愛されギフトは迷惑でしかありません~追放冒険者の辺境開拓

@blackpearls

第1話 死罪からの追放

宜しくお願いします!








「待てコラぁ!」

「あっちへいったぞ!」

「ぶっ殺せ!」



「はぁはぁはぁ」


 実力行使。

 痛めつけられる覚悟はしていたが刺されるとは思ってもいなかった。


「いたたたっあ」


 肩口と背中を切られ、脇腹を刺された。

 血が止まらない。


「いたぞ!」

「はぁはぁはぁ、やめてください!」


 袋小路に追い詰められた。

 まだ引っ越して3か月、路地までは覚えきれていない。

 呼吸が荒れ、脂汗が浮かぶ。


「てめぇ。生きて帰れると思うなよ」

「はぁはぁ、僕が、何をしたっていうんですかっ!」


「その自覚のなさが一番ムカつくんだよ。クズがぁ!」


 殺される。

 殴り、蹴られ、意識が飛びそうになる。

 


「まて! お前らやめろ!」


 目が塞がっていてよくみえないが、よく通る声はすんなりと馴染んだ。

 男たちの波が割れる。


 僕は安心したわけでもないが、彼を感じると意識を手放した。

 



「チュール起きろ」

「……う、うう」


 顔を何度かはたかれる。

 ぼんやりと灯りが目に入り、塞がっていたはずの瞼がはっきりとあいた。


「腹の傷は塞いだ。起きれるか?」


 半身を起こすと背の高い偉丈夫が心配そうに僕をみている。


「マスターが助けてくれたんですか?」

「おうよ」


 ギルドマスターはぶっきらぼうだが、冒険者からの人気も高く、剛毅ごうきながら誠実で公平、この僕にもおなじように親切にしてくれる。


「リンチに遭うのは何回目だ?」

「4回目……です」


「そうか。今回は殺されてもおかしくなかった。……理由は……わかっているな?」

「はい。相手が領主の孫娘だということも知っていますし、婚約者がいたことも知っています……ですが、ここまでだと思いませんでした」


 彼女は僕のギフトを誰かから聞いたのだろう。

 興味本位で、遊び半分で僕に出会ってしまった。


「お前さんは……本当に無差別なんだな……。まさか、あのじゃじゃ馬までイチコロとは」


 高慢で生意気な年下の娘だった。

 それだけに抵抗力もなく数秒で僕のギフトに屈してしまう。

 すぐに離れたが……遅かった。


「効果がある人族の時点で僕の過ちです。……ご迷惑をお掛けしました。……それで僕はどうなるんですか?」



 言いにくそうにマスターは腕を組み深いため息をついた。


「はっきりいうぞ。領主様は奴隷落ちを望まれ、婚約者の侯爵家は死罪を要求している」


 僕は甘かった。

 彼女と会った瞬間に、死罪は覚悟すべきだったのだ。

 息が苦しく言葉が詰まる。


「だがギルドとしては異議がある。侯爵家が冒険者たちを扇動してお前を襲わせた証明もできるし、一切お前自身に落ち度はない。とくに鑑定眼を生かした素材集めや人物評で固定客がすでに数名ついている優等生だ。…………それだけに惜しい」


「……マスター」


 それは死罪を宣言されたようなものだった。

 なんだろう。お腹の底が冷たい。


 マスターが耐えきれなかったのか、頭を下げた。


「俺たちはお前さんのギフトのことは聞いてこの街に受け入れた。それにも関わらず排除するなんて……本当にすまない」

「あ、頭をあげてください! マスターはよくしてくれますし……仕方ありません」


 沈黙に時間だけが過ぎていく。

 僕は逆に覚悟がじわりと浸透して、気分はだいぶ落ち着いた。


「……マスター、出頭して――」



 彼は”そうだ”といいながら机を叩くと嬉しそうに立ち上がり、声を張った。


「――ま、待て! チュール。お前を追放する!」




「へ? ……追放?」


「ああ、ここから一歩でもでれば守ってやることは不可能だ。地下牢に移されても文句は言えない。問答無用で殺される確率が高いんだ。……であれば彼らに先んじてギルド長権限でお前を追放刑にしてしまえば……後はお前の運次第で他国に逃げることもできる。どうだ?」

「そんなことが可能なんですか?」


 彼はうなずくと書架からめあての本を持ち出し、該当の条例を探し当てた。


「みろ。間違いない」


 確かにギルド長権限で脅威者にたいし裁判を待たず、追放刑に処する旨が記載されていた。


 どのみちここにいたら殺される。

 もう僕には人間とうまくやっていく自信がない。


 そう思うとドッと感情が湧きだし、マスターへの感謝で自然と涙が溢れる。

 

「お、おい、泣くな。それに道中襲ってくる可能性だってまだあるんだぞ」

「う、うう。それでもこんなに良くしてもらって……ありがとうございます」


 マスターは僕の頭をポンポンとたたき、優しい声を掛けてくれる。


「まだあるぞ! チュール、他国へ逃げるのも手だが……これをみろ」


 ギルマスは書類の山から一枚の紙を取り出した。

 ぼやけた視界でのぞきこむと”急募・冒険者!”と書いてる。

 


「東果てにある“原始の森”は知っているな?」

「え? ……はい」


 魔素が森を包み、魔物が跋扈ばっこする人知の及ばぬ森。

 うわさではまだ見ぬ異種族や異民族が数多くいるというランドオブカオス混沌の大地とも呼ばれている……けどただの辺境、ド田舎だ。


「ここはどの領にも属さない。絶賛開拓中の治外法権地だ。追っ手はこない」

「!」


 マスターはどことなく悪い笑顔で返す。


「しかもな。先遣隊として赴任しているのは異種族ばかりで構成された特殊部隊だ。仮に女がいてもギフトは発動しない」


 先遣隊……でも後続の入植者がきたら同じじゃないだろうか。


「その心配も無用だ。いずれ異種族だけの村にする予定だ。お前も顔を隠さず暮らしていけるぞ」

「ほ、ほんとうですか!」


「ああ、ただな……物資や入植者の移住が滞っている。正直、このままでは今年の冬は越せそうもない。だからこそ先方は経験豊かな冒険者の到着を望んでいる」


 マスターは一呼吸いれると僕の腕をさらに叩く。


「そういうことだ! ギルドカードは失効するが、出向命令は追放の前に発布したことにしてやる。胸張っていってこい。お前が代表だ」

「マ、マスター!」




 こうして僕は死罪を免れ、無事に追放されました。

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