第7話 8級とダンジョンについて(解説あり)

 次の日、朝早くからギルドに行くと、掲示板に張り出されているランク9推奨の中に目に付いた依頼があった。


 内容はこうだ。


 依頼者 近隣の村の村長

 背景・作物が複数の魔物に荒らされている。

 依頼内容・それらに対する調査及び可能なら対処(駆除)

 達成報酬 

 原因確認・10000g

 原因排除・20000g

 推奨ランク・9


 9級推奨依頼だけど、10級とは明らかに報酬額が違う。

 もっともパーティーで受ける前提だから、1人頭の費用は下手をしたら10級より低い。

 しかし、ソロだと別なんだ。独り占めだから、単純に金額だけ見たら9級の2倍から3倍かな。

 どんな依頼を受けるのも自由だけど、3回連続で依頼を失敗すると降格だから、受ける依頼は慎重に選ばないとなんだ。


 9級辺りでxxとなった人は、下水掃除などの依頼を受けて、xを消すこともあるのだとか。

 時折どう見ても逞しいお兄さんが受けるのを見るのは、そういうことなんだろう。


 因みに依頼の推奨ランクはパーティーでの話で、ソロだと少なくともワンランク難易度が上がる。


 依頼の村まで歩いて1時間半。

 依頼書にあった現場付近に到着すると、ほどなくして犯人がホーンラビットだと分かった。

 分かりやすかったんだ。

 僕が1人だから?たまたま巣穴から出て、畑を荒そうと畑に入ろうとしているホーンラビットと遭遇したんだ。


 出会い頭に近い出来事かな。


 3体が現れたけど、突然のことで僕は一瞬固まるもショートソードを構えた。

 一列になりこちらに向かって来るが、その愛くるしい顔が、恐ろしい形相に変わってこちらに駆けてくる。


 先頭の1番大きい奴がジャンプした。

 残り2匹はどこ行った?

 と一瞬思うも、跳んだホーンラビットはそのままの勢いで来るだけなので、【見切り】がなくても良く見える。


「甘い!」


 そう叫ぶと剣を一閃した。

 すると首の横から刃が入り、首を落とした。

 しかし、跳んだ状態の2匹目が迫っており、返す剣で胴を凪ぐ。見えなかったのは先頭のホーンラビットの後ろを跳んでいたからにすぎなかった。ジェットストリームアタックと同じ理由で見えなかったのだ。

 胴を半ば切断し、剣を振り切ったところで、剣からホーンラビットは離れて木に叩き付けられる。


 グサッ!

