第173話 説明パート其の五


「あーあ、まぁ確かに耐久度がかなり減ってましたからね。流石に鋼鉄製とは言え、魔導アーマー専用の、しかもレア等級の鋼鉄製では、残りの耐久度は耐えられませんでしたか。申し訳無い。しょうがないですね、気にはなっていたので折角の機会ですから修理をしてしまいますか」


そう言って、全く空気を読まずに武器作業台を設置すると、未だ茫然自失なブリアンの手からそっと聖剣を抜き取り、武器作業台のスロットに放り込む。表示上は耐久度0のオリハルコンの剣と表示をされているので、問題無く修理は可能の様だ。

そのまま修理に必要なオリハルコンのインゴットを放り込み、一瞬で修理を完了させる。剣先の方は修理に必要では無かった。なにかしら使い道はあるだろう。研究用とか? まぁ後で引き抜いて、処分は任せる事にしよう。


幸いな事に武器作業台から取り出した聖剣は、造形に変化は見られなかった。これでゲーム仕様の造形に変更になっていたら正直目も当てられなかったから、内心はホッとした。


まだ同じ体勢で固まっているブリアンの手に、聖剣を戻しておく。


「アルマンさん、魔道アーマーは如何でしたか?」


「いや、ちょっと待てよ! そうじゃないだろ! さすがにこれはおかしく無いか?」


おかしく無いか? と聞かれても困る。折れた事だろうか、それとも修理をした事だろうか。


聖剣がギルドの象徴とは言え、何もずっと飾られていた訳では無い。何度となく魔物相手に使用されたのだろう。ゲーム的には使用する度に、武器の耐久値が減少をしていく。それが1000年だ。正直今まで姿形を保っていた事の方が奇跡に近い様に思える。


修理して耐久度が100%になった状態を見れば、先ほどまでの聖剣がどれ程ぼろぼろだったかが解ると言う物だ。正直、何時壊れてもおかしくはなかった。そこにきて、巨大な鋼鉄製の剣に全力で叩き付けたのだから、幾らオリハルコン製とはいえ折れてしまうのも致し方ない。


武器の耐久度は、攻撃をした相手の防御力や強度、耐久力に比例して損傷する。さすがに格で大きく劣る鋼鉄製とは言え、レア等級である事に加えて魔道アーマー用の特大サイズだ。耐久力は質量に比例して増えるので、通常サイズの6倍強。強度ならコモン等級のミスリル製品を上回る程だ。


「おかしくは無いかと言われましても、既に壊れる寸前でしたからね。修理の仕上がりがご不満でしたでしょうか? 傷も無く、新品同様かと思うのですが? 何か問題でも?」


「嫌、その、確かにまるで新品の様だ。でも、違う、そう言う事じゃ無いんだよ!」


多分、今まで溜め込んでいたのだろう。それが、聖剣が折れるというあってはならない事態に直面して、堰を切ったのだと思う。卓也には今一ピンと来なかったが、周囲に居るメンバーは、凡そ正確にブリアンの心情を理解していた。


否、卓也だって本当は解ってはいる。だが、そんな反応も今までに何度も目にしてきたのですっかり慣れてしまっていたのだ。自分で同じ様な体験をしたかそうで無いかで、感じ方に差が出てしまったのだろう。


「ブリアン様、諦めましょう。この方は、我々がどう想像をしても、その遥か上を越えられるお方の様です。人の身で推し量ろう等と、土台無理だったのでしょう」


言外に人では無いと言われている訳だ。その言葉に皆うんうんと大きく頷いているのを見ると、何だか釈然としない気持ちになる。


「魔道アーマーは恐ろしいですね。色々と違和感は有りましたが、恐らく慣れてしまえばもっと柔軟に動けるのでしょう。確かにこれがあれば、超大型種とて敵では無いかも知れません」


超大型種にも色々と種類がいるので、実際には対策が必要だったり、相性があったりはする。例えばデミリッチの様に剣だけではどうにもならない場合もあるが、ブリアンも比較的与しやす部類の超大型種であれば圧倒できるだけの実力がある。そのブリアンを圧倒するのだから、当然大抵のフィールドボスなら対処は容易な筈だ。


アルマンも多少の心得はあるものの、ギルド職員としては最低限の実力だと自覚をしていた。自分程度の実力者なら探せば幾らでも居る筈だ。それに、最近のアマテラスには名の通った冒険者が多数志願している事も既に把握をしている。その全てが魔道アーマーに搭乗をしたのなら、恐ろしい戦力になるだろう。しかも、先ほど試したのはあれで最下級なのだそうだ。上の騎士級、さらに一回り大きい重騎士級ならどれ程のものか。想像するだけで恐ろしかった。


