第18話 絡まれる

 僕が手にしていたのは、ダンジョンの主やボスを倒したときに得られた魔核を入れた背嚢とドロップアイテム。

 普通の冒険者が夢にも思わないような巨大で特別な力を秘めた、かなり価値のある武器と防具だった。


 これらは僕が1人で倒したボスと思われる魔物と、ダンジョンの主と思われる魔物から手に入れた物だ。


 その中には高価な魔核が含まれている。この魔核は通常、市場に出回ることがないほどの価値を持ち、冒険者たちが一生かけても手に入れられないかもしれない貴重な品だった。

 とは言え価格は一般家庭の年収程度だが、この1年多くの者が挑み、その価値とリスクが釣り合わないと諦められていたダンジョン。


 しかし、1年経過するとガラッと事情が代わる。ギルドの報酬が倍になるダンジョンフェスティバルともダンジョンフィーバーとも言われる一種のお祭りが始まる。

 5日後に始まるフィーバーに向け、一攫千金を狙うガチ勢と、その時にしか無いお祭りを楽しむエンジョイ勢が集まり始めていた。

 

 主が討伐された時にダンジョン内にいた者は、強制的に地上に戻される。だから地上にいた者はともかく、ダンジョンにいた者は誰かが主を破ったのだと分かる。


 地上にいた者はひょっとすると目の前に突如人が現れた、転移魔法か?と思う者もいる。


 僕が手にしているのは体格に不釣り合いな武器と防具。

 明らかにおかしな格好だ。


 これらを手にしている者が犯人だとバレバレだ。瞬く間にこいつだと広がり、周囲の緊張が急速に増し始めた。


 そんな不穏な空気の中、僕の前に現れたのは、粗野で礼儀を知らない冒険者の1団だった。彼らは自信満々に僕にどなってきた。


「それは俺たちが手に入れるべきだった魔核だ。すぐに寄越せ!さもなくば分かるよな?俺たちの獲物を横取りしやがって!」


 理不尽な要求をして来たが、僕は冷静に応対した。

 

「これらの魔核を手に入れたのは僕が主の討伐を成し遂げたからです。周りに誰もいない隠し部屋を発見し、そこで討伐しました。貴方達に魔核を渡す理由は有りません。そもそも何階層にいたのですか?」


 ちゃんと説明したにも関わらず、彼らは聞く耳を持たず剣を構えて僕に襲いかかろうとした。


「にぃちゃんよおぉ!痛い目に合いたくなけりゃあぁ、そいつを置いて行けや!俺等は5級だぜ!勝てると思うのか?ああん?」


 彼らが僕に詰め寄ってきて、さてどう切り抜けようかと必死に頭を巡らせていると突然、華麗な装飾が施された装備を身にまとった1団が現れた。


 彼女たちが現れると、その場にいた者たちは一歩引き、まるで道があるかのように離れていく。


 その場の雰囲気は一気に変わった。彼女らは落ち着いた態度で警告を発した。


「見苦しいぞ!」


 先頭の女性の斜め後ろを歩いていた魔道士風の男性が発したその言葉は、冷や汗が出るほど感情も抑揚もないにも関わらず、ヤバいと思うほどの殺気がこもっていた。


 そして先頭の女性が1言、言葉を投げかけた。


「正当な戦いで手に入れた物を奪う権利は誰にもない。これはこの少年が得た物。これ以上話があるのならば私が相手をしよう」


 そう言って僕と絡んで来た冒険者の間に割って入り、僕を守ってくれた。


 更にこの女性は魔核を奪おうとする冒険者たちに向かって立ちはだかり、剣を抜くと切っ先をリーダー格の男の目の前に突き付け、彼らを威嚇した。


 彼女たちのオーラ?自信満々な態度により、絡んできた冒険者たちは恐怖で逃げ出した。


 そして後から来た人が僕に手を差し伸べ、立たせてくれた。


「坊主、怪我はないか?」


「あっ、はい。大丈夫です。その、やらかしたので途方に暮れていただけです」


「やらかし?主を倒したのにかい?」

 

「本当はフィーバーが始まってから倒さなければならなかったんです」


 後ろに控えている男の人が不思議そうに聞いてきたが、リーダーの女の人が少しこわばった表情をして聞いてきた。


「少年、余計な世話だったか?」


「いえ。どうやって切り抜けようかと頭が痛かったので助かりました。どなたか存じませんが、ありがとうございます」


「おいおい、ちったぁ俺たちも有名になったと思っていたが、俺たちのことを知らないだぁ・・・うぐっ!」


 あっ肘鉄を食らった!

 周りの人の反応や、装備から有名なのかなと、かなりの実力者なのだとは分かるも、この人たちとは面識はなかった。


「少年、人目を引き過ぎている。もうここに用がないのなら、町で詳しく話を聞きたいと思うのだがどうだろうか?」


「あっはい。もう絡まれたくないので宜しくお願いします」


「うむ。では共に町に行くとしようか。ライザック、撤収するぞ」


「おーい、みんな!あねさんが撤収だってよ」


「もう帰るのかよ!」


 文句を言う人もいたけど、直ぐに集まりだした。女騎士?さんは「いつめあねさんっむた言うなと言っているだろう!」などとぼやいていたな。


 僕を助けてくれた一団は、僕の話をじっくり聞きたいと言ってくれた。僕が絡まれたことを含め、事態を正しくギルドに報告することを提案してきて、僕もその提案に賛同した。


 謎のパーティーと共に町へ戻る道中、僕は新たに知己を得たこの出会いに感謝した。

 癖が強そうな人ばかりだけど、あねさんと言われている女騎士のようなこの女性が掌握していて、皆信頼しているようだった。


 お仲間さんはともかく、女性の立ち居振る舞いや言質から、人格者、それもかなりの猛者だと僕の直感が告げた。


 自己紹介などは後からしようと、先ずはこの場を離れることにしたのだった。

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