【書き溜めにつき更新停止中】天衣無縫の勝負師は異世界と現実世界を駆け抜ける 〜珈琲とギャルブルをこよなく愛する狂人さんはクラス召喚に巻き込まれてしまったようです〜
???side1. ――その行いは、無関係な者達の手を血で汚さない為に。
???side1. ――その行いは、無関係な者達の手を血で汚さない為に。
ログニス大迷宮の四十層は冷気に包まれていた。
そんなログニス大迷宮の四十層に二つだけ動く影があった。
「流石だな、フレイヤ嬢。……いや、久世橋殿とお呼びする方が良かったか?」
「どちらでもお好きにお呼びくださいませ、王女殿下」
フレイヤ・スカーレット・ピジョンブラット――かつて、王子達によって濡れ衣を着せられ、「悪役令嬢」という悪名を背負わされた上で婚約破棄を告げられて絶望し、ロナヴ川に身を投げた公爵令嬢。
そんなフレイヤの運命をフレイヤは乙女ゲームという形で事前に知っていた。
察しの良い人はこの時点で分かるのではないだろうか?
――そう、彼女には前世の記憶があったのだ。
だが、その人生は少々とは言えないほど過酷なものであった。
その地獄の人生の転機は小学生低学年の頃から突如として始まった。
強盗に押し入った男によって家族全員を皆殺しにされら美智香はたった一夜で天涯孤独の身の上になってしまったのである。
それ以来、美智香は殺されていく家族を目の当たりにして命を奪われることに恐怖を覚え、それ故に尋常ならざる生への執着を見せるようになった。
本来であれば、庇護されて自立するまで支えられるべき被害者である美智香。しかし、現実は残酷だった。
子供とは周囲と違うものに敏感に反応するものである。家族のいない美智香の存在はイレギュラーな存在として映ったのだろう。
周囲と違う美智香はイジメの格好の標的とされて散々な学校生活を送ることになる。
そうしてイジメを受け続けた結果、美智香は少しでも良い環境を変えるべく育ての親である祖父母の意向で小学校、中学校時代に学校を転々とすることになった。高校に進学した頃には事件の噂はかなり弱まっていたが、それでも奇異な目に晒されることが完全に無くなった訳ではない。
そんな美智香を支えたのはゲームと音楽だった。
特に幼き日に音楽は夢の国で家族と共に見たジャスコンサートに魅せられ、それが家族との最後の思い出になったということもあって美智香の強い心の支えとなった。
中学高校と吹奏楽部に所属するようになり、その結果、美智香に偏見を向けることもない大切な友人とも出会うことができた。
ゲームはそんな友人によって進められたものだ。ヲタク気質のあるその友人に勧められたらゲームの一つが乙女ゲーム『白き花の咲く王国』であり、その世界観は異世界ジェッソにどこか酷似していた。
フレイヤ・スカーレット・ピジョンブラットは、その乙女ゲームにおいて主人公にイジメを行うライバルの立ち位置――所謂悪役令嬢と呼ばれる存在であった。
フレイヤに転生したと知った時、「命大事に」を第一に掲げる美智香は当然、最悪の未来を回避するべく動いた。
いざとなれば逃げられるように準備を進め、オーブリア王子との婚約が結ばれないように立ち回り、オーブリア王子と男爵令嬢の仲を邪魔しないように振る舞った。
だが、オーブリア王子との婚約は回避できず、何もしなくても冤罪の濡れ衣を着せられ、婚約破棄を告げられることとなってしまったのである。
フレイヤにとって唯一の救いは貧民街で
そして、あらかじめ取り決めていたロナヴ川に飛び込んで命を絶ったフリをした。実際には周辺に潜伏していた
唯一の懸念事項はフレイヤのことを心配してやってきた騎士達などに飛び込みを妨害されることだったが、幸か不幸かフレイヤを追ってくる者はいなかった。
……その後は名を隠し、
王都で的中率百パーセントとして知られる占い師ポーリン・キティ――彼女の力を借り、護衛も連れずにたった二人という少数で二人の元を訪れたその人物にフレイヤは当然衝撃を受けた。
彼女の名はブリュンヒルダ・ムーンライト・ルーグラン――かつて、フレイヤが婚約を結んでいた第一王子の姉であり、ルーグラン王国の第一王女。
そして、数日前から「行方不明」となって捜索が行われている、今世間を騒がしている張本人だったのである。
ブリュンヒルダの申し出を聞き、
そして、フレイヤはブリュンヒルダの考えに賛同し、現在に至るという訳である。
「しかし、プリュイ殿は大丈夫だろうか?」
「彼女のことは心配ありません。……寧ろ、プリュイが負けるということは私では生き残れないということですわ。それよりも、山王寺さんのことが心配ですね」
ちなみに、ブリュンヒルダに協力した人気占い師ポーリン・キティも転生者である。
その前世は警察に協力する民間の特殊技能捜査研究所、通称特捜研に勤務する二十代の女性捜査官、
中学時代は従姉妹の
高校生となって葵と同じ高校に入学し、三年生になった月村に弟子入りしたいと思っていたが、蒼が二年生の頃に彼女の母に恨みを持つ男の手によって葵が殺害されてしまい、その夢は破れることとなる。
葵と同じ高校に通うようになってからは、オカルト研究会に所属し、更に推理研究会を立ち上げ、二つの部活を兼任するようになった。
また、自身が生まれ持った特殊能力であるサイコメトリーを駆使して月村葵を殺害した犯人を追跡し、逮捕に貢献している。
その後は先述の通り民間の特殊技能捜査研究所、通称特捜研に所属し、激動の時代の荒波に飲まれながらもなんとか天寿を全う、そして異世界ジェッソにポーリン・キティとして転生し、現在に至るという訳である。
「ルーグラン王国内部はかなりきな臭くなっているが、それでもまだ安全ではある筈だ。……だが、確実にルーグラン王国はおかしくなっている。白花神聖教会も怪しい動きをしているようだ。……勇者召喚の強行、私はあれが正しい行いだったとは思えない。この世界の問題は、この世界の人間の手で解決しなければならないものだ。……勇者達の手を汚させてはならない。絶対に、だ」
まるで何か大いなる存在によって世界は遊戯盤に見立てられ、弄ばれている。
そんなどこか妙で、嫌悪を感じるような感覚がブリュンヒルダにはあった。
世界を悪意ある存在のオモチャにしてはならない。思い通りにさせてはならない。
全ての聖武具を集め、その力を十全に扱える
それこそが、ブリュンヒルダの目指すシナリオだ。そして、それは悪意ある存在にとって望まない未来となるだろうという感覚がブリュンヒルダにはあった。
自分のシナリオがとっくの昔に破綻を来していることに、ブリュンヒルダは気づかない。
ログニス大迷宮の最奥部からもルインズ大迷宮の最奥部からも聖武具が失われているという事実をブリュンヒルダ達は当然、知らないのである。
世界を遊戯盤に見立て、勇者召喚を実行させ、信徒達を操って悦に浸っている女神エーデルワイスですらも知らぬ間に、大日本皇国で敵に回すと恐ろしい存在とされる三人のうちの一人に数えられる内務省でバイトをしている凄腕
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