第6話 虎族は感度がいい


「エレナにやったような姑息な手はオレ様には通用しねぇぞ?」


 拳を打ち鳴らし、上着を脱いで半身で構えている。

 イライザさんはこの部隊の近接戦闘の教官をしているらしい。


 対策はすんでいるが、念のためステータスを確認する。

 

 名前 :イライザ・ウッド

 種族 :虎族

 年齢 :24歳

 職業 :軍人

 階級 :軍曹サージェント

 適職 :戦士/闘士/打者ストライカー

 婚姻 :ナシ(未通)

 ギフト:“強打”“強心臓”

 強み :逆境・反攻

 弱み :耳、しっぽ

 HP/900 MP/90

 STR/89+4

 VIT/81+4

 INT/26

 DEX/58+4

 AGI/65+4

 LUK/73

 ERO/88

 Love/♥♡♡♡♡

 B88-W65-H94


 彼女は素晴らしい戦士だ。

 逆境と反攻で能力が底上げされている。

 STR(力)とVIT(スタミナ)を生かした重い一撃を叩き込める本物のストライカー。

 LUK(運)もそこそこあるので思わぬクリティカルを喰らう可能性がある。早めの決着をつけたい。



「はじめ!」


 僕も拳闘スタイルに合わせる。

 爪先立ち、リズミカルに足を動かす。


「ほう、いいねぇ。いくぜ!」


 低い姿勢で突っ込んできた。

 顎を隠し、あえて固い額を前に出している。

 闘い慣れているようだ。


 バシ!

 ドッ!


「オラァ! どうした。ちょこまかと!」


 拳が唸る。

 かろうじて連打を躱しながら回り込もうとするが、驚速のフットワークが許してくれない。


「くっくっ、オレがバテるのを待っているのか」


 いや、彼女は一撃が重くスタミナが無尽蔵という反則級の兵士だ。

 だが、若干卑怯だがこういう闘い方もある。


 何本目かのジャブを避け、本命を待つ。

 ガードの上からでも骨まで響く。

 いいのも2発はもらってしまった。


”まだか”

 

 僕のフェイントを逆に利用しようと、左足が前に出る。

 フェイクのフックをひっこめた。

 くる!

 

 キレイな軌道の右ストレートが顔面を襲う。

 今度はスウェーバックせず、一歩踏み込み左に躱し……切れず頬が擦れる。

 

 肘を畳まれる前が勝負。

 そのまま脇から体を寄せた。

 必殺クリンチ。


「うおっ」

「おおおおおおお!」


 豊かな胸に顔を埋め両手を後ろにまわし抱きしめる。足を脚で絡め、密着したまま股に割入れた腿をこすった。

 体が浮き、ぐいぐいと引きはがされそうになるが肘をあげ離さない。


「おい、離れろ! 変態! んん」


 後頭部をごついてくるが、胸から首に、首からうなじに口を移し、吐息をかけまくり、隙あらば舐める。


「んぁぁぁ! は、離れ……ろ!」


 何度も上下に動きながら身体をこすりつけた。


「てめえ!」 


 顔を付けしがみ付く。

 ビクンと震え、一瞬力が抜けた。


 そのままよじ登り体重をおもいっきりかけ、脇を開けて肘を固める。


「い、いてぇ!」


 その隙を見逃さず、しっぽの根本を握りながら締め上げた。


「あああん! いてて!」


 サブミッションのひとつ後三角締め!

 

「……はやく、降参してください!」


 ごろごろと転がって逃げようとしているが、僕も意地で絡みつく。


「あ、あっ、んぁぁぁっ! くふっ……こ、こうさん」



「……そこまで、勝者チュール殿……」

 

 ぴくぴくと艶めかしく動くイライザさんから離れると、周囲の冷たい視線が刺さりまくる。関節技なんだけど……。


「おお! やったなチュール! 私の言ったとおりだったろ? 軍曹は感じやすいアバズレなんだ。きっと濡れまく――」


 すべてを破壊するアスタさんが飛び跳ねるように駆け寄ってきた。


「ぐほっ!」


 イライザさんの拳がアスタさんの腹にめり込む。


「てめぇ! 余計な助言をしやがって! ブッ殺してやる!」

「ぐぇ、ぐほ、おぎゃぁぁ!」


 ……互角じゃなかったのかよ。



 重たい空気になってしまったが、大佐は気にせず手を叩く。


「どうだ、勝ちは勝ちだ。お前たちこれで分かっただろ? チュール殿の指示にしたがうように」

「「「はっ!」」」


 軍馬に跨る彼女はあっという間に駆けていった。


「ちっ……」

「ふん……」


 どうも空気が重い。

 もうすこしまともな勝ち方をすればよかったかも。



「さて、皆さん、細かい話は明日にして今日は解散にしましょう。アスタさん、僕の運んできた物資を運んでもらえますか?」


「ああ、まかせろ」


 

「それと、エレナさん、イライザさん」


「……なんですの?」

「あ? なんだよ、まだやるのか?」


 二人はイラつきながら僕を睨む。


「勝負は勝ちましたが、戦いは完敗です。実際に命のやり取りをしたら僕は簡単に殺されていたと思います。……今後は実戦で使えるように僕も他の人たちのように鍛えてもらえますか?」


 二人に笑顔が戻った。

 できることならうまくやっていきたい。


「随分とモノ分かりがいいですのね。よろしくてよ」

「ザコが二度とイキがんなよ。……しょうがねぇ、鍛えてやるよ」


「ありがとうございます! 今日は僕が奢らせていただきます!」

「奢る?」


 空間魔法のアイテムボックスから小樽を取り出した。


「おお! わかってんじゃねぇか!」

「イライザ、飲み過ぎはダメですわよ」




 僕は酒を二人に後を任せ、キリコさんの案内をうけて空き家を一つ借りた。


「ありがとうございます。明日の朝、また皆さんを揃えてもらってもいいですか? 面談したいと思っています」

「承知しました」


 珍しい水色の髪に切れ長の瞳、ブレをまったく感じさせない体感と冷静さ。

 仕官位の彼女のほうが僕なんかより、よっぽど頼りになりそうなのに……伝令を勤めているとは何かわけがありそうだ。

 

 名前 :キリコ・キュービル

 種族 :エラドリン

 年齢 :102歳

 職業 :軍人

 階級 :少尉セコンド・ルーテナント

 適職 :暗殺者/狩人/斥候

 婚姻 :ナシ(既通)

 ギフト:“闇討ち”

 強み :冷静

 弱み :慈愛

 HP/564 MP/564

 STR/80

 VIT/73

 INT/87

 DEX/84

 AGI/89

 LUK/27

 ERO/22

 love/♥♡♡♡♡

 B87-W60-H84



「バシリスさんはなぜ有能な彼女を連れて行かなかった……のか」


 彼女が下がるのを確認すると結界を張り、疲れていたのかすぐに寝入ってしまった。

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