第4話 ライカンスロープは強すぎる


 「待たせたな」



 開けっ放しの入口からたてがみのような赤毛の女傑が入ってきた。


「私はここの村長代理、“大佐カーネル”ことバシリスだ。はるばるようこそ」


 僕の倍近い身長だが、細身なのであまり圧迫感は感じない。

 厚い手が差し伸べられ、僕も握手で返す。


「冒険者ギルドからきましたチュールです。こちらこそ入村をお許しいただきありがとうございます」


 名前 :バシリス・オルティア

 種族 :ライカンスロープ

 年齢 :145歳

 職業 :軍人

 階級 :大佐カーネル

 適職 :将軍/狩人/縫製師

 婚姻 :アリ(死別)

 ギフト:“鼓舞””看破”

 強み :即断即決

 弱み :酒、銀

 HP/970 MP/850

 STR/97+5

 VIT/94+4

 INT/51

 DEX/79+10

 AGI/76+10

 LUK/65

 ERO/74

love/♥♡♡♡♡

 B97-W68-H95


 恐ろしい強者だ。

 装備品とパッシブスキルで能力に補正までついている。


 その秘めたる荒々しい力と対照的にホリ深い顔は凛々しく、隻眼を除けば妙齢の美しい女性だった。

 

 円座が敷かれており、座るように促される。

 彼女の後ろに存在感を消して侍る女性は立ったままだった。


「こいつは伝令メッセンジャーのキリコ。隊員への周知役だ」


 軽く会釈を返す。

 彼女たちのことはよくわからないが、とりあえず現状を伝えた。




「……アスタ、どういうことだ?」


 彼女をのぞくと血の気がひいて玉のような汗が額に浮いている。


「答えろ、アスタ」


「……その……」


 彼女は必死にいいわけをしていたが、みるみる大佐の顔が曇る。


 ドコン!


 天幕が破れた。

 彼女はふっとび、となりにはバシリスさんの白い脚が伸びている。


「おまえはクソか?」


「うぐぐ……」

「クソの役にもたたないのか?」


「ま、待ってください、アスタさん! 大丈夫ですか?!」


「うらぁぁぁぁああああ!」

「ぎひひひひひ!」


 さらに飛び膝が入った。

 早いだけじゃない、重い一撃だ。


「オラァ! なんとかいえよ!」

「バシリスさん、落ち着いて!」


 すでにアスタさんは意識はない。

 キリコさんは全く動こうとしないし、大佐は殴り続けている。


 やっと気が済んだのか、拳を張り手に変えて彼女を引っ叩いた。


 パシン!


「いつまで寝てるんだおきろ!」

「う……大佐……申し訳ありません……」



 これはアスタさんのせいだけじゃない、彼女を見張りにした大佐や他の人たちも同罪だろう。

 初日から波乱すぎない?


「バ、バシリスさん、実はその調査も兼ねて依頼されてきているんです。まずはギルドと国にきっちり説明を直接したほうがいいと思います。でないと……」


「ああ、そうだな。領主とギルドへは私が釈明に赴こう。アスタ、寝ぼけてないで私の旅支度を整えろ、それが終わったら資材をすべて運び込め。キリコ、鳩を先に国王宛てに飛ばしておけ。全員を至急呼び戻し広場にあつめるんだ」


「「はっ!」」



「……私が留守の間、任せてもいいか?」

「僕がですか?! む、無理です! 副官や次階級の方は?」


「今回のように上位下達が甘く、存亡の危機に瀕してしまったのは私の指導力不足だ。外からスペシャリストの意見が欲しい」

「え、ちょ、僕はDランク冒険者ですよ?!」


「チュール殿は自覚がないようだが、人族の中では珍しいぐらいに強い。魔力も負けていないぞ。それに……“鑑定”持ちだな?」

「はい、ですが……僕はそれだけの男です……」

 

「ははは。うちの隊はアスタのような脳筋ばかりだし、貴殿のような頭の回転が早いヤツはおらん」

「ですが!」


「事態を考えると……自給自足はいずれにしても近々に果たさないといけない。このままでは数か月が限度だ。私がいない間だけ頼めるか?」


「わ、わかりました」

 

 ライカンスロープの強さを目の当たりにした今、ちょっとちびった僕には断わる勇気はない。


 広場に全員が集まったのはそれから間もなくのこと。


「話と違うんだけど……」


 男の兵士しかいないと思っていたがどうやら全員女のようだ。

 幸い人族はいないようで、ギフトは反応していない。


 僕の紹介にはじまり、現状、そして危機を伝えいるようだがきちんと聞いているとは思えない者が数名いた。


「意見のある者は?」

 

 聞いていなかったひとり、細身のエルフが手を挙げる。

 金髪が美しく、身綺麗にしていた。


「大佐、脆弱な人族、しかも得体のしれない殿方の指揮などまっぴらですわ」


 そうだ、と複数から声があがる。


「そうですよ。オレも自分より弱っちいガキに従えませんよ」


 スタイルはいいが目つきの悪い隊員が追従してくる。彼女は虎族だろう。

 確かに僕は童顔で少年のようにみえるがちゃんと成人している。


「あれで成人してるってよ。ボクちゃん。くかかか!」



「お前ら……私の命に従えないということだな」


 その一言で一気に緊張が高鳴り、バシリスさんの闘気が漏れて空気が揺れる。


「「「「……!」」」」」


 口ごたえをした二人を置いて全員がきれいに一歩下がった。


「て、てめぇら、裏切りやがって」

「そうですわ!」

 

「バ、バシリスさん、僕は平気です。落ち着いてください」

「ちっ、命拾いしたな」


 戦闘狂の彼女をなだめ、二人に向き合った。


「どうしたら僕を認めてもらえますか?」

「そうですわね、あなたが私よりも優れているというのなら、素直にいうことを聞きますわ」

「エレナ、そんなのめんどくせぇ。オレ様がブッ倒してやる」


 エルフのエレナさんは有能さ、金髪のスタイル美女には戦闘能力で勝ればいい、ということだろうか。

 バシリスさんに目配せすると、自分が戦えないくやしさだろうか、残念そうにうなずく。

 いずれ力を示さなければ仲間と認めてもらえないのは分かっていた。

 ならば早い方がいい。


「エレナ、おまえは弓矢と魔法で。いいかなチュール殿」

「構いません」


 大佐の差配に周囲から失笑が漏れた。


「かかかかっ! 大佐、それはないですよ……。エルフのお前に弓と魔法で勝負しろ、だとよ」

「ええ、面白いですね。ちなみに私はどちらもこの隊では一番ですから。うふふふ」


「イライザ! お前とは近接戦闘だ。チュール殿?」

「はい。お願いします」


「ぷぷぷ! 近接戦闘の教官さん、あなたこそ舐められていますわよ?」

「オレ様の拳で分からせてやるから楽しみにしてろ」



 強者しかいない異種族、しかも軍人に冒険者が挑むのは無謀だが、彼女たちの鑑定は済んでおり、すでに光明をみつけている。

 

 果たして上手くいくかわからないがここが正念場だ。



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