無効化スキルのオンパレードになってきているけど、どこぞの最強議論スレで名前が上がっていた本好きを拗らせた変態が最初に転移させられた迷宮とどっちが難易度高いのだろうか?

 八百一層にはここまでの階層で見たことのない魔物達が犇いていた。

 代表的なところを挙げれば、一撃熊フェイタルクロー・ベアーと呼ばれる凶暴な熊の魔物や、(´・ω・`)らんらんと呼ばれるバーサーカーの毛がある豚の騎士の魔物、彷徨う騎士リビングナイトと呼ばれるアンデッド系の魔物や、暗黒魔教皇ダーク・ハイエロファントと呼ばれる魔物の神官、蹴り兎キックフット・ラビットと呼ばれる脚が発達した兎の魔物などが印象深い。


 ……とはいえ、魔物の強さは七百層台よりも若干強くなった程度でデモニック・ネメシスには足元にも及ばない。

 厄介なアンデッドは聖女の魔法対抗手段を持つ魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスが引き受け、残る魔物は他の面々が分担して討伐するという役割分担で確実に魔物達を葬っていった。


 そして、八百一層到達から約三時間後、九百層の門の前に到達。

 ここにもデモニック・ネメシス達が待ち構えていた。


 八百層の頃から一体増えて合計五体となっていたが、行動パターンは前回から変わらず、無縫と茉莉華が魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスと魔法少女プリンセス・カレントディーヴァに変身して競うように撃破していくと、戦闘開始から五分も掛からずにデモニック・ネメシスの群れは全滅に追い込まれた。


 九百一層に到達すると、また魔物の顔ぶれが変わった。

 魔物の種類は、これまで探索した七百台の層、八百台の層と比較しても最小の五種類。しかし、いずれもこれまでの魔物とは比較ならないほどの特徴を有していた。


 まずは単眼巨人サイクロプス。その名の通り単眼の巨人で、『覇皇樹の棍棒』と呼ばれる特別な樹木から作られたと思われる特殊な棍棒を得物としているようだ。

 かなり賢いようで、持ち前のパワーを全面に押した脳筋戦法を取ることはなく弱った相手や隙を見せた相手を執拗に狙う性質を持っているらしい。


 何より厄介なのは物理的な攻撃や衝撃を与える攻撃を完全に無効化する因果干渉系無効化スキルの一種である【物理・衝撃無効】を持っており、同じ因果干渉系スキルによる特異点の発生という例外を除けば物理的な手段で倒すことは不能であるという点である。

 この層の魔物は単眼巨人サイクロプスを含めて全員がデモニック・ネメシスすら有していない耐性スキルの実質的な上位互換である無効化系スキルを保持しており、一種類の攻撃のみに頼り切りになるものにとってはかなり厳しい環境となっているようだ。


 二体目は地に伏す毒皇蛇ヨルムンガルド。猛毒の息や毒液による攻撃と多彩な魔法攻撃を得意としており、そのレパートリーの中には空間魔法や重力魔法すら含まれる。

 宇宙空間と接続し、スペースデブリを強化した重力でで引っ張って落下させる隕石落下メテオ・ストライクの威力はかなりのもので、デモニック・ネメシスほどではないもののかなり厄介である。

 無効化スキルは【魔法無効】。魔力を消費して引き起こす魔法全般によって引き起こされた現象によって生じるダメージを全て無効化するという規格外の無効化スキルで、あの魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスの「操力の支配者オーバーロード・オブ・マクスウェル」によって熱エネルギーを光エネルギーに変換して放ったレーザーをも無効化して見せた。

 ……まあその後、無縫が己自身が勝利する方に賭け、幸運が作用すると二つの因果干渉が特異点を生み出し、呆気なく光条に射抜かれて死亡した訳だが。


 三体目は冥界の三首狼ケルベロス。ダイアモンドよりも硬い歯と相手を低確率で即死させる邪悪の爪を武器とする三つの首を持つ地獄の狼で、素早さを活かして敵の懐に入り、接近戦を仕掛けてくる。

 無効化スキルは即死攻撃を無効化する【即死無効】だが、無縫達には相手を確定で即死させるような攻撃を持つ者がいないため、全く役立つことは無かった。


 四体目は殺戮機動兵器デスマシーンタイプΑΩアルファオメガ。波動砲や原子力光線アトミックレイ発射装置、広範囲に超重力の断層を作り出し、射線上にあるあらゆるものを押し潰す重力兵器、爆発に巻き込んだものを原子レベルで分解する殲滅兵器など凶悪な兵器などを搭載した殲滅兵器である。

 無効化スキルは【状態異常無効】だが、そもそも機械は状態異常にならないため、全く噛み合っていない。……まあ、その分武装が強過ぎるので釣り合いは取れているが。


 五体目は人型植物の女王アルラウネ・クイーン

 相手の身体のコントロールを奪う特殊な花を咲かせる翠の花粉玉を放つ攻撃や相手の養分を吸い尽くす蔦による攻撃、相手から養分を吸収する寄生木の種を植え付ける攻撃など、植物らしい攻撃と搦め手を各種揃えてている。搦手といっても、某人間の庇護欲を刺激する見た目で相手を油断させ、栄養価ゼロの麻薬成分を含んだ果実を食べさせて対象を弱らせて殺害し、その養分を吸収するという性質を持つ緑髪の少女のような見た目の魔物のような戦法は取ってこない。

