第7話 猫ちゃんは探検家



「ふぁぁぁ。おはようございます……」


「おはようございますチュール殿。皆揃っております」

「ありがとうございます、少尉」


 結界に手を当て昨晩の記憶を読み込む。

 夜中に二度、キリコさんが冷めた目で僕を見下ろしていた。


 背中に寒気が走り、彼女を目で追ったが変わった様子はない。


「……」


 気を取り直して広場に向かう。

 昨日と同じ広場に十八名の女隊員が整列していた。


「全体~敬礼!」


 半歩前にでたイライザさんの号令に合わせ、敬礼をおこなう。

 僕は軍人じゃないので軽く手を挙げた。


「なおれ! 休め!」


 ちゃんと指示が徹底されたのか、酒が残っている者はいないようだ。

 隣にいるキリコさんに頷くと、前振りをしてくれる。


 まずは全員と順番に面談を行う旨を伝え、その間、他の隊員には食糧や水の確保など、いつもの業務をとりあえず遂行してもらうよう伝えた。


 ひとりひとり、なかなかにいい眼をしていた。

 一年近く、ここで暮らしている自信だろう。


「解散!」


 隊員たちがばらけていく。

 キリコさんに一人ずつ天幕にくるように指示を出した。



「次」

「ミュー入るニャ」


 猫族の彼女は気になっていたひとりだ。


「座って。……えっとミューさんは斥候が業務ですね?」

「んニャ」


 ここまでの面談した彼女たちの話をまとめると、一年ほど前に中隊二十名で赴任してきたそうだ。

 軍人としては皆優秀なものの、開拓民に必要なスキルは持ち合わせていないとのこと。

 しかし、彼女はその中でもっとも希少で有望な能力を持ち合わせていた。


「ちょっと、チュール、もうようはすんだのかニャ?」

「あ、ごめんなさい、実は……」



 名前 :ミュー・アビニシアン

 種族 :猫族

 年齢 :17歳

 職業 :軍人

 階級 :上等兵

 適職 :探検家/商人/発明家

 婚姻 :ナシ(未通)

 ギフト:“物鑑定”

 強み :好奇心

 弱み :退屈

 HP/350 MP/210

 STR/38

 VIT/91

 INT/59

 DEX/33

 AGI/72

 LUK/90

 ERO/75

 love/♥♥♡♡♡

 B77-W49-H86



 素晴らしい逸材。

 それは“好奇心”と“運”に恵まれていること。

 しかも高いVIT(スタミナ)が下支えしている。


「ミューさん。あなたには探検隊の隊長をお願いしたい」

「探検隊?」


「最高の運のよさと尽きることのない好奇心、そして持ち前のスタミナ。この村に希望を持ち帰る救世主になれます!」

「?」


 その日暮らしではジリ貧になり今年こそ冬を越せないこと、天然資源に頼っていること、維持で精一杯のため積極的に探訪に出れず、何もかもが不足していることなどを伝えた。

 

 大佐が資材や人材を連れてこられない最悪の場合、彼女がいないと全員が……死ぬ。


「うーーん。確かにそうですニャ。だけどミューはただの兵士ですニャ」


 揺れる尻尾と大きな瞳は輝いている。

 あと一押しが必要だろう。


「探検隊の隊長は最高司令官とおなじ権限を持たせるつもりです。お願いします!」

「それはいらないニャ。……そのマントをくれたらやるニャ」


 彼女の物鑑定も優秀だった。

 なぜなら僕の外套は運+5の補正値をもつ逸品だから。


「うふふん! それで何を探してくればいいニャ?」


 彼女は早速、僕のマントを羽織ると嬉しそうに鼻歌を鳴らす。


「そちらは優先順位をつけてリストにしておきますので……。それと隊員を4名付けます。出発は明後日を目途に準備を進めてください」


「んニャ! がんばるニャ! たんけんー♪ はっけーん♪ ミューの森~♪」


 

 ニャニャいいながらミューさんは踊りながら出て行った。

 これで生き残れる確率が大幅にあがったのは間違いない。

 

「少し休憩になさいますか?」


「いえ、あと3人です! 順番によんでください!」


 運のマントは手放してしまったが、まだ僕には強運が残っていたようだ。

 

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