【書き溜めにつき更新停止中】天衣無縫の勝負師は異世界と現実世界を駆け抜ける 〜珈琲とギャルブルをこよなく愛する狂人さんはクラス召喚に巻き込まれてしまったようです〜
ロードガオンの怪人幹部ドルグエス=バルギマは殺戮マシーンの如き戦闘スタイルらしいが、実際はただの脳筋である。
ロードガオンの怪人幹部ドルグエス=バルギマは殺戮マシーンの如き戦闘スタイルらしいが、実際はただの脳筋である。
フィーネリアが無縫の幸運に目をつけたのは、宿敵――魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスに七度目の敗北を味わった時だ。
その並外れた幸運に幾度となく辛酸を味わうこととなったフィーネリアはなんとかして魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスを見返してやろうと頭を悩ませ……そして、魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスの幸運を逆手に取った戦略を思いつく。
翌日、フィーネリアは満を持して作戦を実行した。
フィーネリアは度重なる襲撃を経験して嫌そうな顔をしている魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスに対し、「私の要望を叶えてくれるなら今回は撤退してあげるわ」と提案。部下の怪人達が、「こいつ何血迷っているんだ!」という顔をする中、魔法少女ラピスラズリ=フィロソフィカスはその提案を快く受けた。……とことん勝負が好きな無縫も流石に同じ顔と何度も顔を突き合わせて似たように戦いを演じることには飽きてきていたらしい。
その提案は「思い浮かんだ好きな数字を六桁答える」というものだった。その時は意味を察することができなかった無縫は、その程度ならばと快く応じた。
結果として、宝くじの一等という莫大な当選金を獲得したフィーネリア。
しかし、彼女は莫大なお金を手に入れても平常心を保っていた。
堅実なフィーネリアはそのお金で固定資産を購入――そして、購入したマンションを辣腕っぷりを発揮して管理し、結果としてしっかりとした安定収入を得ることにしたのである。
本国からの資金や物資に頼っていたフィーネリアにとって、現地での拠点と収入源を得たことは非常に大きかった。
その後もフィーネリアは無縫と宝くじ屋から莫大なお金を掠め取っていった訳だが、流石に無縫も馬鹿ではない。三度目の交渉でフィーネリアの提案の意味を察した無縫は提案に乗るフリをしつつ、自分も宝くじを買うということでフィーネリアの一等当選を阻止。また、無縫がフィーネリアが宝くじに当選しないことを祈るようになったからか、無縫の力を頼っても当たらないということが増えてきた。
まあ、二度の宝くじ当選で既に莫大な資産を得ていたため、あまり痛手では無かったのだが。
とはいえ、お金はいくらあっても良いもの。無縫から直接宝くじをもらえるということは外れる可能性は低く、更に無縫が恩人に渡した宝くじがわざわざ外れるように祈るほど外道な正確ではないことも知っているフィーネリアは十分に利がある提案だと判断して応じたのである。
「受け渡しは帰国後でもいいかな?」
『私って異世界に行ったことがないのよね。どうせなら観光もしたいし、受け取りに行くわ!』
「……今は色々と事情があって無理なんだけどな。その辺りも内務省異界特異能力特務課と相談しておいてくれると助かる」
『分かったわ』
一先ずこれで協力者は一人獲得である。とはいえ、派遣されているロードガオンの幹部はもう一人いる。こちらとも交渉をしなければならない。
まあ、常識的な思考回路を持ち合わせているフィーネリアと比べてもう一人は脳筋かつ欲望に従順なタイプのため、もう電話を掛ける前から八割型交渉に勝っているようなものなのだが。
「もしもし、無縫です」
『おう、珍しいな! というか、吾輩の電話番号を知っていたのか!?』
「……地下競売でお会いした時、頼んでもいないのに教えられたと記憶していますが」
『……ん? そうだったか?』
電話口からでも分かる豪放磊落というか、大雑把な性格というか、細かいことは気にしないというか。
そんな若干脳筋感漂う男の名はドルグエス=バルギマだ。これでもフィーネリアと同格のロードガオンの幹部である。
額から伸びる三本角に、硬質の鱗を鎧のように纏った赤い皮膚の巨漢。
鍛え抜かれた筋骨隆々の肉体は妖艶なフィーネリアとは対極の男らしさの具現化と呼ぶべきものであり、ロードガオンの内外を問わず筋肉フェチ達を虜にしている。
そんな彼は筋肉を活かした肉弾戦……ではなく、様々な武器を使った立ち回りを得意とするタイプで、その武人のような出立ちに反して撒菱のような設置武器や罠なども利用するなど卑怯な戦法も躊躇なく取る。……その筋肉は魅せ筋なのだろうか?
