第11話

それから約23日の間、公章きみあき日高支所しょくば山尾家かていの間を往復するだけの日々を過ごした。


朝、決まった時間に公章きみあきはお迎えに来た車で日高の支所ヘ行く…


ゆかりも一緒に車に乗って職場ヘ行くようになった…


公章きみあきとゆかりの職場が同じ方向にあるので、一台の車に乗り合わせて一緒に通勤すれば楽しくなる…とみちよは思ったので支所の人にお迎えを頼んだ。


けれど、ゆかりと公章きみあきはひとことも会話をかわさなかった。


ゆうべ見たテレビ番組のことでもいいから会話をしたらとみちよはふたりに言うたが、ふたりともコミュニケーションを取るのが大の苦手だからできるわけがない…


公章きみあきは『お嫁さんがほしい…』と言うているけど、ゆかりは『オムコさんいらない!!』と言うて拒否している…


みちよは、ゆかりと公章きみあきの相性が非常に悪いと言うことが全く分からないからなお悪い!!


それともう一つ、雅俊まさとし宏美ひろみがこの最近勝手気ままをするようになったことが問題になった。


『今は忙しいの…』

『残業で遅くなります…』

『□▽のせいで残業になった…』

『今、遠方にいるから帰れません…』

『キシャが止まった…』


…………


雅俊まさとし宏美ひろみは、テキトーな言葉を並べて作った理由を山尾家やまおのいえに伝えていた。


みちよと明は、心底では『ほんとうなのか?』と思って心配しているけど『ゆかりさんと一徳かずのりくんのことは大丈夫よ〜』と言うて答えるしかなかった。


ほんとうにそれでいいのかとうたがいたくもなる…


話は戻って…


6月30日の夕方6時頃であった。


山尾家いえの広間に置かれているテーブルに理恵りえが作った晩ごはんが並んでいた。


家には、みちよと明と私と理恵りえがいた。


この時、公章きみあきとゆかりが帰宅した。


公章きみあきは、ものすごく怒った声で理恵りえを怒鳴りつけた。


「オドレドロボー!!」

公章きみあきさん、どうしたのよ急に〜」

「よくも給料テドリを盗んだな!!」

「ちょっと待ってよ〜」

「テドリ8万5000円を返せ!!」

「落ち着いてよ〜」

「ふざけるな!!」


さわぎを聞いたみちよは、あわてた様子で公章きみあきを止めたあと『落ち着いてよ〜』と言うた。


公章きみあきさん、落ち着いてよ〜」

「おちついていられません!!」

公章きみあきさんのテドリ分については全額チョチクに回したのよ~」

「チョチクはどこにあるのだ!?」

「だから、おばちゃんが支所の人に頼んでチョチク口座を新しく作ったのよ…」

「困りますよ!!」

「だから、公章きみあきさんが必要なお金があったら言えばいいのよ…」


みちよは、なっとくが行くまで公章きみあきを説得した。


公章きみあきが『おばさまがヤクソクを守るのであれば…』と言うたのでもめ事はおさまった。


理恵りえは、カドにやさしい声で公章きみあきに言うた。


公章きみあきさん、お腹がすいてるよね…ごはんを食べようね…きょうは、公章きみあきさんの大好物をたくさん作ったのよ…一緒に食べよう…」


理恵りえは、やさしい表情で公章きみあきを席に案内した。


理恵りえは、席についた公章きみあきに対してやさしい声で言うた、


「きょうは、公章きみあきさんの大好きなスブタよ…豚肉おにくのかたまりをいつもより多く入れたわよ…あとね…これ、料理番組で覚えた料理よ…今からごはんとみそ汁をつぐわね。」


理恵りえは、炊飯器のフタをあけたあと5つのお茶わんに白いごはんをついだ。


(ジリリリリン!!)


理恵りえがみそ汁をつごうとした時に、黒いダイヤル式の電話機のベルが鳴り響いた。


私は、理恵りえに対して『みそ汁〜』と言うた。


理恵りえは、やさしい声で『ごめんね…』と言うたあと電話に出た。


「もしもし山尾やまおでございます…どちらさまでしょうか?…ああ、下朝倉あさくら阿木あぎの奥さまでございますね…」


電話は、公章きみあきが勤務している支所しょくばの元支所長・阿木康照あぎやすあきの妻・冨美子ふみこからかかってきた。


理恵りえは、受話器ごしにいる冨美子ふみこ公章きみあきのことを伝えた。


公章きみあきさんは、きちんとごはんを食べてますよ…残さずに全部食べていますよ…きちんとすいみんを取ってますよ…大丈夫ですよ…もしもし、聞こえてますか?」


受話器ごしにいる冨美子ふみこは、ものすごく怒った声で理恵りえに言うた。


「もしもし、あなたはどこのどなたなのですか!?…山尾やまおの親類の小娘むすめには用はないわよ!!…うちは、山尾やまおの奥さまに不満があるから電話をかけたのよ!!山尾やまおの奥さまを今すぐに出しなさい!!」