当然その実力を体験してしまえば疑問が生じてしまう。この戦力を帝国に充てたらどうなるだろう? と。

だが、それはあってはならない。帝国との戦いは、ギルドと帝国との、ひいては大陸と旧文明との戦いだ。この力は明らかに人知を超えた力だ。勝利は自分たちの手で掴まねばならない。だが、その力は余りにも甘すぎる誘惑でもあった。


だからこそ、アマテラスは中立を宣言するのだろう。その力とどの様に向き合うのかは、慎重に考えなければならない。それに、ギルドが禁じていた失われた魔導文明の技術。災厄を呼び込み世界に魔物を蔓延させた禁忌に抵触するのではないか。その一抹の不安は拭えなかった。


「卓也様、我らギルドの至宝である聖剣を修復して頂き、誠にありがとう御座います。このお礼は必ずや」


「いや、そこは気にしなくても良いですよ。最終的に折れてしまったのは俺の責任みたいなものですし。ギルドとの関係構築の一助となれば幸いです」


「そうそう、小さい事を気にしていたら、疲れるばかりですよ?」


とはトリスタン陛下。さすがにそれもどうよと思うが、まぁ何時迄も気にされるよりは良いだろう。


聖剣が折れたのは小さな事? と誰かが呟く小さな声を拾ったが、あえてスルーを決め込む。


「時間も押しますし、詳細についての検討は後にして貰って、折角だからドレイク討伐の見学もお連れ致しますね」


そう言って、背中を押す様にして火口へと案内をする。

陛下や教皇は既に見学をした事があるので、今回はギルド本部メンバーの3人の内、アパッチの定員を考慮してブリアンとアルマンの2人。ソニアは残って、もう少し野菜や果物を味わってみたいとの事。


魔導アーマーの実演を兼ねてなので、ドレイク討伐はオーギュストさんに任せる。アパッチが飛び立つと、合わせて魔導アーマーが大地を疾走する。アパッチの最高速度は200kmを超えるが、聖騎士級の魔導アーマーなら問題なく並走する事が出来る。


散発的に襲い掛かってくる上級大陸の魔物を、速度を落とす事なくすれ違い様に切り捨てていく。アマテラスで主力を張るメンバーの装備はミスリル製にアップグレードをしているので、正直上級大陸の魔物ならドレイクを除けばどれも一太刀で事足りる。


余談だが、先ほどの拠点には当然城壁に沿って迎撃装置を設置しており、襲い掛かる魔物を今も現在進行形で逐次討伐している。その為、拠点の周囲には結構な数、魔物の死体が転がっていた。


ブリアンとアルマンもその気配には気づいていたが、上昇するアパッチから拠点を見下ろした時に、拠点の周囲を囲うように魔物の死骸が転がっている状況には驚きを禁じ得なかった。ギルドの職員であれば、大陸に住む魔物なら基礎知識として大抵は頭に叩き込んでいる。その記憶と照らし合わせて見てもまるで該当する魔物に思い至らなかったから、ここがブリアント大陸では無いのは本当の事なのだろう。まぁ、聖剣が折れて、その後に新品同様に生まれ変わった事と比べてしまえば些細な事だ。


だから、オーギュストさんが火口に到着するや否やファイアドレイクをものの数分で打ち倒して見せた事も、正直余り驚きを感じなかった。ブリアンとアルマンは、既に幾重にも重なる衝撃で精神や感情が半ば麻痺をしていたからだ。


その後卓也は魔物の解体を実演して、説明を行う。魔石(中)はドレイク1体あたり、1~3個程度の頻度で採取出来るのだそうだ。彼らにとっては、それも随分とおかしな話だった。


そもそも魔石は、体内を血流に乗って巡る魔力が結晶化して出来た物だ。その為、心臓部分に魔石は生じる。つまり心臓代わりなので、あっても魔物1体あたり魔石1個が常識だった。それがドレイク1体あたり1~3個採取が出来る等、まるで意味が解らない。


そうして、現地を視察したり、説明を受けたり、魔導アーマーの試乗を経て、2時間程で会議室へと帰ってくる。ギルド本部の面々はすっかりと疲れ果てた様子で、椅子に深く腰を落として項垂れていた。ただ、比べて見ればソニアさんだけは少し元気そうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る