第10話

時は、6月7日(日曜日)の午前10時過ぎであった。


この日、山尾やまおの家でもめ事が発生した。


賢也けんやがボストンバッグを持って家出をしようとした。


理恵りえは、必死になって賢也けんやを説得した。


「オイ!!どけと言うているのが聞こえないのか!?」

賢也けんやさん待ってください!!どちらに行かれるのですか!?」

「中学の時のセンパイのうちに行くのだよ!!」

賢也けんやさん!!」

「この家がうざいから出ていくのだよ!!」

「それだったら、おとーさまとおかーさまと話し合って決めたほうがいいですよ!!」

「ふざけるな!!話し合いをしても一方的に拒否するからだめだ!!」

賢也けんやさん!!おとーさまとおかーさまは話せば分かる人なのよ!!」

「どけ!!」


(ドカッ!!)


思い切りブチ切れた賢也けんやは、両手で理恵りえを突き飛ばした。


その後、賢也けんやは家出を強行した。


賢也けんやさん!!賢也けんやさん!!」


賢也けんやに突き飛ばされた理恵りえは、外へ出たあと賢也けんやを追いかけた。


賢也けんやは、よその家の若い男性がこの家で暮らし始めることに対してよりし烈な不満を抱えていた。


若い男性は、言うまでもなく公章きみあきであった。


公章きみあきが生後間もない頃であった1945年8月初旬に、当時暮らしていたエストル(サハリン)の家に置き去りにされた。


公章きみあき親御おやきょうだいたちは、ナイロへ向かう途中の道で集団自決をはかった。


赤ちゃんだった公章きみあきは、みちよの家の親族たちによって保護されたあとどうにかホンドへ帰ることができた。


みちよの親族たちは『公章きみあきをなんとかしてあげたいので頼む…』とみちよに頼んだ。


みちよは、親族たちからのたのみを引き受ける形で山尾家このいえ公章きみあきを受け入れることを決めた。


賢也けんやは、公章きみあきがこの家で暮らすことが気に入らないので怒って家出した…と言うことであった。


それから30分後であった。


家の前に農協おちいまのロゴ入りの白の日産ブルーバードのライトバンが停車した。


車の中からカバンひとつを持っている公章きみあきとみちよが降りた。


公章きみあきは、ものすごくつらい表情を浮かべていた。


みちよは、満面の笑みを浮かべていた。


この時、理恵りえがものすごく困った表情でみちよに言うた。


「おばさま!!」

理恵りえさん、どうしたのよ?」

賢也けんやさんが怒って家出しました!!」


みちよは、のんきな声で言うた。


「大丈夫よ~…晩ごはんの時間になったら返ってくるわよ…それよりも、公章きみあきさんを部屋に案内してね。」


公章きみあきは、ものすごくつらそうな表情で『ここはどこですか?』と言うた。


理恵りえは、カドにやさしい声で公章きみあきに言うた。


「ここは、公章きみあきさんのおうちよ。」


公章きみあきは、ものすごく困った表情で言うた。


「お願いですから、片山のアパートに返してください!!」

「アパートはカイヤクしたのよ~」

「なんで勝手なことをしたのですか!?」

公章きみあきさんがお嫁さんほしいと言うたからカイヤクしたのよ〜」

「言うている意味が分かりません!!」

「だから、チョチクを作るためにここで暮らすのよ〜」

「ぼくは毎月1万円ずつチョチクを作っているのですよ!!」

「だから、アパートをカイヤクしたらチョチクが倍に増えるのよ…公共料金などを全部カイヤクした分とあわせたら手取りの大部分がチョチクに回るのよ…」

「食事とふろはどうするのですか!?」

「だから、ごはんを食べるのもお風呂に入るのもここでするのよ…テレビもうちのテレビを見たらいいのよ〜」

「お願いですからハイリョしてください!!」

「してるわよ〜…公章きみあきさん、お部屋の用意ができているから一緒に行きましょ…」


理恵りえは、みちよと一緒に公章きみあきの腕をゴーインにひっぱる形で家に入れたあと部屋に案内した。


またところ変わって、本町角の交差点にある大洋デパートの屋上にて…


小4の私は、ゆかりと一緒にベンチに座っていた。


屋上のミニ遊園地には、家族連れたちと若いカップルさんたちがいた。


家族連れたちと若いカップルさんたちは、楽しいひとときを過ごしていた。


しかし、ゆかりと私はつかれた表情を浮かべていた。


私は、ゆかりに声をかけた。


義姉おねえちゃん。」

「どうしたの?」

「なんでおとーさんとおかーさんは仲が悪いの?」

一徳かずのり。」

「ねえどうして?」


ゆかりは、ものすごくつらい声で答えを言うた。


「おとーさんとおかーさんが不仲である原因は山のようにあるわよ。」

「山のようにある?」

「おとーさんとおかーさんは、数え切れない量のもめ事を起こしていたのよ…とくにおとーさんの場合は…ゼンカがあるのよ…」

「ゼンカがあるって?」

「そうよ…ケームショで暮らしていた時があったのよ。」

「ケームショで暮らしていたって?」

「本当よ。」

「どうして?」

「ごめんね…それ以上のことは話せないの…」


ゆかりは、つらい声で言うたあと口をつぐんだ。


私は、ものすごくつらい表情でゆかりを見つめながらつぶやいた。


おとーさんはなんでケームショで暮らしていたの?