理恵りえは、ものすごく困った声で言うた。


「すみません…今うちは、晩ごはんを食べようとしているのですよ…7時から一徳かずのりくんが見たいアニメが始まるのですよ…」


冨美子ふみこは、怒った声で理恵りえに言うた。


「そんなものはあとにしてください!!…なにが見たいアニメがあるよ!!アニメなんかやめなさい!!」

「奥さま!!うちに言いがかりをつけるのですね!!奥さまをテイソするわよ!!」

理恵りえさん代わって…」


みちよは、受話器を理恵りえから受け取ったあと困った声で言うた。


「もしもし奥さま…すみませんけど日をあらためてかけ直してください…公章きみあきさんは一人で生きていくことができないのでうちに住まわせています…奥さま、そんなことよりもおたくの娘さんの結婚問題を解決することがサイユウセンですよ…アニメなんかやめなさいと言うたのであれば、ひとり息子のカイジュウオタクをやめさせなさいよ…ご主人さまのジャンソー通いをやめさせなさいよ…すみませんけれど、これ以上文句を言われるスジアイはございません…山尾うちのやり方にケチをつけるのであれば、あなた方の家をテイソしますよ…テイソされたら困るのであればごはん時にくだらない電話をしないでください!!」


(ガシャーン!!)


みちよは、冨美子ふみこに対してボロクソに言うたあと電話をガシャーンと切った。


(バーン!!)


思い切りブチ切れた公章きみあきは、平手打ちでテーブルを叩いたあと席から立ち上がった。


理恵りえは、困った声で公章きみあきに言うた。


公章きみあきさん!!どこへ行くのよ!?」

「外へのみに行きます…」

公章きみあきさん!!」

山尾ここにいたらムシャクシャするんだよ!!」

「待ってよ!!」

「止めるな!!」

公章きみあきさん!!」

「なんや!!」

「お嫁さんがほしいのであったらうちでごはんを食べてよ!!」

「オレは結婚なんかしたくないのだよ!!」

「どうしてそんなことを言うのよ!?」

「ふざけるな!!オレは結婚したいとは言うてないのになんで勝手なことをした!?」

「アタシたちは、おばさまの親類の家の人たちから公章きみあきさんを頼むと言われたのよ!!」

「ふざけるな!!」


(パチーン!!)


思い切りブチ切れた公章きみあきは、平手打ちで理恵りえの顔をたたいたあとものすごく恐ろしい声で言うた。


「外へのみに行く!!結婚と言う言葉を聞くだけでもイライラするのだよ!!」


公章きみあきは、はき捨てる言葉を言うたあと家から飛び出した。


公章きみあきに平手打ちで顔をたたかれた理恵りえは、左のほほに受けた痛みをかばいながら立ち上がった。


(ジリリリリン!!)


この時であった。


また黒のダイヤル式の電話機のベルが鳴り響いた。


理恵りえは、めんどくさい表情で受話器をあげたあと電話に出た。


「はい山尾やまおです…宏美ひろみさん…どこにいるのよ?」


電話は、宏美ひろみからであった。


宏美ひろみは、遠方にあるどこかのラブホから電話をかけていた。


ところ変わって、ラブホの部屋にて…


理恵りえは、バスタオル1枚を身体に巻き付けた状態でベッドに横たわった状態で電話をかけていた。


部屋のオーディオのスピーカーからショッキングブルー(オランダ出身のロックバンド)の歌で『ヴィーナス』が流れていた。


宏美ひろみは、クソナマイキな声で言うた。


「もしもし、悪いけど今夜もまたゆかりと一徳かずのりをお願いします…どこにいるって…県外けんがいにいるのよ…どこの県でもいいでしょ…だから…職場のポンコツくんが仕事で大失敗したから取引先にあやまりに行ったのよ…仕事は終わったけど、ポンコツくんがぐでんぐでんになるまで酒をのんだから気分が悪くなったのよ…足がふらついて帰れないと言うたのよ…親御おやに怒られるのがこわいと言うたのよ…だから、あすの朝には帰るわよ…いいでしょ…お願いします…」


宏美ひろみは、受話器を置いたあと大きくため息をついた。


同時に、理恵りえも受話器を置いたあとため息をついた。


この時、ゆかりと私が席を立ったあと食卓から出ようとした。


みちよは、困った声でゆかりに言うた。


「ゆかりさん、一徳かずのりくんを連れてどこへ行くのよ?」


ゆかりは、ものすごく困った声でみちよに言うた。


「あの…うちに帰ります。」

「ねえ、大丈夫?」

「アタシが一徳かずのりのそばにいるから大丈夫です。」

「ちょっと待ってよ…」


みちよは、キッチンに行ったあと白のプラスティックのおべんとう箱を取り出した。


その後、ゆかりと私が食べる分のスブタをおべんとう箱に入れた。


みちよは、おべんとう箱をゆかりに渡したあと困った声で言うた。


「せめて栄養だけは摂ってね。」

「すみません…ありがとうございました。」


このあと、私はゆかりと一緒に家を出た。


それから30分後であった。


私は、ゆかりと一緒に吹揚公園こうえんのベンチに座っていた。


おべんとう箱をあけてスブタを食べようとしたが、食べるのをやめた。


ゆかりは、近くにいたノライヌにスブタを落とした。


その後、私はゆかりと一緒に借家いえに帰った。


ノライヌは、地面に散らばったスブタをムシャムシャと食べた。


この日、雅俊まさとしも残業を理由に帰宅しなかった。


家族間の関係は、ハタン寸前におちいったようだ。




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