【書き溜めにつき更新停止中】天衣無縫の勝負師は異世界と現実世界を駆け抜ける 〜珈琲とギャルブルをこよなく愛する狂人さんはクラス召喚に巻き込まれてしまったようです〜
ロードガオンの女幹部フィーネリア=レーネは宿敵と密談する。
ロードガオンの女幹部フィーネリア=レーネは宿敵と密談する。
「……このステータス、おかしくないかい?」
目にも止まらぬ速度でフリック入力された無縫のメモを見た波菜の問いに、無縫は「嘘は書いてないよ?」と真面目な顔で返答をする。
とはいえ、無縫が【万象鑑定】で確認した二人のステータスは俄かに信じがたいものであった。
---------------------------------------------
庚澤無縫 LEVEL1
種族:人間、性別:男、年齢:16
天職:珈琲師
---------------------------------------------
---------------------------------------------
黒崎波菜 LEVEL1
種族:人間、性別:女、年齢:16
天職:反魂魔術師
---------------------------------------------
「……いくつか突っ込みたいところがあるけど、まず無縫君の
「うんうん、それで?」
「僕の記憶が確かであれば、君は少なくとも勇者、大魔術師、大賢者、大聖女の職業を有していた筈だ。変身していない状態だから魔法少女がステータスに表示されていないのは百歩譲ってあり得るとしても、それらが表示されていないのはおかしい」
「……黒歴史を引っ張り出さないでもらえると嬉しいんだけどね。男なのに、聖女なの? って奇異な目で見られたの、今でも凄く傷ついて……ん? いや、そうでもないな。ご存知の通り、異世界召喚に巻き込まれるか、空間の歪みによって生じる
「……いや、初耳なんだけど!? そういう理屈だったのかい!?」
「ああ、元々のポテンシャルとかじゃないよ? だから、パグスウェルが君達には素質が、みたいなニュアンスで発言していたけど、あれは嘘。異世界に召喚された際に後天的にステータスが与えられただけだ。それが、自然に行われたものなのか、将又この女神が配布したものなのか、そこまでは定かではないんだけどね。さて、ここで問題。異世界に召喚されたことでステータスは生成されるというところまでは話したけど、じゃあ、元々他の世界に渡ってステータスを持っている者や元の世界で何かしらの力を持っていた人の場合はどうなるでしょうか?」
「……異世界に召喚されても勇者の力は使用できることは確認済みだよ。どこかの誰かさんに
恨みがましい視線を向ける波菜に、無縫は苦笑いを浮かべる。
「……君の気持ちは分からない訳ではないけど、今はまだその時じゃない。堪え時だよ。で、既にそれが答えなんだけど、異世界召喚などを経てステータスが生成されても過去に習得したスキルやステータスが消える訳ではないんだ。そして、俺の経験上の話だけど、ステータスもスキルも加算……つまり、過去のステータスとスキルに新たなステータスとスキルが足されていく形になる。乗算だったら最高なんだけどね。例えば、波菜さんだと」
---------------------------------------------
黒崎波菜(オルフレイ) LEVEL49200
種族:人間、性別:女、年齢:16
天職:堕ちた勇者
---------------------------------------------
「このステータスに、そのままジェッソのステータスを加算したものが今の波菜さんのステータスということになるよ。……といっても、勇者のステータスでほとんど賄えてしまえるからね。目ぼしいのは反魂魔法くらいかな? まあ、明らかに目立つし【情報偽装】のスキルで隠すこともできるけど」
「……本当に何でもできるんだね。よろしく頼むよ」
「まあ、色々とスキルはあるけどほとんど使ったことないんだけどね。【情報偽装】も今回初めて使うし……上手くいくといいんだけどね」
「……流石に少し心配になってきたよ」
ほんの少し不安になった波菜だったが、結果は無事成功。職業が書き換えられ、【反魂魔法】の名称がスキル欄から消えた。
「……さて、と。話すことは一通り話したし、流石に陰陽術の奇門遁甲を使って人を近づけないようにしているとはいえ、波菜さんがいないことがバレたら面倒なことになりそうだし」
「……それじゃあ、そろそろお暇するよ」
「ああ、それと……念押しするようで悪いけど親御さんにはしっかりと連絡しておいてね。あの人心配させると色々面倒だから……本当に」