おかーさんは、どんなもめ事を抱えていたの?


おねーちゃん…


教えてよ…


時は、夕方6時過ぎであった。


ところ変わって、家の広間にて…


広間のテーブルに、みちよ明夫婦と私とゆかりと公章きみあき理恵りえの6人が集まっていた。


テーブルには、理恵りえが作って晩ごはんが並んでいた。


公章きみあきは、ものすごく困った表情でみちよに言うた。


「すみませんけど…ハイリョしてください!!」

「えっ?」

「ハイリョしてくださいと言うたらハイリョしてください!!」


みちよは、ものすごく困った表情で公章きみあきに言うた。


「ハイリョしてるわよ〜」

「ここは居心地が悪いので、明日から部屋を探します!!」

「どうして部屋を探すのよ?」

「自立できなくなるので、部屋を探します!!もういい!!」


思い切りブチ切れた公章きみあきは、食卓から出ようとした。


理恵りえは『待って!!』と言うて公章きみあきを止めたあと困った表情で言うた。


公章きみあきさん、どこへ行くのよ?」

「この家から出ていきます!!」

「なんで出ていくのよ!?」

「自立できなくなるから出ていきます!!」

「どこか行くあてはあるの!?ないのだったらうちにいてもいいのよ!!」

「よくないと言うたらよくないです!!」

「だったら、おばさまのご親族の人たちと話し合いをしてから決めたほうがいいわよ…ご親族の方は『山尾このいえにいてもいいよ〜』と言うてるのよ…うちの電気と水道を使ってもいいよと言うてるのよ…」

理恵りえさんこそハイリョしろよ!!」

「ハイリョしてるわよ…それよりも今、6時8分よ…おじさまと一徳かずのりくんとゆかりさんが6時半から『シャボン玉ホリデー』(バラエティ番組)が見たいと言うてるのよ…」

「だからどうしろと言うのだ!?」

「見たいテレビを見る時間までにごはんを食べなきゃいかんのよ!!お願いだからごはんを食べてよ!!」

「ふざけるな!!」


(ドカッ!!)


思い切りブチ切れた公章きみあきは、理恵りえを両手で突き飛ばしたあと外へ出ていった。


理恵りえは、ひどくオタついた表情であたりを見渡した。


この時、みちよがものすごく困った表情で理恵りえに声をかけた。


理恵りえさん!!」

「おばさま〜」

「おじさまが困っているわよ!!早くごはんとみそ汁をつぎなさい!!」

「ごめんなさい…いまつぎます〜」


理恵りえは、大急ぎでごはんとみそ汁をついだあと明に手渡した。


明は、ごはんとみそ汁を受け取ったあと食事に入った。


つづいて、ゆかりと私にごはんとみそ汁をついだ。


ゆかりと私は、ごはんとみそ汁を受け取ったあと食事に入った。


理恵りえは、みちよが食べるごはんとみそ汁をついでいた。


みちよは、ものすごく心配な表情でシチズンの柱時計を見つめながら言うた。


「困ったわね〜」

「おばさま。」

賢也けんやは、どこへ行ったのかしら〜」

「ガッコーのセンパイが暮らしている家に行くと言うてましたけど…」

「だけど、おかしいわね〜」

「おばさま、賢也けんやさんはもうすぐ帰って来るわよ…『シャボン玉ホリデー』が始まる前には帰って来るから大丈夫です!!」

「だといいけど…」

「おばさま!!ごはんとみそ汁ができましたので食べてください!!」


理恵りえは、ヒステリックな声でみちよに言うたあとキッチンヘ逃げ込んだ。


広間にいる4人は、めんどくさい表情で晩ごはんを食べていた。


時計のはりは、6時25分になった。


あと5分で『シャボン玉ホリデー』が始まるが、テレビの電源はオフのままであった。


そして、6時半になった。


『シャボン玉ホリデー』が始まったが、4人はまだ晩ごはんを食べていた。


4人の気持ちがひどくイシュクしていたので、楽しくテレビを見ることができなかった。


この日、雅俊まさとし宏美ひろみはお仕事でうんと遠い場所ヘ行った関係で帰ることができなかった。


ゆかりと私は、また山尾家このいえで寝泊まりすることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る