 左腕に鋭い痛みが走った。

 剣を振ったときに体幹が崩れたのが幸いし、丁度左腕がホーンラビットの方に向いていたんだ。

 そうならなかったら最悪の場合心臓を破壊されていたはずだ。

 僕は痛みに顔を歪めながらも、ナイフを懐から取り出すと脳天に突き入れた。


 経験の無さが響いた。

 習性として跳んで来ることや、角で突き刺してくるのだと分かってはいたんだ。でも、実際は確かに1匹目は冷静に対処し、驚きつつ2匹目もサクッと倒した。

 でも、3匹目はまともに対処できなかった。いや、刺されてから初めて、3匹が同時にジャンプしたのだと理解した。

 致命傷を負わなかったのはただの偶然だと思う。そう、運が良かっただけだ。


 腕に刺さったホーンラビットを抜くと、一気に痛みが襲ってきた。


「うぐっ!」


 つい唸るも、もしも叫んでしまうと、まだ周りに仲間や他の魔物がいたら、それらを呼び寄せてしまう。

 確かホーンラビットは群れで行動する。

 だから3匹が一緒にいたし、連携して攻撃してきたんだと思う。


 3体を駆除するも、初見では見切れずに腕を刺されてしまったと一言で言えば終わるけど、僕の心臓は早鐘を打っていて、傷口からは血がドピュー、ドピューと吹き出している。

 このままだと2分もすれば失血から倒れ、やがて死に至る。

 急ぎ腰のポーチから、唯一持っている回復薬を取り出し、傷口に貼りつけた。

 すると込められている力が働き、傷口が塞がっていく。

 1分程で血は止まり、命の危機は脱した。

 まだ痛いけど、血の匂いから他の魔物が来てしまい兼ねないので、早目にこの場を離れなければだ。


 ホーンラビットを背嚢に詰めて、この先の村に持って行く。


 2匹は血抜きがされた状態となり、重量は3割ほど軽くなり、何とか担いで歩くことができた。


 村の方に話をすると村長さんが現れ、常に3匹の足跡が見付かっていることから、僕が倒したホーンラビットで間違いないとなった。


 村人たちは角と魔核以外を買い取りたいと言ってきた。

 財政事情があまりよろしくないようで、1体につき3000gでの買取を申し入れて来た。 

 僕はそれを受け入れ、売ることにしたんだ。村の方からしたら貴重な淡白源だろう。


 ギルドではもっと高く売れると思うけど、1匹につき10~15kgにもなるホーンラビット3匹、それを背負って1時間半も歩くリスクを考えると、村で売るのが賢明だった。


 ギルドに戻ると、またもやアイシアさんに怒られた。

 僕の腕に残る血の跡を見て心配してくれたんだ。服の方は返り血だと分かったようなんだけど、怪我を心配してくれた。


「バンスロット君!君はまた無茶をしたのね。本当にいつもいつも心配をかけるのね!どうせホーンラビットの対処を間違ったんでしょ?群れで動くんだから、1人だと踏みとどまって戦うのは駄目よ!毎年それで何人も若い子が死んでるのよ!」


 アイシアさんはため息をつきながら言った。


「アイシアさん、ごめんなさい。でも大丈夫だよ。言われた通り、ちゃんと備えとして回復薬を持っていたから、治すことができたんだよ!!」


 僕は笑って見せた。

 アイシアさんは心配性だけど、それが彼女の優しさなんだと思う。いつかそんな優しい彼女が出来たらな!なんてふと思った。


 ・

 ・

 ・


 ゴブリンを倒してからのち2ヶ月間、僕は討伐依頼をこなし続け、以前よりもずっと稼ぎが良くなった。

 成長期だからか、食欲も増して、たくさん食べられるようになったんだ。

 ギフトが判明したときのように無理やり、それも吐きそうになるのを我慢してではなく、ちゃんと食欲がある。


「身長で抜かされたわね!君も男の子になったのね」


アイシアさんにはこんな感じにからかわれる。

 少し肉付きが良く成りマッチョになってきた?それも嬉しい悩みだと思う。


 宿のおばちゃんには食べ過ぎで太らないか心配されているけれど、体重操作のギフトで余分な体重はポイントに変えられるから大丈夫!

 下水掃除の仕事も欠かさず受けていて、変わった奴と言われても気にしない。

 それが僕の生きる道だから。


 アイシアさんは守秘義務があるからか、僕の秘密を誰にも話さないでいてくれた。

 そして、あれから3ヶ月が経ち、僕はついに8級冒険者になった。

 それはダンジョンに入る資格を得たことを意味する! 注)


 これにより新たな冒険が始まる。これからが本当の試練なんだ。

 僕はこの道を、つまり冒険者として進む覚悟を決めた。



 注)ダンジョンについての解説

 この世界は魔力溜まりが出来ると魔核が生成され、通常は魔物が生まれる。

 場所により生まれる魔物の種類は決まっているが、時折上位種や特殊な能力持ち、つまりイレギュラーが現れる。


 更に希にイレギュラーが主となり小規模なダンジョンを生成することがあり、そこから魔物が涌き出てくる。


 それにより人々の驚異となる魔物が跋扈する。


 時間と共にその主は成長し、主が成長するとダンジョンも成長する。

 主を倒すとダンジョンは消え、魔核とは違うコアが残され、それがダンジョン討伐証明となり、出来立てでも金貨200枚はする。


 出来立てでもランク7推奨以上となる。

 ダンジョンの中は魔物が多く生息し、ダンジョンの中では魔物の性質が変わる。


 ダンジョンの外に出ると受肉して、死ぬと肉体を残す。

 だが、ダンジョンの中で魔物が死ぬと、霧散して魔核と何かしらのアイテムをドロップする。

 単に稼ぐだけの為にダンジョンに入る者もいる。

 魔核は町を覆う結界に欠かせないし、照明や調理器具、色々な魔道具の動力源として使われるので、魔核の需要は高い。

 古のダンジョンに定期的に入れば、贅沢をしなければ家族を養う程の収入を得られる。


 古いダンジョンはもはや攻略は諦められており、外に魔物が出ないように冒険者が中に入って魔物を間引くことでバランスを取っている。


 それにより、新たに発生、又は発見されたダンジョンの攻略が必須とされ、冒険者は一攫千金を狙いダンジョンを目指す。


 ただ、ダンジョンを好まない者もおり、その者たちは護衛依頼であったり、町や村からの討伐依頼にて【フィールド】生計を立てている。

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