まさに殺戮マシーンと呼ぶべき戦闘スタイルだが、基本的には脳筋かつ物覚えが悪く、自分が設置した罠に引っ掛かるといった策士策に溺れるような状況に陥ることも少なくはない。
ドルグエスの趣味は実益を兼ねた武器の購入である。あまり深く考えず地下競売などの非合法的なマーケットに足を運び、直感の導くままに武器を買うということもしばしば。無縫がドルグエスと初めてプライベートで邂逅したのも地下競売を訪れた日だった。
ちなみに、武器を購入するお金は日雇いの土木作業で稼いでいるらしい。……見るからに人間ではない悪の組織の幹部を身分も調べずに雇う土木業者って一体。
無縫は根気良くドルグエスにフィーネリアにしたのと同じ説明をした。と言っても、ドルグエスの理解力が低いため時間はフィーネリアの二倍以上掛かったが。
『よし、分かったぜ。要するにお前のいない間に大日本皇国を守ればいいってことだろ?』
「まあ、結局のところはそういうことになるね」
『任せてくれ! ……ところで、吾輩は異世界とやらに行ったことがねぇんだ。きっといい武器もあるんだろ? 頼む、連れて行ってくれ』
「……………………仕方ないね。今は無理だから内務省異界特異能力特務課を経由して連絡を入れさせてもらうよ」
『よろしく頼むぜ!!』
「……フィーネリアさんは脳筋のドルグエスを若干嫌っているし、きっと嫌な顔をすると思うけど、まあ致し方ないか」と遠い目をしながら無法は電話を切った。
その後、無縫は一抹の不安を抱えつつ優牙に連絡を入れる。幸い、波菜が連絡を入れていたため話が拗れることはなく、「娘のことをよろしく頼む」と真面目ぶった声で言われてしまった。
「……別行動をとるつもりなんだけど、その辺り話していないのかな?」と少しだけ心配になる無縫だった。
ちなみに、そのトーンが娘が恋人を連れてきて、彼氏から「娘さんを僕にください」と言われた時のお父さんの「娘のことをよろしく頼む」のように聞こえるものだったが、無縫は持ち前の鈍感さで全く気づいていないようだ。
波菜の片思いはまだまだ続きそうである。……まあ、成就するかどうかも定かではないのだが。
◆
翌日から早速勇者育成を目的とした訓練が始まった。
といっても、いきなり戦闘訓練が始まる訳ではない。まずは、簡単なオリエンテーションのような座学に出席することとなった。
集まった生徒達と教師の燈里に、小さな銀色のプレートが配られる。
見たことのない材質のプレートに生徒達の視線が釘付けになる中、勇者一行の指導係に任命されたルーグラン王国白嶺騎士団総隊長のガルフォール・ハウリングが直々に説明を始めた。
ルーグラン王国にはかつて王族を守ることを第一の仕事とする近衛騎士団と国防の要となる十二の騎士団が存在した。
しかし、数年前に行われた騎士団の大規模な再編によって十二の騎士団が一つの騎士団に吸収され、十二人の騎士団長をそれぞれの騎士団の頂点に定め、各騎士団を同格とする十二騎士団並立の構造から総隊長を頂点とするピラミッド構造へと指揮系統を大きく変えることとなった。
その目的は「軍備拡張を続ける隣国への対策だった」、「国の上層部がバラバラだった指揮系統を統一することで円滑に騎士団を運用できるようにしたかった」などと様々言われているが、実際に誰が発案して何を目的に実行されたのかどうかは不明である。恐らく、上層部の様々な人間の思惑が複合的に合わさった結果なのだろうと無縫は考えていた。ちなみに、その間に魔族による襲撃は無かったようなので、対魔族の戦略だったという可能性は薄そうである。
そんな近衛騎士団騎士団長と同格である白嶺騎士団総隊長に任命されたのは平民出身のガルフォール・ハウリングだった。
基本的に近衛騎士は貴族出身者が多く、十二の騎士団の騎士達は平民出身が多いとはいえ、騎士団長のほとんどは貴族出身である。そんな中、有力な貴族出身の騎士達を抑えて総隊長に就任したのは、彼が【黒の英雄】の異名で知られる最強の剣士だからである。
かつて、冒険者として多くの魔物を殲滅していたガルフォールはその実力と彼の天職である【剣聖】を第三騎士団の副隊長で伯爵家出身の女騎士セリスティス・グレーゼバルトに買われて騎士団入りを果たした。
その後、騎士団内部で頭角を表したガルフォールは宰相の目に留まって騎士団長に就任。白嶺騎士団が新設される際には第三騎士団の副隊長と宰相の推薦を受け、総隊長に就任し、現在に至るという訳である。
ちなみに、現在のセリスティスは白嶺騎士団の総隊長補佐に就任しており、ガルフォールの右腕として活躍している。
「よし、全員に行き渡ったな。こいつはステータスプレートって奴だ。文字通り、自分のステータスを客観的に数値化してくれる優れものだ。それと同時に最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
「……見たことのない金属ですね。材質は……ミスリルでしょうか?」
コンコンとプレートを軽く叩きながら無縫がガルフォールに尋ねる。ちなみに、【万象鑑定】で材質は鑑定済みであり、無縫の言葉は疑問の解決よりも説明の補足を狙ったものである。……まあガルフォールを含め、波菜以外の者達にはその真意など欠片も伝わっていないが。
「良い審美眼しているな。……というか、お前達の世界にもあるのか?」
「……ミスリル、なんだいそれは?」
「獅子王殿が知らないとなると、そっちには無いものみたいだな」
「ファンタジー世界のお約束って奴ですよ。
猟平達が「流石はオタクだな!」と上辺だけは褒め称えるように嫌味を言う。クラスメイトの大半も彼らほどあからさまではないが冷笑を浮かべている。
そんな彼らの姿が波菜の目には当然滑稽なものとして映った。
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