第28話 身請け

 僕は約束の時間ギリギリになり奴隷商を訪れてお金を払い、無事に彼女の所有権を得たところだ。そして今、奴隷商と889号と呼ばれる少女が応接室の外で話をしている。


 少しして、奴隷商が戻ってきた。


「お待たせいたしました。889号は自分の置かれた立場を理解しておりませんので、どれほど幸運なことか話しておきます」


「彼女はなぜ奴隷になったのですか?僕としては、彼女を解放しても構わないのですが…」


「バンスロット様は根本的なことを理解しておりませぬな。良いですかな、彼女は殺人の罪で奴隷になっており、最低刑期は4年でございます。この間、国からの恩赦以外で解放はできませぬ」


「889号さんは何をやったんですか?」


「義父殺しです。手篭めにされかけ、抵抗して無我夢中で掴んだもので殴ったそうです。半裸にされてあたのも有りこれだけなら正当防衛となったのですが、死んでからも殴り続け、止めに入った義母を返り討ちにしましてな、情状酌量も過剰だとなり、有期刑となった彼女を我が商会が買い取ったのです」


 僕が驚きから口をポカンと開けていると、奴隷商は話を続けた。


「平民の経済奴隷でしたら解放可能ですが、残念ながら犯罪奴隷は刑期を終えるまで解放することを禁じられております。ただし、刑期を短くする方法はございます」


「それを早く言ってくださいよ!」


「そうですな。ダンジョン攻略に対する褒美として国からの恩赦がございます。一つはダンジョン討伐。実際に冒険者パーティー員として魔物の討伐を行っている実績が必要でございます。ダンジョン一つの攻略につき一年の減刑でございます。もう一つは古のダンジョンで最到達階層の更新。こちらは二年の減刑でございます。また、ダンジョンに定期的に入ると宣言し、一定以上の魔物の討伐義務を負いますが、その間は性的奉仕を免れます。もし主人等が手を出した場合、手を出した者は身分に関係なく奴隷落ちとなり、彼女は即解放となりますのでご注意くだされ」


「でも、彼女は危険なダンジョンに入ることを選ぶでしょうか?」


「するでしょうな。元々犯されそうになったこともあり、男嫌いと言うか男に対して恐怖を少し抱いております。ただし、主人と共にダンジョンに入ることを強いられ、ダンジョン内で主人が死ねば刑期は無期となります」


「リスクが高いじゃないですか!」


「これは過去に主人を助けるどころか、見殺しにした者がございまして、それを防ぐためでございます。首輪や奴隷紋により危害を加えることは叶いませんが、命令がなければ助けることはないからです。しかし、主人が死ぬとかなりのペナルティーが待っていれば話は別です」


「彼女にダンジョン攻略を手伝って欲しい、体目当てで買ったんじゃないとその旨を話してもらえますか?」


 確かに一理あるなと思い、奴隷商に頼んだ。他にも奴隷の引き渡し前にある程度の教育を施すことを提案してきた。僕たちの会話を耳にして、このままでは僕が扱いきれないと判断したらしい。


 奴隷商の提案には感謝したものの、僕の心は複雑だった。彼女がこれ以上苦しむことなく、新しい生活を始められるよう、できる限りのことをしたいと思っていたからだ。


 今は受け入れる時間が必要なので、お金を渡してまともな服と普通の食事をお願いし、明日彼女を引き取ることにした。奴隷商は「私も甘いですなぁ」とぼやきつつ、僕のことをちゃんと伝えてくれると約束してくれた。


 その後、僕はギルドに戻り、無事に奴隷を買い取ることができたことを報告した。皆は僕の報告を喜び、残りのお金を受け取った。色々考えさせられたけど、この日は大人しく寝た。


 翌日、僕は服と言うかローブと簡単な服を買って宿に置き、その後ゾーイさんと昼過ぎに娼館を訪れた。


 今回は女将がいた。彼女に身請けの話を持ちかけると、当初は渋る様子だった。しかし、ゾーイさんが独自の交渉術で話を進めた。あれを交渉と言うのなら。


「なあおばさんよ。あんたの体重を110kgから50kgにまで減らしたいと思わないか?」


 どうして体重が分かるのか謎だけど、確かにそれくらいはありそうな貫禄があった。喧嘩を売っているとしか思えないが、近くにいた遊女の女性を指差しながら告げた。


「こんなふうに細くしてやる。だから、あの子の身請けをさせろ」


 交渉とは言えないような交渉が始まった。


 女将とゾーイさんの間で言葉が交わされ、女将は安い挑発を受け入れた。


「できるものならやってみな!成功したら、その子の身請けをさせてあげる。だが、失敗したら身請け金だけ置いて帰るんだよ」


 僕は契約書を作り、その中に体重操作時、必要なことに応じなければ成功したことにする内容を入れた。もちろん60kg分の対価として300万Gを頂く契約だ。


 お互いサインをし、僕は女将の体重を110kgから50kgに減らすという難しいミッションに立ち向かった。


 体重測定をした後、手を握り体重操作を行った。周りの驚いた顔をよそに、無理だとどや顔の女将をスリムにするミッションに挑戦した結果、肥え太っていた体から服がずり落ちた。色気の無い下着姿を晒すも、ほっそりとした中年の美女がいた。


「驚いたよ!かつての美しさを取り戻せたなんて!アンタ凄いねぇ!惜しいがこの子はアンタに譲るよ」


 契約に基づいて、泣いていたあの子を無事に身請けすることができた。


 なぜ逃げられなかったのか謎だったけど、奴隷だから逃げ出せなかったことが分かったんだ。。正式な身請けの証文を貰い、彼女を連れて奴隷商に行くことにした。こんなところは一刻も早く出たほうが良い。


 彼女は白装束を着ていたが、女将からホラよと、これを着せたら色街を出られるからと、彼女のアリアという源氏名が刺繍された上着を投げられた。事態が飲み込めず、キョトンとしていた。


「おら、何やってんだ。この坊やがお前を身請けしたんだよ。精々捨てられないようにご奉仕することさね。それを着ていたらここを出られるから、2度と戻ってくるんじゃないよ!」


 そう言うと、女将は涙を拭いながら奥に入っていった。嬉し涙なのか、それともこの子の境遇に泣いてくれたのかはわからない。


 僕は身請けした彼女を見て、心から安堵した。彼女がこれから直面するであろう多くの困難に、僕が寄り添い、支えていくことを心に誓った。


 清楚な見た目で穢れを知らぬ乙女が、穢されたことにより絶望に涙する前に助けられたんだ!と僕は自己陶酔し、達成感に浸っていた。

 彼女の過去の傷を癒やし、彼女が真の自由と幸せを手に入れられるよう、全力を尽くすと決意した。僕たちの旅はこれからが本当の始まりだ。彼女が自分自身を取り戻し、新しい人生を歩み始めるための支援を惜しまずに行う。それが僕にできる、最も意味のあることだと確信している。


 人はそれを自己満足の偽善だというが構わない!

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