第29話 2人の主人に

 僕はアリア(源氏名で仮称)に向き合った。


「とりあえずここを出るよ。名前のことや自己紹介は色街を出てからにしよう。嫌かもだけど、今は源氏名で呼ぶよ」


 そう伝えると、手首を掴んで強引に歩いたけど、黙って従う彼女の手は細く白かった。


 金髪の美少女は源氏名は「アリア」と言い、その名を見た、つまり今着ている上着に書かれている源氏名を見た瞬間から、僕は彼女を奴隷ではなく1人の人間として扱うことを心に決めた。


 彼女の運命を変え、ダンジョン探索の助け手としてではなく、共に歩む仲間として見ることにした。彼女を有期奴隷としてではなく、真の自由を手に入れさせるべく、奴隷から開放しようと思った。僕の想いの全貌は、奴隷商に到着してから明かすつもりだ。


 そのためか、彼女は娼館を出てから道中ずっと黙っており、不安と期待の入り混じった何とも言えない表情を浮かべていた。


 色街を出るときに門番に睨まれ、身請けの証を見せると驚いた顔をした。


「人は見かけに拠らねぇな。こいつの身請けは家が建つ金が飛んだろ?」


 僕は頷く。


「背後を気を付けろよ。ここからは表通り以外進まねぇことを勧めるぜ。えっと、源氏名はアリアか。身請けおめでとう!こんな腐ったところに2度と戻ってくんじゃねぇぞ!」


 彼女は門のところで多くの人に拍手をされて送り出された。

 一応しきたりなんだそうだけど、ゾーイさんは黙って僕たちの背後から目を光らせてくれている。

 ありがとう!


 幸い絡まれることもなく奴隷商へ到着したけど、そこが奴隷商だと理解した瞬間、彼女の表情は一変した。

 売られる!?という誤解からか、顔は絶望に満ち、必死な形相で懇願していた。


「どうか売らないでください!何でもしますから!反抗的な態度を取りませんから!お慈悲を!沢山の男に汚されるのは耐えられないわ!死も許されないの!」


 彼女の泣き崩れる声に、僕は心を痛めた。

 そこで女将から受け取ったアリアの譲渡証明書を彼女に見せた。


「これは君の主人を僕に書き換えるための譲渡証明だよ。奴隷商でしかできないだけだから。ねっ、売らないから、絶対に手放さないと誓うから泣かないで!ねっ!ダンジョンに一緒に入ってもらえたらなあって」


 そのように宥めようと・・・しちゃった。

 うるうるされ、周りの目も気になるのでぎゅっと抱きしめ落ち着くのを待った。


「ご主人様、失礼しました。もう大丈夫ですから」


 奴隷商に着くと、僕たちを見た奴隷商さんの顔には驚きの表情が浮かんでいた。特に僕が昨日購入した889号以外の美人奴隷であるアリアを連れて来たことに目をしばたかせていた。


「か、か、彼女はあのアリア嬢ではありませんか!何故身請けができたのですか!」


「うん。色々あって身請けしちゃいました!」 


 ハァと唸りつつ、今連れてまいりますと奥に下がり889号を連れてきた。

 奴隷商に連れて来られた889号は、僕の腕を必死に掴むアリアを見て、自分が不興を買った為に手放なされるのだと勘違いし、自分は変態に売られて堕ちていく運命にあるのだと思い込み、取り乱し始めた。


 彼女もアリアと同じく僕にすがりついてきた。


「アタシを売らないでください!昨日の態度は謝りますから!奉仕でも何でも喜んでやりますから、どうか堪忍してください!慰み者なんて嫌!」


 アリア同様に慌てて訴えて来たけど、もちろん彼女を売るつもりは決してない。


 そんな彼女に僕はアリアと同じように話した。


「勘違いしているよ!売らないから!手放さないって誓うよ!だから泣かないで!」


 僕は泣きじゃくる彼女の背中をぽんぽんと叩いたりさすった。

 そうしていると、軽く手を振りながらゾーイさんは去っていった。


 これからどう接するか、ちゃんと話したいけど、色々秘密にしたいことも有り、まだ話ができず不安な思いをさせていたり、勘違いをさせているのは分かるけど今はどうしようもない。


 2人とも僕が買ったんだと、手放すつもりはないと伝えたことにより安心させたよね?


 僕の計画は2人を連れ、ダンジョンを攻略すること。

 そして奴隷から解放することなんだ。


 前日奴隷商からこう告げられていた。


「犯罪奴隷と貴族及びその子女の期間内での奴隷解放も禁じられています」


 そういう衝撃的な情報を得ていた。

 これは奴隷制度がどれほど深く社会に根ざしているかを示しており、アリアや他の奴隷たちを解放する道のりが容易ではないことを意味していた。しかし、僕はアリアと889号に対する約束を守るため、そして彼女たちに真の自由を与えるために、どんな障害にも立ち向かう覚悟を決めていた。彼女たちの未来は、もはや暗闇に閉ざされたものではなく、共に歩む新たな道へと続いているのだ。

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