第2話 人族は恐れた
僕の人生はギフトに振り回されている。
知り合いの女の子と目が合い会釈を交わす。
ただの生活の一コマ。
だけど僕には重い。
ここからギフトが本領を発揮するのだ。
「チュール君、相談があるの……(中略)お願い……赤ちゃんがほしい」
もうやってられない。
一方的にデートに誘われ、目があえば告白され、触れたら相手は服を脱ぎ、話を聞いたら最後、襲われる。
旦那さん、彼氏さんがいようとお構いなし。
お陰で僕の心も体も傷だらけだ。
人族の女性を単純に惚れさせるギフト【ヒューマンチャーム】は凶悪だった。
幼い頃は誰からも好かれ、ほんとうに嬉しかった。
それから歳を重ねるごとに辛く、思春期を迎えるころには親元を逃げ出し、引っ越しをくりかえすようになってしまった。
冒険者としても定住しないため、地域貢献度が上がらず低ランクのまま。
この歳になると完全に人間不信になっていた。
街を出て二日、隣国へのルートをとる。
その間、刺客といってもチンピラが2回襲ってきたが、返り討ちにできた。
恐らく痛めつけるために派遣されただけで、殺気は感じなかったし、すぐに戦意喪失している。
本物の殺し屋や暗殺者、高ランクの冒険者がやってこないのは、ギルドマスターが手を回してくれたのだろう。
その後、さらに一日前進して追手がいないことを確認すると、一気に転進してひたすら東を目指した。
できるだけ人目につかないように平原を横切り、山脈を
かなり丈夫な荷馬車と頑健な馬はマスターの私物らしく、迷惑料としてもらい受けた。
ほんとうにあの人に頭があがらない。
街道にはもともと魔物は少なく、出てきても低ランクばかりで夜警をしなくてもよく、夜はぐっすり眠れた。
「えっと、昼には原始の森か」
七日目。森の気配が濃くなり、獣たちの奇声が響く。
街道はやがて道が切れ、原始の森に入った。
恐ろしいことに馬車の
「何があった?」
しばらく進むとその先に塞ぐように巨大な倒木が横たわっていた。
「参ったな」
馬を止め、御者台から降りようとしたそのとき、木々の上から女の声がする。
「止まれ!」
止まっているけど……。
「馬車からおりろ! ……いや、やっぱり動くな!」
……このやりとりだけでも嫌な予感しかしない。
とりあえず、武器を手放すわけにはいかないのでゆっくりと御者台から降りた。
道脇の太い木を見上げると、銀髪を後ろで束ねた女性が必死にしがみ付きながらゆっくりと降りてくる。
はためくスカートから褐色の脚がのび、チラチラと……みえる。
“黒! いやそうじゃない、彼女は?”
「そこで待て!」
イライラするぐらい降りるのが遅い。
もういってもいいだろうか。
暇だったので彼女を観察すると、背中が大きく開いたブラトップにアンバランスな
褐色の肌と尖った耳をしているので、推察すると露出好きなダークエルフのようだ。
僕よりも背が高そうで、さらにでるところは出る肉付きをしている。
腰に帯びている二つの曲刀はなんだか格好いいが……あまり体は柔軟ではないようだ。
「聞いても?」
「そこを動くな、といっただろが!」
口も動いてはダメなのか。
やっと地上に降りると今度はこちらにバタバタと走ってきた。
「はぁはぁはぁ、貴様、動いてないだろうな?」
「え、ええ」
存分に動いていたが、コクリと頷くと彼女は満足したのか、急に腕を組み見降ろされた。
「何者だ」
「ぼ、僕はチュールです」
「チュール? そんなことは訊いていない! ふざけているのか、貴様ぁぁぁ!」
何が彼女に火を点けたのか、さっぱりかわからない。
まさにトンチンカンな狂犬。
勝手に吠えているので話をすすめることにした。
「えっと、この先の開拓村に用事がある冒険者です。ところであなたは?」
僕の問いに応えず、
警戒するような動きだ。
妖艶で美形だがなんとなく残念な空気が絶えない。
曲刀に動きやすい服装から前衛戦士、という感じだろう。
「とりあえず開拓村にいかないといけないので通りますよ」
「
なかなかに面倒くさい人だった。
丁度いい、手を借りることにした。
「あっ、すみません。あの倒木、僕一人でも動かせますけど、暇なら手伝ってくれませんか」
「おお、わかった……って、おい! 私の話を聞いていないのか?」
「はいはい、聞いていますよ。その前にあの木が邪魔なので動かしたいんです」
「そうか、わかった……っておい! 邪魔なのは当たり前だろう。あれを置いたのは……ふふふ。何をかくそう私だからな」
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