「いつも父が本当にすまない」
波菜が部屋を去ったことを確認した無縫は懐から複数の
陰陽師出身の内務省異界特異能力特務課の同僚から教えてもらい、丸暗記した呪を掛けると小さなカメラを取り付けて王宮の各地へと飛ばす。
波菜とは別口で人間側の情報を集めるために無縫の眼となるものを放った後、無縫は電話を取り出した。優牙は……波菜より先に連絡を入れても拗れそうなので後回しにし、まずはロードガオンの二人に電話を掛けることにした。
◆
「もしもし、無縫です」
『……あら、珍しいわね。貴方から電話があるなんて』
無縫が最初に連絡を入れたのはロードガオンから派遣された二人の幹部の一人であるフィーネリア=レーネだ。
一般的に知られる悪の女幹部としての姿はエナメル質の怪しげなレオタードのような扇情的で際どい衣装を身に纏い、マスカレードマスクで顔を隠したというもので、豊満な胸、括れた腰、張りのあるお尻――その妖艶な姿の虜になった紳士達は数知れず。
そんな一歩間違えば痴女であるフィーネリアも実際はかなりの猛者だ。引き連れている怪人達を抜きにしてもロードガオン独自の技術であるワーブルと呼ばれる特殊な生体エネルギーを取り出す技術を用いた兵器を巧みに操る。その強さには無縫以外の内務省異界特異能力特務課の戦闘員達も手を焼き、フィーネリアは理不尽な無縫を相手に辛酸を散々舐めさせられてきた。
まあ、このやり取りを見れば分かる通り不倶戴天の敵……という訳でもないのだが。
「単刀直入に言う。……異世界に召喚されてしまった」
『……またなのね』
「いや、巻き込まれたのは
『……まあ、私からしたらあんまり大差がないと思うけど。……ん? もしかして、これって大日本皇国を落とす好機かしら!? 無縫君がいなければ大日本皇国の戦力の恐ろしさも半減以下だし』
「……その場合は急いで帰国するだけだよ」
『ちぇ……まあそうよね。で、要件は何なの?』
「取引をしたい。大きく分けて二つ。まずは、俺が帰国するまでに大日本皇国への侵略行為を行わないこと。そして、もう一つは俺のいない間、邪悪心界ノイズワールドと地底世界アンダグラウンドから攻めてくる会話の糸口がない相手を押し留めて欲しい」
『また無茶を言うわね。地底人はまだ何とかなりそうではあるわ。……あんまり情報はないけど、高度に独自発展した科学を武器にしてくるというだけで本質的には同じ人間でしょうし、それならこちらにも攻撃手段はある。でも、ネガティブエネルギーだったかしら? そんなファンタジーの世界の住民みたいなものに物理的ダメージが与えられるとは思えないわ。それこそ、魔法少女の力がないと無理じゃない』
「いや、普通に下級種であれば内務省異界特異能力特務課の職員でも討伐自体は可能なことが判明している。まあ、中級種以降だと流石に特殊能力を持つ戦力じゃないと厳しいんだけどな。……というか、君達、本当に侵略する気あるの? 俺達人間を滅ぼして地球を奪っても地底人やネガティブノイズの問題が解決する訳じゃないからな?」
『……本気で奪う気がある訳ないでしょう? というか、貴方と敵対して私達には無理だって十分に分からされているわ。……とはいえ、本国も状況はかなり切迫しているし、『できません』と言えないのも実情なのよね。一応私も幹部待遇だけど、残念ながらこの首は首領の胸先三寸で飛ぶような軽いものだし。かといって、無駄にプライド高いから土地を恵んでもらうとか、現地の政府と交渉をして共存の道を模索するとか、そういった選択も取れないし、本当に嫌になるわ』
「まあ、とにかくよろしく頼む。今回の件は内務省異界特異能力特務課からの依頼という形にもなるから流石に何も見返りはないということにもならない筈だ。何かしらの便宜を図る……とはいえ、流石に大日本皇国や地球を丸々譲るとか、そういう無茶は聞けないが」
『分かっているわよ。まあ、最悪の場合は部下共々亡命させてくれる……最低限、これくらいのことは約束してもらいたいわね』
「俺から大田原さんの方に話は通しておくよ」
『大田原って……まさか、現職の内閣総理大臣、つまり首相の大田原惣之助のこと!? どんなコネを持っているのよ!?』
「ん? まあ、色々とね。それと、俺からも個人的にお礼をしたい」
『だったら宝くじ! ねぇ、直近で買った宝くじとかあるでしょう!?』
「……そういうと思ったよ。最高で四億円だ。小遣い稼ぎのつもりだったけど、快く引き渡そう」
『ありがとう! さぁて、どこのマンションを買おうかしら?』
電話口から聞こえる楽しそうな声に無縫も思わず顔を綻ばせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます