなのだが、万が一もあるから少し怖い。


『バレたらどうしよう・・・』


 心の中でそうつぶやいた。


 アレクシア殿に相談した方がいいかもしれない。バン殿は信頼できそうだけど、まだ彼を十分には知らないから・・・彼がアレクシア殿を今の段階で全面的に信用できないのと同じ理由なのだ。

 もし全面的に信用したとしたら、それはそれでどうなのかとは思う。


 アレクシア殿は格好から心は女であり、女と乳繰り合うことはないと公言していたし、そこに嘘はないはずだ。

 体は男だが、筋骨逞しい男が好みだと言い切っていたな。

 あれほど大っぴらにできる性格はある意味羨ましいものだな。

 心と体の性が一致しないとはよく分からないが、仲間なら些細なことだろう。

 つまり私の裸を見ても、女性が女性の裸を見たのと同じ感覚ということなら問題ない。


「僕たちは問題ありませんよ。ただ、1つ気がかりなのが拠点をどこにするかなんです」


「アタイはどこでも良いわよ。こんなだからトラブルの度に街を変えてるからさ」


 アレクシア殿は遠慮していたが、それでも了承した。

 彼の探し人がいるという事情も理解したし、新しい仲間が増えるのは歓迎だった。だが、部屋割りの問題は私の心を重くしていた。


「ああ。私もアレクシア殿と同じで街を渡り歩いているから問題ない」


「分かりました。取り敢えず明日からの旅費は僕の都合でサニタルに行くので全て僕が出します」


「良いのかい?まあありがたいけどさ」


「そこまでして貰うなど申し訳ないが・・・」


 バン殿がお金のことでミンディー殿とメリッサ殿と話をしている間、私はアレクシア殿へ静かに声をかけた。


「アレクシア殿、ちょっと相談があるのだが・・・」


 アレクシア殿は優しく微笑んだ。


「何かあったの?ラファエルちゃん?」


 えっ?と思う。君付けかと思いきや、まさかのちゃん付けとは!


「実は・・・」


 言葉を選びながら続けた。


「私が女だと知られると、色々と面倒なことが起こるのだ。だからこれまで男性のふりをしてきたのだが・・・バン殿たちと一緒にいると、いずれバレてしまうのではないかと心配で・・・」


 アレクシア殿は少し考え込んだ後、優しく私の肩に手を置いて言った。


「大丈夫よ、ラファエルちゃん。あたしたちは仲間になるんだし、バンっちも信頼できる人だと思うわ。何か問題が起きたら一緒に解決しましょう。あなたが安心して過ごせるように、あたしも協力するわ。それにラファエルちゃんが男だと思っているのはバンっちだけよ!」


 その言葉に少しホッとするも、既に女だとバレていることに混乱してしまった。しかもミンディー殿、メリッサ殿にも早々に見破られたとは・・・くぅ


 しかしアレクシア殿に感謝の気持ちを伝えるのを忘れてはならない。


「ありがとう、アレクシア殿。あなたがそばにいてくれて、本当に心強く思う」


 その後、私はバン殿のところへ戻って、部屋割りの件についてもう一度話し合う決意を新たにした。自分の状況を正直に話し、バン殿の反応を見極めるつもりだった。

 しかし、私がアレクシア殿と話し込んでいる間、バン殿は風呂に行ってしまった。


 私は部屋の番をするからと、1人残り鎧を脱ごうとしていた。

 男装も楽ではないのだ。


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