 無効化スキルは【自然影響無効】。熱気や冷気、雷などの放電現象、その他諸々の自然に由来する事象に対する無効化するという厄介なスキルで、植物に最も相性の良い炎属性の攻撃を無効化することが可能である。


 いずれも強力かつ初見殺しの性質が強い魔物達ばかりだが、その性質を知り尽くし、対抗できる手段を持っていれば対処は容易である。……まあ、その条件を満たすこと自体がかなりハードルが高いことではあるが。

 対面早々、無縫に【万象鑑定】を使われ、ステータスを丸裸にされた魔物達は無縫の指示した完璧な役割分担によって瞬く間に壊滅した。……まあ、約一名魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスが取り仕切る事態が許せなかったのか、魔物達への攻撃そっちのけで無縫の命を狙いにいっていた人気アイドルがいた訳だが。


 そして、この迷宮の最終階層である一千層には最早お馴染みとなったデモニック・ネメシスが一体待ち受けていた。

 実は九百層までのエリアボスとして登場していたデモニック・ネメシスやその強化形態よりも更に一段階強化されており、新たな技もいくつか習得していたのだが、ここまでの戦いで嫌というほどデモニック・ネメシスと交戦して良い加減飽きてきていた無縫は初手で魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスに変身して「操力の支配者オーバーロード・オブ・マクスウェル」を使って部屋の光源を無数の光条に変化させると一斉にデモニック・ネメシスに浴びせ、初手のブラックホールを発動する間も無く絶命に追い込んだ。


 あまりの手応えのなさに、「他の魔物達よりもデモニック・ネメシスに無効化スキルを持たせるべきだったんじゃないか?」と思う無縫であった。



 一千層を越えた先には、転送装置が置かれた小部屋があった。

 しかし、これまでのエリアボスの間と異なり、地下へと続く階段が存在しない。


「……ここで行き止まりということでしょうか?」


 龍吾がそう呟くのとほとんど同じタイミングで、ゴゴゴゴという音と共に床の一部がズレて下へと移動していった。

 誰もその床には乗っていなかったため巻き込まれずには済んだものの、下には奈落が広がっており、そのまま無策で落下すれば七百層の時と同様に命を落としかねないだろう。


「どうします? 俺が確認してきましょうか?」


「私が確認してこようかと思ったけど、それなら任せるわ! まあ、そうよね。こういう仕事は貴方にお似合いよ。無縫」


「そいつはどういうことだぁ?」


「だって、私の命が失われるのってとんでもない社会的損失になるじゃない。私は貴方とは違って毎日全世界のファン達の心に愛と元気と勇気を届けているのだから。もし、私が命を落としてしまったら全世界七十八億人が涙し、絶望して、仕事も手につかなくなって、文明が五十年くらい遅れることになるわ!」


「……その自信はどこから来るんだよ。まあ、全世界云々は置いていて……非常に遺憾だが、悲しむ人はいるだろうな。例えば、大田原さんとか」


「まあ、確かに局長殿……ではなかった、総理は【スターライト・トゥインクル】の大ファンですからね」


「一国の総理大臣にも推されているなんて流石だわ!」


「オホホホホ! フィーネリアさん、もっと讃えなさいな!」


「でも、総理大臣って忙しいのでしょう? ライブとかには流石に参加できないんじゃないかしら?」


「……まあ、その通りですね。国会や外交、内閣の仕事、その他視察……公務がない時には参加していますが、休みがない日はほとんどありませんからね。なので、俺が代わりにライブに行ってビデオ通話で大田原さんに映像を送っています。流石にあの場での高揚感は感じられませんが。……そういう特別扱いをしてもらえるように、【スターライト・トゥインクル】の所属する事務所には配信料をお支払いしていますよ。まあ、元々は『内務省うちの茉莉華がご迷惑をお掛けしています』っていう迷惑料だったんですけどね」


「……本当に認めたくないことだけど、無縫が実質一番の【スターライト・トゥインクル】のスポンサーということになるわ」


「後、内務省異界特異能力特務課の運営費もほとんど無縫君の負担ですね。存在しない部署という扱いなので、使える税金も微々たるものなのですよ。鬼斬機関などからの出資もありますが、主導権争いでかなり無茶したので残念ながらあんまり出してもらえないんですよね。それに対して出費は相当な額ですから採算なんて合う筈がありません。そこで、無縫君に税金を元本にしてギャンブルをしてもらい、稼いだお金を内務省異界特異能力特務課の運営費としています。流石に税金をそのままギャンブルに投入するのは外聞が悪いですから、無縫君に建て替えてもらい、ギャンブルに失敗したら無縫君がその分を補填するという不平等にも程がある契約になっています。……大人として不甲斐ないばかりですよ」


「後は他の省庁に足りないちょっとのお金を貸してくれ……って頼まれて融資をしたこともあるんですよね。なので、俺が頼めばちょっとは融通してくれるんじゃないかと」


「初耳ですね、それは」


「……ちょっと待って!? もしかして、国防の要のお金が無縫君に頼り切りなの!? 私が言うことでもないけど、無縫君がいなければこの国終わりじゃない!?」


「まあ、いや、その……全くもってその通りですね」


「フハハハハ! 流石は無縫だ!」


「……ドルグエスさん、それ、どういう意味の褒め言葉なんですか?」

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